怠け者

天川裕司

怠け者

タイトル:怠け者



イントロ〜


あなたは何をするにも面倒臭いですか?

面倒臭い面倒臭いと言う人もかなり増えてきました。

実際、生きていくにはいろんな事をしなければならず

仕事や家事、プライベートでも趣味を見つけろなど、

考えてみたら息つく暇もありませんね。

今回はそんな面倒臭い生活に耐えかねて

つい怠け者になっちゃった人の、そんなお話です。



メインシナリオ〜


(ゴミだらけの部屋の中)


「はぁ〜めんどくせー」


俺の名前は枯輪流人(かれわ るひと)。

今年で32歳になる独身サラリーマン。


サラリーマンと言っても、もうすぐクビだ。

もう俺が辞めさせられる事は決まってる。


(会社)


上司「枯輪君!枯輪君!!」

流人「ふぁ?あ、ハイなんですか…」


上司「なんですかじゃないだろ君!午前中に頼んどいた資料、全然できとらんじゃないか!」


上司「それに今!居眠りしてたのか!?一体君は会社に何しに来とるんだね!!」


流人「はぁ。すんません」


上司「もう良い!お前はもうこの会社に必要ない!辞めさせてやるから覚悟しろ!」


と先日言われ…


(昨日)


上司「正式に君のクビが決まったよ」

流人「え??ク…クビ…!」

上司「なにが『え?』だ!君はこの会社に来て、1度でもまともに働いたことがあったか!」

流人「そ、それは…」


上司「ふぅ。嬉しいだろ?もう毎朝起きてここに来なくてもイイんだ。ゆっくり家でのほほんとしてればイイよ。できる限りな」


上司「まぁ今度行く所がもし決まるんなら、今の君でも務まる所を見つけて選ぶんだな」


(会社を出て)


流人「はぁ…クビかぁ…」


こんな感じで今日まで来ており、

ついに俺は会社をクビ。


確かに俺はいっときから

生活意欲と言うものが無くなり、

ことに仕事にかけては働く意欲が全く無い。


上司の言う通り、

この会社に入ってから俺は

ほとんどまともに働いてこなかった。

クビになるのも当たり前。


でもそうなると困ったもんだ。

たちまち明日からの生活が…


流人「ふぅ…どうしようかなぁ」


それでも俺はまだのほほんとしてた。

昔から人がこだわるところでこだわらず、

心配するところで心配もせず、

どこか能天気で「まあどうにかなる」

みたいな気持ちをずっと持ち続けている。


「そんなゆとりを持つのは大事だよ?」

なんて人から言われたこともあるけれど、

こんな時までのほほんとしてたんじゃ…


(カクテルバー「sloth」)


その日、俺は飲みに行った。

いつもの飲み屋街を歩いてると、

「お?こんなトコあったっけ?」

って感じで新しいカクテルバーが建っていた。

なんとなくそこに惹かれ、入った。


そしてカウンターで飲んでると…

益代「こんにちは♪お1人ですか?よければご一緒しません?」

と1人の女性が声をかけてきた。


彼女の名前は恵中益代(えなか ますよ)さん。

歳は俺と同じ30代ぐらいで、

どこか上品で居て落ち着いており、

けっこうな美人。

でも不思議と恋愛感情が湧かなかった。


それより「どこかで会ったことのある人?」

…のように思え始め、そんな気持ちになったからか

何か自分の悩みを全部打ち明けたい…!

そんな気持ちにさせられた。


益代「まぁ、会社を?」

流人「ええwバッサリとね♪」


俺は自分が会社をクビになった事を彼女にまず伝えた。

そして今の自分の性格…

どうしても怠け癖が治らず、

何もかもが面倒臭くなり

その生活を誰かに助けて欲しい…

そんな子供じみた願いのようなものも

彼女に一緒に伝えていた。


彼女は朗らかながらに真面目に聞いてくれていた。

そしてアドバイスをくれ、

その生活を本当に助けてくれようとまでしたのだ。


流人「え?なんですかこれ?」


益代「それは『wish come true』という特製の液体薬で、おそらくあなたのような方が飲めばその効果を十分に発揮し、いずれ役に立ってくれるかと思います」


益代「あそれとさっき『生活を助けてくれる人が欲しい』とおっしゃってましたね?そちらの人もご用意しましょう」


流人「……は?」


いきなり淡々とそう言ってきた益代は次に、

持っていたバッグから

パンフレットを差し出してきて、

そこに載ってる2人の人を紹介してくれた。


益代「人材派遣のようなものですよ。あなたの生活をその根底から助けてくれる人、そのための人材を2人ご用意いたします」


益代「あ、ご心配なさらないで下さい。料金は一切頂きませんから」


益代「これはあなたのような、リストラに遭った方を救済するための慈善措置のようなものですので、私共もそう言ったボランティアの形でこのお仕事をさせて頂いております」


この人は不思議だ。

普通なら絶対信じないような事でも

この人に言われると信じてしまう。

俺はその場でお願いしてしまったんだ。


(後日)


