短編オムニバス

@Strn99

PM8:00、とある駅で。

朝起きて鏡を見る度に、いつもひどい顔だと思う。

ひどい顔のまま顔を洗い、白湯を飲み、朝食を食べて、アパートを出て電車に乗る。

休日以外はその繰り返し。


あーあ、今日も誰とも話せず、結果も出せず何も生み出せず、上司から小言を言われるのかな。

入社した頃はもう少し希望を持っていただろうか。今より仕事も苦じゃなくて簡単で、皆も優しくて・・・。

電車を待ちながら電線にとまった雀を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。


「相変わらずひどい顔ですね、お姉さん。」


ぼんやりとした思考に、凛とした声が差し込まれる。

いつも出社の時に一緒になる女の子だ。近所というか同じ階に住んでいるので出社の時に顔を合わせることが多い。


「はは・・・、昨日遅くまで仕事しちゃったからね。」

嘘だ。本当は仕事は手に付かなかったし、その腹いせで夜遅くまでゲームしたりしていただけだ。

でも希望に満ちた少女に、そんな現代社会の絶望の煮凝りを見せるわけにもいかず、私は見栄を張った。


「嘘だぁ。どうせ遅くまで遊んでたんでしょ。」

ばれてる。慧眼かよこの娘。

彼女がどんな仕事をしているのか、そもそも就職しているのか学生なのか・・・深く聞いたことはない。

それでも他人をよく見ているな、と思う。

唐突に隣に立っていた彼女は距離を詰めた。「オオぅ」とコミュ障全開でたじろぐ私を一瞥して、彼女は言った。

「何やってても別にどうでもいいですけどね、無理して体壊したりしちゃだめですよ!」


「・・・・・・・・・はぁ。」


寒かったのに顔が熱い。会議の前じゃないのにどきどきしている。

気が付くと私たちの乗る電車が来ていた。

彼女はこちらを見て微笑んだ後、電車の奥の方に入っていった。


電車に乗って降りるまでの記憶がない。

出るときに彼女から手を振られた気もするが。


「・・・・・・・・・はーーーーー。」

眉間に手を当てて、私は深くため息をついて、今一度前を向きなおした。


「今日の仕事、頑張るかぁ。」

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