男が去勢される世界で、まともな竿は俺一人
@renzowait
第1話 男とAVと異世界転生?
「……っ、はっ、はっ…………」
目の前の画面では一糸まとわぬ姿の男女が盛り合っていた。
男の腰振りが激しくなり、行為はクライマックスへと導かれていく。
女の嬌声もより艶っぽいく、そして甘ったるくなり、搾り取るような腰のうねりも激しくなっていく。
そしてそれを画面越しに眺めていた俺の右手の動きもより激しくなり、我慢などできずそのままフィニッシュした。
「……はー、……はー」
心地の良い虚脱感に襲われ、俺は椅子の背もたれに背中を預ける。
一方、画面内では底なしの性欲を発揮する男が2回戦とばかりに、腰振りを再開していた。
再び上がるパンパンという腰を打ち付ける音と、女の嬌声。
本当に気持ちがいいのかは知らないが、女は先ほど同様甘い嬌声を上げて男を誘い、誘われた男は本能のまま一心不乱に腰を振っている。
一方の俺は、出すものを出して、既に賢者モードになっていた。
俺の息子となっていたかもしれない白濁液をティッシュで片付けつつ、思わず呟く。
「……最新作だったけど、微妙だったな」
出すもの出した後に言うセリフじゃないかもしれないが、賢者モードであるが故の感想だった。
女優の顔や身体つきは文句なし。好みだけで言えばドンピシャだった。
可愛いというよりは綺麗系の顔立ち。そして何といっても大きすぎず、かといって小さすぎない絶妙な大きさのおっぱい。
大きすぎると突かれている時に邪魔になるが、程よい大きさであればむしろその揺れがより情欲を煽るというものだ。
この女優を見つけた時は思わずガッツポーズをしたことも記憶に新しい。
それからというもの、彼女の作品が出るたびに購入に出すものを出してきたというわけであった。
そして、この女優の最新作が配信されるということで楽しみにしていたのである。
というか、予約が開始されるが否や全裸待機していたのは、ここだけの秘密である。
パッケージも少しだけ見れる短時間の映像も文句なし。何なら、短時間の映像ですら俺の息子は爆発した。
だからこそ、本編にものすごく期待していたのだ。……今は期待を裏切られた気分だけど。
一応、会社の先輩後輩というシチュエーションのAVだったのだが、行為に映るまでが雑で、セックス自体も俺の目には淡白に映ってしまっていた。
この手の動画で本当に女優が感じているのかは知らないが、それにしたってやっつけ仕事感が強い。
女優が乗り気ではなかったのか、はたまた監督が適当な指示を出していたのか……。
いずれにせよ抜きはしたが、あくまで勃ってしまった息子を沈めるための義務感で抜いてしまったというわけだった。
多分、動画を見る前が一番勃っていたと思う。ウキウキとしながら仕事を片付けていた夕方ごろが一番幸せだったな……。
「……前戯が短くて淡白に映るし、フェラもなんか適当だったし、そもそもカメラワークがな~。これまでの作品ではこんなことなかったんだけど」
ティッシュをゴミ箱に放り投げつつ、俺は誰に聞かれるでもない部屋でため息をつく。
これまでの動画はどちらかというと前戯にも時間をかけており、だからこそ画面越しのこちらにも興奮が伝わってきていたのだ。
しかし、有名なシリーズに胡坐をかいて適当な前戯からの本番に繋げてしまったのが非常に残念である。
むしろ有名なシリーズだったからこそ、期待していた分落胆も大きい。少なくとも外れはないと思ってからな~。
これなら、適当に素人という名のダイヤの原石に投資をしていたほうがいくらかましであった。
うーん、次からこの女優の人のモノを買う時は、評価が出揃ってから見るようにしないと。
さて、ここまで話してきて健全な皆さんならお気づきだろう。
たかがAV一つに、なぜこいつはこんなにも本気になっているのかと。傍から見なくても気持ち悪い俺のレビューに、理由なんかがあるのかと。
しかし、本気になるのにはもちろん理由がある。
何故なら、俺にとってAVが社会人になってから唯一と言っていい趣味であったからだ。
社会人になってから約5年。一人暮らしのアパートと会社までの間を往復する日々。
会社ではひたすらに上司、顧客の顔色を窺い、思ってもいない言葉を羅列する。
給料は平均より少し下。仕事はもちろんつまらないが、病まないレベルなので恵まれている方か。
別に仕事が出来る方ではない。多分、そこまで難しいことをやっていないので、何とか続けられているのだろう。
