隠された愛しさ

青藍

隠された愛しさ


藤原陸人は、大学生活を静かに過ごしていた。目立たない存在で、友達も少なく、毎日淡々と授業を受ける日々。恋愛に対しては無関心ではないものの、経験が浅いため、どこか遠い世界の話のように感じていた。


そんなある日、図書館で本を読んでいると、ふと声をかけられた。


「藤原くん、こっちに来て一緒に勉強しようか?」


その声の主は、学内で誰もが知っている人気者、高岡美咲だった。彼女はいつも明るく、誰にでも優しく接しているお姉さんタイプ。しかし、陸人に対しては他の誰よりも特別に接しているように感じる。最初はただの気まぐれだろうと思っていたが、美咲は毎日のように彼のそばに現れるようになった。


「藤原くん、今日も一緒にお昼食べようね!」


その一言に、陸人は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。美咲の優しさと笑顔に、少しずつ惹かれていく自分がいた。


美咲の存在が、次第に陸人の日常を占めるようになった。昼食や勉強を共にする時間が増え、彼女の気遣いや愛情を深く感じるようになる。しかし、少しずつ気づき始める。美咲が他の女性と話す陸人に対して、急に冷たくなることが増えてきた。


ある日、陸人が友人と話していると、美咲が不機嫌そうにやってきた。


「藤原くん、そんなに楽しそうにして、他の女の子と話しているのね。私がいるのに…」


その声には、どこか不安げな響きがあった。


「え、いや…別に大した話じゃないんだ。気にしないで。」


美咲は目を伏せ、しばらく黙っていたが、やがてゆっくりと話し始めた。


「でも、私、藤原くんに他の女の子が近づくのが嫌なんだよ。だって、藤原くんは私だけのものでしょ?」


その言葉に、陸人は驚く。彼女がそんな風に思っているとは予想していなかった。


「え、でも…それは…」


「藤原くん、私だけを見ていてほしいの。」


美咲の目には切ないほどの感情が映っていて、思わず言葉を飲み込んだ。これまでの優しさに包まれていた彼は、少し戸惑いながらも、心のどこかで美咲を受け入れている自分を感じていた。


日が経つにつれて、美咲の独占欲はますます強くなっていった。陸人が他の女子と話しているだけで、何気ない一言でさえ美咲を不安にさせる。それは最初のうちはただの小さなケンカだと思っていたが、次第に彼女の反応が異常に感じられるようになった。


「藤原くん、またあの子と話してたでしょ?私がどんなに心配してるか分かる?」


美咲は目に涙を浮かべながら、陸人にすがりつく。


「ごめん、気をつけるよ…。」


「でも、私だけを見ていてほしいの。あなたが私のものになれば、誰にも取られることはないんだから。」


その言葉に、陸人は不安と戸惑いを感じる。美咲がこんなにも自分に執着しているとは思わなかった。だが、彼はその愛情にどこか安心感を覚えてもいた。


美咲は次第に、陸人が他の女子と接するたびに、より強く求めるようになった。彼の一挙一動を監視し、常に自分のものだと証明したがるようになった。それはまるで、愛情の裏に隠された支配欲のようだった。


ある日、美咲が陸人を図書館に呼び出した。


「藤原くん、今日は私と二人きりで過ごしたいの。だって、あなたが他の女の子と話してると心が壊れそうで…。」


その時、彼女の目は完全に異常な輝きを放っていた。陸人はその視線に震えながらも、答えた。


「美咲、ちょっとそれは…」


美咲はすぐに陸人の唇を奪う。


「もう、他の誰にもあなたを取らせない。藤原くんは私だけのものだから。」


その瞬間、陸人は彼女の手のひらで完全に染められたことを感じる。彼女の愛情、執着、独占欲。すべてが彼にとっては魅力的であり、同時に恐ろしいものでもあった。


美咲は陸人にすべてを求め、彼はそのすべてを受け入れていった。どこかで彼女の異常さに気づいてはいたが、それを恐れるよりも、美咲の手のひらにすっかり依存してしまっていた。


それから数週間後、美咲と陸人はまるで誰にも触れられない二人だけの世界を築き上げていた。美咲はますます陸人に執着し、彼が他の誰かと話すたびに、まるで壊れそうなほどの激しい感情を見せる。しかし、陸人はそんな彼女の愛を全て受け入れ、二人の関係はますます深く、そして閉じたものになっていった。


美咲の独占欲は決して収まることなく、陸人を完全に支配し続ける。陸人はその支配に依存し、もはや他の世界を必要としなくなっていた。

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