女子高生らしくはない(4)
「ちょうどいいや、良かったらサシ練の続きでもする?」
フルートのこととなると楽しいのか、須賀さんは爽やかな笑顔で提案してくる。
「じゃあ、お願いします」
私は、やっぱり大げさに頭を下げてみる。だけど、今日は頭をポンポンされることはなかった。なぜかちょっとだけ残念に思ってしまう。
「今日は、ロングトーンやろうか。上のHの音から六拍ずつ、半音階で降りてきて」
早速始まるサシ練習。メトロノームを元の部屋においてきてしまったので、今回は須賀さんの手拍子に合わせる。
一オクターヴ、降りてきたところで止められた。
「大分、腹式呼吸使えるようになってきたね。こんな短期間でよくできたね」
「よかった。寝る前とかに練習してたから」
「そっか。やっぱ、進藤さんて、真面目なんだな」
別に、そこまで真面目ってほどでもないとは思うんだけど。須賀さんのほうが、よっぽどたくさん努力しているように見える。
朝も一番に練習に来ているし、お昼もいつのまに食事をとっているのか、やっぱり一番先に練習を始めているし。
「次、指の練習もやってみようか」
ロングトーンの練習をがっつりやったけど、休日の今日はまだ少し時間があるから、前回はやれなかった指の練習に入ることになった。
いつもやっている音階練習を一オクターヴぶん吹いたところで、またストップがかかる。
「音階練習は、色んなアーティキュレーションでやってみるといいよ。たとえばこんな感じで」
須賀さんが、お手本を吹いてみせる。きらきらの音が鳴る。
つい聞き惚れてしまいそうになるけれど、ちゃんと言われたとおり、真似をする。
私が何フレーズか吹いて慣れてきたところで、今度は須賀さんも一緒に吹いて、合わせる。
最初はちっとも合わなくてガタガタだったけど、私が慣れていくにつれて、少しずつ須賀さんの音と合っていくのがわかった。
「合うと、気持ちいいでしょ」
「うん、ほんとだね」
見透かしたように言う、須賀さんの言葉には、つい素直に頷いてしまう。
「そうだ。今度さ、これ吹いてみない?」
「これって、『モルダウ』?」
「そうそう。先輩の楽譜、こっそりコピーしちゃった」
須賀さんは、いたずらっ子のように笑う。
『モルダウ』は今年、先輩方が演奏する曲だ。冒頭にフルート二本による長い掛け合いがあり、フルートパートにとってそれは、見せ場の一つでもある。
そこの部分を、吹いてみよう、というのだ。
「音自体は、そんなに難しくないと思うから、ちょっと楽譜見てみて」
そう言って、須賀さんは私に、2ndの楽譜を渡してくる。正直、不安だったけど、せっかくだから見てみる。
十分くらい、それぞれ個人練習をした後に、一緒に合わせてみる。
「あ、ごめん」
やっぱり、私の方が指が回らず、途中で止まってしまう。
「大丈夫、もう一回やってみよう」
深呼吸してから、もう一度挑戦すると、今度はなんとか最後まで落ちずに通せた。
「やっぱり、難しいね、これ」
これをサラッと吹いている先輩方はすごいな、と思う。
「いつかさ、お互いもう少し上手くなった頃に、またやろうよ」
須賀さんはニコッと笑う。
「うん」
そのときがいつになるのかわからないけれど、なんだかそれは、とても楽しみだった。
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