藤堂高虎~乱世を生き抜いた男~
阿弥陀乃トンマージ
初陣にて
序
「……」
「黙り込んでどうした、与吉」
鎧に身を包んだ中年男性が、大きな体をした少年に声をかける。体つきこそ大人顔負けではあるが、顔立ちにはまだ若干の幼さを残していた。少年はややムッとしながら答える。
「……父上、それがしはもう与吉ではありません」
「ははっ、そうであったな」
父上と呼ばれた中年男性は笑う。この中年男性と少年は親子の間柄のようである。
「………」
「さっきから何を黙っておるのだ?」
「武士として、このような場でぺらぺらとおしゃべりする教えはたまわってはおりませぬ」
「ふむ、それはそうだがな……」
父は顎をさする。
「…………」
「なに、雑談のひとつくらいは良かろう」
「良くはありません」
「生真面目だのう……誰に似たのか……」
「父上でなければ、きっと母上でしょう」
「ははっ、それはそうかもしれんな」
「……へらへらしているのはどうかと思いますが?」
「……緊張をほぐしておるのよ」
「緊張?」
「左様。肩に余計な力が入っていては、力を発揮することもままならんからな」
「力を発揮するのならば、全身に力を漲らせておくことこそが肝要なのでは?」
「余計な、と言ったであろう。適度に力は抜いておかねばならん」
「ふむ……」
「とくにお主はその巨躯じゃ、全身を上手く扱う為には、ただひたすらに力任せではいかん」
「むう……しかし、どうしても力は入ってしまうものです」
「何故に?」
「知れたこと。此度の戦は我ら浅井方にとってはとても大事な戦……相手はあの
「そして?」
「この
高虎と名乗った少年は槍を持つ手に力を込める。高虎の脳裏に昔のことがよぎる……。
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