大学受験失敗した俺は異世界転生専門学校で特待生になる~滑り止めも全落ちしたのでもう遅い~
「ハルト、これ、見てみなさいよ」
母親が手渡してきたのは、どこか派手な封筒だった。赤と金を基調としたデザインに、キラキラと光る校章。そして、一目で注意を引く大きな文字。
「東京I.S.E.K.A.I.転生専門学院 特待生推薦状」
「……母さん、これ、どっかの悪質な広告でしょ?」
「そんなことないわよ。この間、説明会に行ってきたの。すごくしっかりした学校だったわ。それに、特待生なら学費は免除ですって!」
「説明会に……行ってきた?」
思わず聞き返す。どうしてそんな面倒なことをわざわざ親が?
「当たり前じゃない! あなた、いつまでこんな生活を続けるつもり? このままじゃ、人生なんてあっという間に終わっちゃうわよ!」
「……いや、だからって『異世界転生専門学校』って名前の学校に入るのかよ。普通に考えて怪しすぎるでしょ」
ハルトは大げさに肩をすくめ、母親の熱意をやり過ごそうとした。
「いいえ! 本当にちゃんとした学校よ。それに、特待生として推薦されるなんて、あなたに何か才能がある証拠なのよ。ほら、ここに大手の仮想世界シミュレータ研究機関が推薦するって書いてあるもの!」
「仮想世界シミュレータ研究機関……?」
そんなものが本当にあるのか? ハルトは半信半疑だった。しかし、母親の真剣な表情に、軽くあしらう気にもなれない。
その夜、ハルトは渋々封筒を開け、同封されていたパンフレットを手に取った。
「……本当にこんなのが存在するのか?」
ページを開くと、まず目に飛び込んできたのは荘厳なレンガ造りの校舎の写真だった。さらに読み進めると、「現代の知識で異世界に変革をもたらす教育」というキャッチフレーズとともに、豪華すぎるカリキュラムがずらりと並んでいる。
『印刷技術と情報革命』
『農業革命実践論』
『公衆衛生学と疫学』
『軍事戦術と集団戦略』
「なんだこれ……異世界どころか、現実でも使えそうじゃん」
思わず苦笑が漏れる。それほどまでに充実した内容だ。しかし、「異世界転生」という単語がどうにも胡散臭い。
「でも、特待生ってどういう基準なんだよ……俺、大学受験に落ちたくらいの凡人なのに」
ため息をつきつつも、ふと目に留まったパンフレットの一文が、ハルトの胸をざわつかせた。
『特待生として選ばれるのは、選ばれし者のみ』
自分が選ばれし者? 何を基準に? ハルトにはまったく見当がつかなかった。
翌日、母親に急かされる形で学校見学に向かうことになったハルト。電車を乗り継ぎ、案内されたのは東京都心とは思えない広大な敷地だった。石畳の通路を抜けると、レンガ造りの巨大な校舎が目の前に現れる。
「……本当にあるんだ、こんな場所が」
驚きと戸惑いが入り混じる中、校門をくぐると、一人の女性が待っていた。知的な雰囲気を漂わせた眼鏡姿に、黒のスーツをきりりと着こなしている。
「ようこそ、東京I.S.E.K.A.I.転生専門学院へ。私は鬼塚冴子。この学院で講師を務めています」
女性は名乗ると同時に、手際よくパンフレットを広げ、学院の概要を説明し始めた。
「本校では、現代の知識を駆使して異世界社会に革新をもたらすための専門教育を提供しています。ただし――異世界転生が現実的に可能かどうかは保証されません」
「は?」
ハルトは思わず声を上げた。
「それってつまり、結局異世界には行けるかどうかわからないってことですか?」
「そう解釈していただいて結構です。ただし、もしその可能性があるとしたら、その時に備える知識をここで学ぶ意義は十分にあると、私たちは考えています」
妙にあっさりと言い切る鬼塚の態度に、ハルトは言い返せなかった。
学院内を案内される中、彼は生徒たちの真剣な姿を目の当たりにする。談笑しながら課題に取り組む者、シミュレータらしき端末を操作する者――それぞれが確かに、ここで『何か』を学んでいる。
ふと、気づく。その中に一人だけ異彩を放つ少女がいた。長い銀髪に、冷たい壁を感じさせる青い瞳。その雰囲気は周囲を圧倒するほどの存在感を持っていた。
学園内をひとりでうろついていることを取っても不思議だった。
「彼女は?」
「彼女ですか? 特待生の一人で、
「特待生……俺と同じ?」
「ええ。彼女も非常に優れた素質を持っています。ただし、それ以上はプライバシーに関わるため……」
意味ありげに言葉を濁す鬼塚の態度に、ハルトはますます疑問を抱いた。この学校の真意、自分が選ばれた理由、そしてあの少女――何もかもが謎だらけだ。
だが、不思議と心地よい緊張感があった。
(ここでなら、何かが変わるかもしれない)
そう思ったハルトは、用意された入学願書にペンを走らせた。
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