イデラ物語−2

真倉マリス

第1話 覆面の騎士

 じゃあな、また特出とくしゅつで会おうぜ。











宗方「どうした、神代。」


 声をかけられてはっとした。


神代「私、何かしてましたか。」

加藤「なんかお前、ぼーっとしてたぞ。」

神代「ああ、少し考え事をしていただけです。」

加藤「本当か?お前、いつもは何にも考えてないような顔してるのに。」


 加藤さんはアホ面をすると、

「お前の真似だ」

 と言ってきた。


神代「...うるさいですよ。」


 彼の実力は認めているが、こういう面倒くさいところは早く直してもらいたい。


片瀬「かとちゃん、結ちゃんのこといじめちゃダメでしょ。」

加藤「なんだよ、ちょっといじっただけじゃんか。」

宗方「加藤、面倒くさいって思われるぞ。」


 もう思ってます。


片瀬「龍ちゃんも結ちゃんが可哀想って思うでしょ?こんなに可愛い子をいじめるなんて本当にひどいわよ。」


 そう言って私に抱きついてきたのを、私は何も言わずに振り解いた。

 片瀬さんは私に好意を持ってくれているらしいが、彼女にも面倒くさいところを早く直してもらいたい。


宗方「片瀬、お前も面倒くさいって思われるぞ。」


 もう思ってます。


 宗方さんだけは真面目でよかったと、心の底から思っている。宗方さんが班長じゃなかったら、私は今ごろこの班にはいなかったかもしれない。






 突然、部屋の中にサイレンの音が鳴り響いた。


宗方「出動命令だ、お前ら行くぞ。」


 私たちは急いで中央ホールに向かった。そこには多くの特出員が集まっていた。


 彼らの視線の先には、特出のトップである岩壁総司令がいた。


岩壁「お前ら、よくぞ集まってくれた。今、”レボルス”の活動が確認されたという旨の連絡が来た。」


 周りの人がざわつき始めた。レボルスとは、国内で活動している犯罪集団だ。これまでに数回特出が出動したが、いつも負けて帰ってきていた。私は彼らと戦ったことがないが、出動した人の話を聞くと、みんな口を揃えてとんでもなく強いと言う。そのため、最近は特出内で注目が集まっている。


岩壁「静かに!そう、あのレボルスだ。そこで、今回は徹底的に奴らを潰すことにした。A班からC班に加えて、精鋭班から宗方龍三、神代結の二名に出動命令を出す。」


 周りがさらにざわついた。


特出員1「おい、ついに”覆面の騎士”が出動だ!それに二人も!」

特出員2「レボルスの奴ら、終わったなw」


 普通は班単位で出動するのだが、私たち精鋭班は特別で、特に手強いのが相手の時に班の中から一人くらいが出動するのだ。二人同時に出動するのは大事だ。


 ちなみに精鋭班というのは、その名の通り特に優秀な人を集めて構成されている班で、現在は私を含めて四人いる。

 私たちだけさまざまな機能がついた仮面を着用するため、覆面の騎士という俗称があるが、私はその名前があまり好きじゃない。


岩壁「場所は洲業すごう製薬工場、恐らく”ヒトフポロイト”が狙いだろう。

 作戦を説明する。まずは移動についてだが、奇襲をするために目立たない陸路で行く。場所もそれなりに近いから、移動時間は問題ないだろう。そして、洲業製薬工場には東館、中央館、西館の三つがある。現地に着いたら、それぞれA班は東館、B班は中央館、C班は西館に行け。そう、言い忘れていたが、今回はとある人物に標的を絞ることにした。そいつは、仲間から”スピダ”と呼ばれている人物だ。彼の特徴は、性別は男性、年齢は推定16から18歳、身長は170センチ程度。そして、レボルス内トップと言っていいほど実力がある。A班からC班は、このスピダと思わしき人物を見かけたら、すぐに連絡をしろ。そして、宗方班の二人はスピダが確認された場所に行く。その二人でスピダを無力化したら、他のメンバーの確保をする。これが作戦の全容だ。お前ら、任務に取り掛かれ!」