ピンポーン♪

「あ、はぁ〜い」

そして後日、益代さんが言った通り、

本当に派遣された人たちがウチにやってきた。


ユメカ「今日からよろしくお願い致します。家事全般をさせて頂きますので、どうぞごゆっくりして下さいね」


「ほ、ほんとに来た…」


彼女はユメカさんと言って、

ウチに家政婦の形でやってきた人。


そしてそのすぐ後に又インターホンが鳴り…


マモル「こんにちは♪今日からよろしくお願い致します。仕事は私が致しますので、どうぞおウチでごゆっくりなさってて下さい」


マモル「あ、私は近くのビジネスホテルに泊まりますので、その点もご心配なく♪それではお仕事に行って参りますので良い1日を」


彼はマモルさんと言い、

俺の代わりに働いてくれると言うのだ。

彼が働いた分の給料は俺の口座に流れる仕組みで、

俺は働かなくても生活できる…

そんな条件が整えられた。


「…ウソだろこれ…マジでこんな制度があったのかよ…」


本当に不思議だったが、

少し経てば俺の心はもう万々歳。

生来、怠け者気質があった俺は

「これでもしかすると一生働かなくてもやってゆける?」

「本当にラクしていつまでもこの牙城を守れる?」

そう本気で思った。


(数日後)


それから数日後。

ユメカ「いってらっしゃいませ♪」

「ああ♪じゃあ今日も家のこと頼むよ♪」

その生活がすっかり板についた俺はその日、

又あのカクテルバーに飲みに行った。


こうしてる間にもユメカは

部屋の掃除も家のこともちゃんとしてくれて、

マモルさんは俺の代わりに外で働いてくれ、

その給料は俺の口座にちゃんと振り込まれる。

これは昨日ちゃんと確認して

その通りだったので

俺は心から安心していた。


「グフフ♪あの益代さんて人、本当に良いこと教えてくれたよなぁ♪こんなバラ色の生活が本当にあったなんて♪これでもう俺、働かなくても良くなったかも」


でもその日、そのカクテルバーに

また益代さんが来ており、

俺はお礼も兼ねて彼女と談笑した。

その時、見事にその期待は粉砕された。


「えっ!?さ… 3ヶ月ってどう言う事ですか!」


益代「すみません、先日お伝えするのを忘れていたようですね?これはリストラに遭った方々の救済措置のためにやってる事業でありまして、いつまでもこのまま…と言うワケにはいかないんですよ」


「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

俺はてっきりこの状態が

延々続くものだと思ってたんだ。


益代「飽くまであなたが次のお仕事を見つける迄の架け橋のようなもので、今からちゃんと就活に動いて頂き、あなたにとって安定する職場を見つける事が私たちの目的でもあるんです」


「そんな…!今さら言われたってそんなの!」

「あんまりじゃないか!!」

と怒鳴り立てる前に益代さんはひどく冷静に…


益代「こんな事業が延々続けば、皆この救済措置に入り浸ってしまうようになりますよね?それではその人のためにならないでしょう」


益代「『働かざるもの食うべからず』という言葉もあるように、誰でも自分の生活のためにはそれぞれが働いて、自立してゆく事こそが社会人としての当然の通念ではありませんか」


「そ…そんな…」


確かに何も言えなかった。

彼女の言う通り。

そう心の中で認めてしまえばやっぱり何も言えない。


でもこの時もまた不思議と、

彼女の言う事なら素直に聞き入れてしまう

自分も知っていた。


それともう1つ、彼女は釘を刺してきた。


「…え?何のことです…」


益代「フフ、ユメカさんの事です」


「ユメカ…?ああ、ウチに来てくれてる…?」


益代「彼女は仕事であなたのウチに来ています。ですからその関係上で、一線を越えないようにして頂きたいんです」


「……は?」


益代「つまり、男として彼女に迫らないようにして頂きたいと言う事。これは絶対守って下さいね?でなければ、あなたに必ず不幸が訪れる事になりますから」


こんな気持ちになった上、

さらに脅されているような気にもなり、

「わ、わかってますよそんな事!そんな事する筈ないでしょう!」

とちょっと怒ってしまった。


益代「フフ、それならそれで良いんです。一応、ひとつ屋根の下で男と女が居る事になりますので念のため」


(3ヶ月後)


