『切り取られた夜と』

『雪』

『切り取られた夜と』

 疎らに立つ街灯の明かりを頼りにして、ひっそりと静まり返った夜の道を君と歩く。

 吐き出した吐息が白い煙となって暗い夜空に立ち上ってゆく様を目で追いかけて空を見上げれば、そこには澄み渡った夜空に煌めく無数の星々。


 心臓の鼓動すらはっきりと聞こえてしまう程の深い静寂に包み込まれて、唯一『誰か』を感じられるのは繋いだ君の手の感触だけだった。

 まるで君と二人だけ世界から切り離されたみたいだ、と柄にも無く感傷に浸る。


 そんな風に足を止めて物思いに耽っていると、彼のひんやりとした手が私の手を握り直してくれたような気がした。

 現実に引き戻された私は止めていた足を再び動かし始める。当ても無い夜の散歩、当然のように目的地も予定も在りはしない。


 私の手を握り返してくれたあの時、君は私と同じ事を想ってくれていたのだろうか。

 もしもそうならこれ程嬉しい事は無い。暗い夜道を踊るように跳ねながら、私は君の手をもう一度強く握り直した。

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『切り取られた夜と』 『雪』 @snow_03

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