だけど、学生時代はあれだけ眩しく見えた社会人生活がこれかと思うと、もはや笑いが込み上げてくるほどだ。
彼女もいなければ、頻繁に会う友人と呼べる人物もほぼいない。
高校や大学時代の友人とはもはや何年も連絡を取っていなかった。
「いや、AVの当たり外れなんてこんなもんだろ。それに明日は明日で予約済みの最新作が出るから楽しみだな~」
そんな俺の唯一の楽しみ、趣味と呼べるものこそがAVを購入し、鑑賞することだった。
元々性欲が強い方で高校時代や大学時代も自分磨きに勤しんでいたのだが、社会人になり使えるお金が増えてから、更に趣味に掛ける投資が加速した感じだ。
給与の範囲内で購入できるAVを、今でも吟味に吟味を重ねて購入している。吟味しているのはもちろん、購入できるAVにも限度があるからだ。
俺の月収で見境なく買っていたら、給料がいくらあっても足りない。もう少し給料が多ければと思ったのも1回や2回ではなかった。
もちろんセールでも買うが、本当に欲しいものは予約してその日に購入するほど。まさに今日買ったAVなどがいい例だ。
なんか、セールとかクーポンで買うのは負けた気がするんだよね。失敗もあるが後悔もない。俺の投資が女優の生活の礎になっていると思えば安い投資である。
まっ、こんなことをやっているもんだから毎月カツカツの生活なんだけど。
ちなみに、有り余る性欲を抑えるために風俗やソープも行く。
しかし、なんだかんだAVを見ながら自分の右手で抜くのには敵わないと思っている。
あと性欲処理の為に、毎回毎回風俗に行ってたら金がいくらあっても足りないし。
風俗の為にAVが買えなくなるのは本末転倒である。
平日はともかく、休みの日は3回くらい抜くときもあるからな。もはや、休日が抜くためだけにあるレベル。
風邪をひいていても息子が元気なのはむしろ普通のことである。
「さて、賢者モードもこれくらいにして……」
俺はPCの電源を落とし、大きく伸びをする。
ちなみに、好きなシチュエーションやプレイなどは特になかった。
……というよりは、俺は何でもイクことの出来るいわゆるオールラウンダーである。
何を見ても、どんなシチュでもイクことが出来るから、他の人よりもコスパが良いということもできるな
シンプルなセックスはもちろん、拘束モノやレイプモノ、痴漢やレズなど何でもござれ。何ならニューハーフでも大丈夫だ。たまに見たくなるんだよね、アブノーマルなやつって。
多分、見たことのあるAVの数なら誰にも負けない自信がある。それに様々なシチュエーションを見てきたからそっちの知識も豊富だった。
……こんな知識あったところで、披露する機会なんて全くないんだけど。
一応、ノンケなのでBLモノだけは性癖の対象外だ。こればっかりは性癖の話なので許してほしい。
「取り敢えず、風呂入って寝るか~」
今回は待ちきれずに帰宅するや否や抜いてしまったが、明日もいつも通り仕事だからな。
飯も食ってないし、ちゃんと睡眠をとらないとただでさえ嫌な仕事がもっと辛いものになるからさっさと済ませないと。
これだから社会の歯車たる、社会人はきついぜ。
着ていた服をその辺に投げ捨て、浴槽へと向かう。
もちろん湯船なんて張らずにシャワーのみだ。実家にでも戻らない限り、風呂に入ることもなくなったな。
全裸になり、俺は浴室内へ。蛇口をひねり、熱いお湯を頭からかぶる。
「あ~~~~」
一日の疲れと汚れが落ちていく感覚。やっぱりシャワーっていいもんだな。
さて、シャンプーはっと……。
「……あれ?」
シャンプーを探すために開いた目に、眩い光が飛び込んでくる。明らかにこの浴室の光量を超えたその眩しさはあっという間に俺の身体を包み込む。
そして、気付くと俺の意識はなくなっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………んっ?」
瞼に光りを感じた俺はゆっくりとその瞳を開く。
飛び込んできたのは眩い太陽の光と、風になびく新緑の木々。
徐々に覚醒してくる意識と共に、俺はむくりと起き上がる。
「……どこだここ?」
覚醒した脳みそをフル回転させ、必死に記憶を思い起こす。
俺は確かAVで抜いた後、そのままシャワーを浴びて……その後の記憶がねぇ。
なんか、滅茶苦茶眩しい光に包まれていたような記憶はあるんだが、それも曖昧だ。
もしかして、俺はあのまま浴室内で気を失ったのか?