それから3ヶ月があっと言う間に過ぎていった。

就活に動かなきゃならないなんて言われたけれど、

俺はやっぱり何もしていなかった。


それどころか夢のような生活が粉砕されたことで

さらに落ち込んでしまい、

何もかもがどうでもよくなってしまった挙句、

あの日、益代さんが俺に言った約束…

これさえ破ってしまう自分になっていたのだ。


(自宅)


俺の自宅はユメカさんのお陰で

見違えるほど綺麗になっていた。

毎日ちゃんと掃除をするだけで

こんなに綺麗になったりもするもんだ。


今日もせっせとユメカさんは

廊下や部屋の掃除をしてくれている。

その姿を見ているうちに…


「……どうせ3ヶ月でもうこの生活は終わりなんだ、だったらもっと…楽しませてもらわなきゃな…」


ユメカ「え??…ル…流人さん?…なにを…?き、きゃあ!!やめ…!やめて!」


俺はユメカに馬乗りになり、

その場で望みを遂げようとしてしまった。


「もうすぐこの生活が終わっちまうんだよ!だったらイイじゃねえか!アンタだって本当はイヤじゃないんだろう!?毎日こうやってちゃんと俺の家に来てくれてさあ!」


ユメカ「やめてえ!!」


その瞬間、俺の背後に人の気配が漂った。

俺はビクッとしてすぐ振り返る。すると…


「え?!あ、あんたは…!」


窓もドアも開いてないのに、

なぜかそこにあの益代が立って居たのだ。


益代「フフ、やっぱりこうなりましたか。あれだけ言っておいたのに」


「…ど、どうやってここに入ってきたんだ…」


飛びのいた俺を余所目に、

益代はユメカの手を引いて立たせ…


益代「ユメカさん。あとは私がしておきますから、どうぞ今はお帰り下さい」

と言ってユメカを帰らせた。


そして少しの間、俺に背中を向けていた益代は

スラッと俺のほうに向き直り…


益代「あなたには、責任を取って頂きます。こうなったのは自業自得、よく解ってますね?」


「お…お前…!」

突っかかろうとした俺をまるで無視した益代は、

スッと右手を俺の目の前にあげ、

そのままパチンと鳴らした。

その瞬間、俺の意識は飛んでしまった。


(後日)


それから後日。


ユメカ「あなた、今日は早く帰ってくるの?」

マモル「ん?ああ、まっすぐ帰ってくるつもりだよ」

ユメカ「嬉しい♪あなたの好きなミネストローネ、作って待ってるからね」


俺の家には2人が住んでいた。


マモル「ハハ、そりゃ嬉しいなぁ♪お前の作る料理は美味いから♪…料理と言えば、おほっw今日はナマケモノ君、しっかりエサ食ってるなぁ〜」


ナマケモノ「ガツガツガツガツ!!バグッ!ガツガツ!」


リビングに置かれたゲージの中で、

1匹のナマケモノが

ずっとエサを食い続けていた。


マモル「じゃあ行ってくるからね♪」

ユメカ「うん♪いってらっしゃい」


マモルが仕事に出かけて

この部屋に1人になったユメカは…


ユメカ「…もうエサも無くなりかけてるわ。次のエサ、どうしようかしら。…その分、私たちの貯金に回した方が良いかもね…」


(流人の自宅を外から眺めて)


益代「…捨てられるのも時間の問題か。私は流人の理想の欲望から生まれた生霊。その理想の方だけをなんとか叶えようとしたけれど無理だったわね。流人の欲望は想像以上に凄まじかった」


益代「まさか本当のナマケモノになっちゃうなんて。与えられたモノを享受して、それだけを貪り続ける。こんな人間、結構多いんじゃないかしら?」


益代「ユメカとマモルは、流人の理想・欲望から私が組成した架空の人物。あの2人はもう少し置いとく必要があるかな。流人が自分のあり方を本気で改めて、その淵からちゃんと返れるまでは…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=gtL9WdA2RUM

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怠け者 天川裕司 @tenkawayuji

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