反応がはやすぎる

夜にダンジョンを設置した。

河川敷に突如出現した石の塔から土手の遊歩道へと石の橋がかかった。


遊歩道から橋を渡った先、石の塔には空間に穴が開いており、灰色の煉瓦の壁、水溜まり、飛び交う蚊、凸凹の通路が見えていた。


コアとこの世界が繋がったことで体のだるさがなくなった。

詳しいことはわからないがインストールされた知識によると地球に溢れる魔力エネルギーを使っているとか。


これで俺はダンジョンコアが破壊されるまで不老不死となったのだ。この肉の身体はもう本体ではなくなった。


「本体がコアになったことがわかる。怪物だ、これは」


口に出さなければ気が狂うから口に出す。

気が狂ったから口に出しているのかな。

部屋で1人でいる時間が長いと自然とそうなるけれど、これはそんなものじゃない。


常にダンジョン内と入り口からの情報が処理できる。壁や床など、なんというか、皮膚に嗅覚や目がある感じ……それを処理できる。部屋にいるいまの俺のこの体は……感覚的に言えばホログラムのような、肉でできた人形のような、仮初のものになってしまっている感じなのだ。


流石にまだ身体や眷属を同時に操作はできないが……それもいずれできそうな感じもする。

DPさえあれば、ダンジョン内ではダンジョンマスターはなんでもできそうだ。


また眷属、召喚した魔物からの情報も伝わってくる。


「色々試したいことが多くなったな」


そう思ったものの入り口を作ってから、夜中だというのにすぐに警察車両消防車救急車という日頃見る緊急車両がダンジョン前に揃った。

近隣住民の窓から塔は見えるだろうから誰かしらに通報されたのだろう。

警察は土手からダンジョンに続く道に非常線を貼り出し、ダンジョンに向けて拳銃を構えていた。消防は土嚢を置いて放水ホースを入り口に向けている。救急のものは近隣の家に訪問し、不調はないかを尋ねたり避難を呼びかけたりしてまわっていた。

それに釣られたのか、救急隊に起こされた若い住民と思われる者も野次馬として集まり出した。

人に避難してくださいと言われてもスマホを片手に持っているアレな現代人だった。


俺はそれをダンジョンから偵察に出したスライムモスキートやダンジョン入り口からの視点で見ていた。

肉体は家、本体はダンジョンコア、視覚は魔物の体やダンジョンからということだ。本体がダンジョンコアになった影響か少しずつマルチタスクのようなことが出来るようになってきた。


ちなみにダンジョンの外でもモンスターの身体能力は変わらなかった。魔法能力とか細かい違いはどうなるかはまだわからない。


「反応がはやすぎる」


部屋で寝ながら、モスキートスライムの視点を見ていた俺はそう呟く。


ダンジョン発生から3日目の午前……でこういった対応をとっている。

手元のスマホからネットを検索すると初期に話題になっていたゾンビや大熊に対処が始まっていて沈静化に向かいはじめたようだ。


そしてその戦闘の中でRPG的な職業を持った冒険者、あるいは守護者と呼ばれる存在がいるとも書かれていた。火の玉を放つ呪文を唱えたり、光る斬撃を放ったり、中には戦闘の流れ弾で銃弾が当たっても傷を負わなかった者もいるという。

また魔物を倒したものはステータスが確認できるという話も確認できた。

能力に目覚めた者の中で普通のものは冒険者と、その中で強い者は守護者と、そんなふうに呼ばれはじめるようになっているみたいだ。


これはどれだけ本当かはわからないが、ダンジョンマスターだけでなく、スーパーヒーローのような存在が誕生したのは間違いない。


「考えられる高い可能性は他のダンジョンマスターからの情報漏洩や守護者とやらにもダンジョンマスターと同じように与えられた情報があることだ……。ただ単純に日本の皆様が優秀だったりなんらかの他のファンタジー的要素のせいもありそうか、それは考えても仕方ないか?」


たとえば古来から続く家系による秘術とか予言とか、ファンタジー世界になったのだったらなんでも考えられる。現代においてファンタジーものの創作物は多種多様、どんな現実となっているのか俺にはわからない。

Web小説を読んでいたからと言ってそれが当てはまるかなんてわからない。


そのまま情報収集と偵察を続けるも、明るくなるまでの数時間ほどはダンジョン前に動きはなかった。


ただしその数時間で日本の内閣から守護者やダンジョンとダンジョンマスターの存在が公表された。といってもそこで公表された内容はネットにある情報の裏付け程度だ。


ただ日本の方針は守護者とダンジョンマスターは人間から選ばれており、この異常事態における原因究明の鍵となる存在であるというようなニュアンスで、両者と共存を呼びかけるものだった。


もちろんゾンビや大熊など既に人命に被害を出したダンジョンマスターを断じて許すことはないと、そう述べていた。


それからしばらくして俺のダンジョン前に自衛隊の車両が到着した。

装甲車とトラックだった。

小銃に防弾チョッキ、完全武装と思われる自衛隊員とスーツを着た偉そうな人が降りてきた。


自衛隊員は入り口を監視していた消防や警察と変わり、トラックから下ろした銃器を土嚢に設置し始めた。

集まっている野次馬はさらに無理やり遠ざけられる。


さてさて、どうなるやら。


突入してくる自衛隊

看板を用いて平和的交渉に打って出る。

異世界人を装う。

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