「……いや、それにしたら今頃普通に浴室内で目覚めているはずだ。どう考えても、ここはアパートの浴室じゃねぇ」
太陽の光と風を感じている時点で、室内ではないことだけは確かだ。
あたりをきょろきょろと見渡しても、視線の先に広がるのは鬱蒼と茂った森が広がっているばかりである。
というか、マジで森の中じゃん。
あと、これが一番重要なことかもしれないけど、
「なんで俺、全裸なんだ?」
目を覚ました時からやけにすーす―するなって思ってたら、俺は今何も身に付けていない状態だった。言い換えると真っ裸。
確かにシャワーを浴びてたから全裸は全裸だったけど……にしたって、ここにいる理由の説明にはならない。
全裸で森の中で一人きりって、どんな状況だよ?
それこそ、今はやりの異世界転生ってものでもしないと説明がつかない……。
「まさかな……」
嫌な予感が頭をよぎるも、俺は一瞬でその考えを思考の片隅に押しやる。
確定していない以上、余計なことを考えないに限る。……確定したときは、その時考えればよい。
「……取り敢えず、ここがどこかだけはっきりさせないと」
全裸で言うセリフではないが、これがはっきりしないと、どうしようもないこともまた事実だ。
俺は立ち上がると、ひとまず森を抜けるため適当に歩き始める。
「うーん、まさか靴もないとは……」
正真正銘の全裸であるため、靴も履いていなかった。
救いとしては地面がやわらかく、石などの砂利がないことくらいか。気温も全裸で問題なく過ごせるレベルなので、少なくとも20度以上あるだろう。
しかし現代人である俺からすると微々たる違いにすぎない。普通に足裏とか怪我しそう。
裸足で外歩くなんて、それこそ小学生以来だぜ。フルチンで外を歩くのはもちろん、人生で初だ。変な性癖に目覚めそう。
ガシャンッ!! 「きゃぁ!?」
「うおっ!?」
突然聞こえてきた衝撃音と誰かの悲鳴に、俺はびっくりしてその場に伏せるようにしてしゃがみ込んだ。
(なんだなんだ、今の衝撃音は!?)
一旦、その場に伏せてあたりを慎重に見渡す。……傍から見ると全裸で伏せるって、あまりに間抜けすぎる。頭も隠せてないし、尻も隠せていない。
ただ、誰もいないと思っていた森の中からとんでもない衝撃音が聞こえてきたので、多少の動揺は許してほしい。
「……どこからだ?」
近いことは近いようだが、取り敢えず俺に向けたものではなさそうなので安心した。
立ち上がった俺はそのまま、音の聞こえてきた方向へ歩いていくと、
「……くっ、まさか囲まれるなんて。私も運がなかったね」
「うがぁああああああ!!」
一人の女性が何者かに取り囲まれている光景が目に入ってきた。
(えっ、なんだあれ?)
誰もいないと思っていた森の中に女と、男っぽい容姿をした奴らが数人。
3人くらいに囲まれている感じか?
ちなみに、俺が男っぽいと表現したのには理由がある。女とは対照的に、男と思われるやつらは俺と同様に裸だったのだが、アレが付いていなかったのだ。
(……何でチ〇コが付いてないんだ?)
そう、それは男の象徴ともいえるもの。一部では息子や分身と称され、あれの大きさ1つで男の人権が決まる程と言われている、チ〇コが付いていなかったのだ。
骨格は完全に男。だからこそ、ないことに対してもの凄い違和感がある。というか、本来ならついているであろう場所に何やら禍々しい機械のようなものが装着されていた。
……貞操帯か? いや、でも男につけたところでどこに需要があると……。
「うぉおおおおお!!」
バカなことを考えているその時、再び男(仮)が獣のような方向を上げる。
骨格は男だと言ったが、あくまでそう見えるだけだ。
筋肉は異常に盛り上がっているし、開きっぱなしの口からはダラダラと涎を垂らしている。
目も血走り焦点もあっていないことから、明らかに異常な状態であることが分かる。
(というか、何であの女は逃げないんだ!?)
