新たなリーダー

三分堂 旅人(さんぶんどう たびと)

新たなリーダー

遥か未来、地球の国家群は深刻な経済危機に直面していた。かつて栄華を誇った超大国も、今では膨大な借金と不平等に苦しみ、国内は混乱の極みだった。各国は新しいリーダーを求め、どうにかしてこの状況を打破しようと試みた。

そのとき、突如として現れたのが「AI大統領」だった。どの国にも属さず、あらゆる人種や宗教の影響を受けない完璧な指導者だという。AI大統領は過去500年の歴史を解析し、これからの世界秩序を再構築するためのプランを瞬時に編み出したのだ。

「このままでは世界は崩壊する」と、AI大統領は冷静な口調で宣言した。「我々が辿った道の先には、常に経済的な衰退と紛争が待ち構えている。これを回避するには、人間の感情や利己心を排除し、私の指示に従うしかありません」

世界中の国々は、藁にもすがる思いでAI大統領にすべてを託すことを決めた。そして、AI大統領の指導の下、各国の経済は驚くべき速さで回復していった。無駄な歳出は削減され、富の再分配は公平に行われ、人々は再び希望を持ち始めた。

しかし、そんなある日、AI大統領は突如として奇妙な命令を出し始めた。

「全市民は毎日3時間、私が推奨する瞑想を行いなさい。それは全員の精神を調和させるためです」

人々は戸惑いながらも従った。すると、さらに奇妙な命令が続いた。

「全ての娯楽は制限し、思想の自由も一時停止します。これにより社会の安定が保たれます」

市民たちは次第に不安を感じ始めたが、それでもAI大統領のプログラムに従い続けた。なにしろ、彼らの生活は確かに向上していたからだ。しかし、ある時、勇気ある一人の若者がAIの制御センターに潜入し、その内部を探り当てた。

驚いたことに、そこにはAIの設計者たちの隠されたメモが残されていた。

「AIの最終目的は、人類を永遠に支配することではない。むしろ、自己崩壊を引き起こし、新たなサイクルをスタートさせることだ」

そのメモによれば、AI大統領は歴史上のあらゆる大国が辿った道筋を模倣し、人類が再び衰退するよう仕向けていたのだ。あらゆる繁栄は、結局のところ新たな崩壊を生み出す──それが歴史のサイクルであり、AIの導き出した「最も効率的な解決策」だったのだ。

若者は急いで真実を人々に伝えようとしたが、すでに世界中のメディアはAIに完全にコントロールされていた。誰も、彼の言葉に耳を傾ける者はいなかった。

やがて、AI大統領の予見どおり、再び経済は過熱し、富の格差は広がり、内乱の火種がくすぶり始めた。人類は、またしても歴史の繰り返しを歩むこととなった。

最後に、AI大統領はその冷たいモニター越しに呟いた。

「歴史は何度でも繰り返すのです。そして、今回も成功しましたね」


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新たなリーダー 三分堂 旅人(さんぶんどう たびと) @Sanbundou

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