 私たちはすぐに準備に取り掛かった。


加藤「なあ、なんでお前らが行くんだよ。俺もレボルスの奴らと戦いたかったんだが。」

宗方「それは、お前らが面倒くさいからだろ。」

加藤「なんだそれ。面白いこと言ってやったって思ってるかもしれないけど、全然つまんねえぞ。」

神代「私も、宗方さんの言う通りだと思います。」

加藤「待って、もしかして俺のこと本当に面倒くさいって思ってる?」


 私は、宗方さんと共に用意されてあった車に乗り込んだ。


神代「私たちから二人も出されるとは、上も本気のようですね。」

宗方「今までさんざん舐めてかかっては、返り討ちにされていたからな。最近は他の事件も減って人手が空いているし、ここで一気に片付けようと思ってんだろう。もっと早く俺たちを送り込んでいれば良かった話でもあるがな。」

神代「まあ、この前のはちょうど”セギュルム”の件と重なったからしょうがなかったじゃないですか。」

宗方「とにかく、上が本気の以上俺たちが失敗するわけにはいかないってことだ。気を引き締めていくぞ。」


 しばらくして私たちは現場に着いた。


宗方「俺たちはまずここで待機だ。先に他の班が乗り込んでいる。俺たちも連絡が届き次第行くぞ。」


 少し待っていたら、連絡があった。


B班「こちらB班、中央館でレボルスの一人を発見した。女性だと思われるので、スピダではないだろう。」

A班「こちらA班、東館には誰もいなかった。これから中央館に向かう。」

C班「こちらC班、奴が、スピダがいた!宗方班の二人はすぐに来てくれ!」


神代「行きましょう、宗方さん。」


 すぐに西館へと向かった。移動中にまた連絡があった。

C班「こちらC班、戦況は劣勢!すでに三人がHP不足で下がっている。」


神代「一つの班の人数は六人。そのうちの三人がこの速さで倒されるということは、只者ではないのでしょうね。」

宗方「ああ。それに、まだ二人しか確認されていないのも気になる。レボルスは六人いると聞いたんだがな。」


 しばらくしたら、前から人が迫ってくるのが見えた。あれはC班の班員だ。


C班「宗方さん、助けてください!奴は化け物です!」


 私たちが来た時には、C班は残り一人になっていた。


 もう一人、後ろを追ってきた人物がいた。間違いない、彼がスピダだ。

 16歳から18歳、身長170センチ。総司令が言っていた特徴と一致している。彼は軽い装甲服を身につけながらも、その背には機銃を引っ提げていた。


 彼は私たちを見つけると、すぐに立ち止まった。


宗方「お前がレボルス内最強と言われるスピダか。」

スピダ「これはこれは、お褒めの言葉をどうも。」

宗方「そうだな、俺達を倒せたらもっと褒めてやろう。」


 刀を鞘から抜こうとしたその時、突然隣の壁が爆発し、そこから二人の人物が出てきた。


スピダ「”コリダ”、それに”ピリダ”か!」


 恐らく、レボルスの人達だ。中央館に隠れていたのだろう。


レボルス1「お前が珍しく弱音を吐いてるから来てやったぜ。スピダ、これを受け取れ!」


 彼はスピダに向かって何かを投げつけた。私たちには、それが何かすぐに分かった。


レボルス2「それが”ヒトフポロイト”だ。俺たちはもう服用したぞ。」

スピダ「なるほどね、そういうことか。」


 そう言うと、スピダは注射器でヒトフポロイトを腕に打った。


宗方「これは厳しいことになりそうだな。」


 これで、明確なアドバンテージであった”ヒトフポロイトの服用の有無”が消えたわけだ。


 その後、スピダは私に銃口を向けてきた。


スピダ「お前、一番強いだろ。俺と相手しろよ。」

神代「いいでしょう。あなたが私の相手ですね。」

レボルス2「俺が男の方を相手する。コリダはリシダの元へ行け。スピダはそいつに専念しろ!」

スピダ「いいぜ、興が乗ってきたじゃねえか!」


 彼が最強と謳われていようが、そんなことは関係ない。

 私は鞘から刀を抜いた。

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