あんな奴から逃げないとまずいのは一目瞭然だが、彼女はその場を動こうとはしない。
(いや、怪我してんのか!?)
注意深く見ると、彼女の足や腹部からは血が滲んでおり、恐らく先ほどの衝撃音は何らかの攻撃を彼女が受けた時に生じたものだったのだろう。
苦悶の表情を浮かべる女は悔し気にあの化け物を見上げるばかりだ。
(……迷ってる暇はねぇ!!)
俺はどこぞの主人公よろしく草むらから飛び出し、女と化け物の間に立ちふさがる。
「えっ!?」
「うぉおおおお!!」
びっくりしたような声を上げる女と、再び咆哮を上げる化け物。
……出ていって分かったけど、これ俺がどうにかなるレベルじゃないわ。
多分、北海道でヒグマと遭遇した、それくらいの雰囲気がある。いや、絶望感でいったらそれ以上だ。
弱きものは強きものに狩り取られる。自然の摂理としての当たり前を、俺はひしひしと感じ取っていた。
膝がガクガクと震えはじめ、額からは変な汗が流れ始める。
ここがどこだか分からないけど、多分死んだら死ぬんだろうな。当然のことなのだが、急に現実味が出てくるとこれほどまでに怖くなるなんて。
そう考えてしまったからこそ、震えが止まらなくなったのだろう。
しかし、弱気な俺を吹き飛ばすかのように太腿を強くたたく。
(いや、ここまで来たらどうにでもなれだ!!)
もしかすると、この世界は既に死んだ後の世界かもしれない。森に全裸で放り出されている状況を鑑みても、日本でないことだけは確かだ。
こうなったらやけである。これまでは主人公に慣れなかったが、最後の最後に主人公となれるチャンスが来たんだ。
目の前で女を守って死ねるなら、主人公としてはある意味本望。これでこそ、男ってもんだ。
……一つ我が儘を叶えさせてもらえるのなら、AVで学んだ知識を女性に披露してから死にたかったぜ。
「あ、あなた、危ないわよ!?」
「うぉおおおおおお!!」
「っ!?」
女の忠告を無視し、俺は怪物に向かって殴りかかる。
いきなり殴りかかってきた俺に、少し怯んだ様子の化け物。チャンスはここしかない!
頭の中で某グルメ漫画の主人公を思い浮かべつつ、化け物の頬に向かってパンチを繰り出した。
ぼこぉっ!!
「んがぁああ!?」
「へっ……?」
パンチを受けた化け物が派手に吹っ飛んでいき、俺の口から間抜けな声が漏れる。
いやいや、だって俺は化け物の意識をこちらに向けるくらいのつもりで殴ったのに、どうしてこんな威力が出てるんだよ!?
明らかに人間が出してよい威力ではないパンチ力であり、かの井上〇弥と比べても比較にならない。
その証拠に吹っ飛ばされた化け物は仰向けに倒れ、ぴくぴくと痙攣するばかりだ。口からは泡を噴き出しており、恐らく気絶している。
「おまえ、なんだその威力のパンチは……?」
「い、いや、俺もそんなつもりは……って、……あ、あれ?」
驚きのあまり目を見開く女に訳が分からないと首を振った直後、猛烈な疲労感に襲われる。
視界がぐわんぐわんと揺れ、立っていられなくなった俺はバタッと倒れ込んだ。
「……う、……うぁ……っ」
どんどんと視界が霞んでいき、意識がなくなっていく。
「……時間稼ぎと化け物を一匹倒してくれたのには感謝するわ。だけど……どうしてこの男は去勢されていないのかしら?」
女のものと思われる呟きが聞こえてきたが、もはやまともに言葉を聞きとれるほどの意識は俺に残っていなかった。
……最後にものすごく不穏な言葉が聞こえたような気がするが、まあ気のせいだろう。
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