イデラ物語−3
真倉マリス
第1話 死
朝起きて、学校に行き、食べて寝る。それが繰り返されるだけの平凡な毎日。
別に普通が悪いというわけではない。友達がいないわけでもないし、むしろ、それなりに安定した生活とも言えるだろう。
だが、なんせ味がしない。刺激がない。それに、複雑な人間関係に巻き込まれて、神経がすり減る毎日を過ごしていた。
でもどうだろう。俺以外の高校生は皆活気に溢れている。人生を歩んでいることをとても楽しそうにしている。そんな様子を見ていると、俺が生きる意味がわからなくなる。
そんなことを考えながら学校に行くと、見慣れない車があった。迷彩柄の装甲車。軍隊のもので間違いないだろう。
教室に入り、朝のホームルームが始まる。そのときに、軍人が一人入ってきて演説をしだした。
軍人「お国は義勇兵制度というものを始めた。希望する者は君たち高校生でも軍隊に入ることができる。この中でお国のために戦いたい者は挙手をしろ!」
教室がざわざわし始めた。
「そんなの誰が行くって言うんだ。」
「おい、お前手挙げてみろよ。」
「好んで死にに行く奴なんていないだろうな。」
高校生もそこまで馬鹿ではない。ここで手を挙げれば自殺するのと同じだということがわかっている。
だが、俺には魅力的に見えた。いつもの単調な生活に飽きていたし、生きることに希望をみいだせなかったから、死ぬにはいい機会だとも思った。
「おい、あいつ見ろよ…」
「まじか、手挙げてるぞ…」
軍人「よくぞ勇気を出して手を挙げてくれた。君を軍隊に歓迎する。戦いでも勇気を振り絞って、俺たちと共に勝利を掴むぞ!」
目が覚めた。まだ夢の中にいる気分だ。
やがて現実を理解してきて、今のが走馬灯であることを知った。
俺は戦場となっている森林のど真ん中で寝ている。まだ近くから銃声が聞こえる。このままでは誰かに殺されてしまう。
そう思って逃げようとするが、思うように体が動かない。胴体に鉛玉を受け、高所から転落しているのだから無理はない。
そうか、俺はここで死ぬのか。
そんなことを思っていると、目の前に小さな洞穴を見つけた。
それになんの希望を抱いたのか、俺は本能のままに残った力を振り絞り、その洞穴へと這いつくばった。自分で望んだ死のはずなのに、ここまで生に執着することに、自分でも気持ち悪いと感じた。
やっとの思いで洞穴に入ってみると、中は意外にも広かった。助かりたい一心で奥へ奥へと進んでいく。
だが、ついに俺の力が尽きた。もう体が動かない。
「まだ死にたくない…」
もしできるのなら、生きる意味がわからないから死にたいと言っていた昔の俺をぶん殴ってやりたい。
”死”を何も知らないのに、そんなこと言ってんじゃねえと。
そう、よっぽどのことがない限り、生より良い死などないのだ。もし二度目の人生を歩めるのなら、今度は自分で命を捨てるような真似は絶対にしないのに。
生命の灯火が消えようとしているとき、眼前に小さな光が見えた。それはこちらへと近づいてくる。
妖精…例えるならこの言葉が適切だろうか。おとぎ話にでてくるような、得体のしれない生物が、赤紫色の光を出しながらこちらに近づいてきた。
???「お前、人間か?」
脳内に直接語りかけられているような感覚だった。
???「私は
夢幻鏡、なんだそれ。現実世界とは思えないこの状況で、俺の頭は回転することをやめていた。
彼(?)は話を続ける。
夢幻鏡「お前、外傷がひどいようだな。そのままではいずれ死んでしまうだろう。だが、ここで俺と契約して夢幻鏡の力を引き継げば、お前の傷も治してやろう。」
「助かることができるのか?」
夢幻鏡「ああ。契約したらの話だがな。」
俺がその契約を許諾するのに、時間はいらなかった。
「よくわかんねえけど、助かるって言うのなら何でもやってやる。その契約とやらを結ぶぞ。」
夢幻鏡「よくぞ言ってくれた。では契約内容を確認する。この契約を結ぶことで、お前の”鏡の器”に夢幻鏡の力を注ぎ込む。これによりお前は夢幻鏡の継承者になり、俺は夢幻世界の権限を得ることができる。感覚共有とシンクロはありだ。
「何言ってるかわかんねえがOKだ。」
夢幻鏡「契約成立だ。手を差し出せ。”血の契約”を結ぶぞ。」
俺は血みどろの右手を差し出した。夢幻鏡も同じように手を伸ばした。
すると、夢幻鏡が眩い光を出し始め、その光は俺の傷口から血の中へと入り込んでいった。
あっという間の出来事だった。右手を見ると傷口は全て塞がっており、動かなかった体も軽くなっていた。
「すげえ、本当に治ってる。」
夢幻鏡「これによりお前は夢幻鏡の力を使えるようになった。試しにやってみろ。右手に力を凝縮させ、時空を切り裂くように手を振るのだ。」
よくわからないが、言われた通りに思いっきり手を振ってみた。こんなので何かできるのかと思っていたが、目の前には赤紫色の別世界が広がっていた。
「な、なんだこれ…。」
夢幻鏡「それが夢幻鏡の力だ。夢幻世界への扉を自由に開くことができる。自由にとは言ったが、力の根源は血の中にあるから、血が通っている場所からしか使えない。夢幻世界というのは、この世界とは別の世界だ。開いた扉から中に入ることもできる。夢幻世界の中では、夢幻鏡の継承者のみ自由に動くことができる。そういったところだな。」
「そんなすごい能力、俺が使えるのか…」
夢幻鏡「そうだ。その代わり、お前には手伝って欲しいことがあるのだ。えーと、お前、なんて名前だ?」
そういえばまだ名乗っていなかった。
宮城「俺は、宮城健だ。お前の名前は?」
夢幻鏡「名前か…。今はない。夢幻鏡とでも呼んでくれ。」
宮城「今はないってなんだ?昔はあったのか?」
夢幻鏡「そうだな、確かに昔はあった。だが、今はもうその名前を名乗る必要はない。だから夢幻鏡でいい。
そう、そんなことはどうでもよくて、宮城、お前に手伝って欲しいことが…なんだ?」
俺も、後ろから物音がするのに気づいた。振り返ると、そこには負傷した兵士がいた。
それも、敵軍の兵士だった。
イデラ物語−3 真倉マリス @maguramalice
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