クラスで一番人気の粟田さんは、放課後うちにシャワーを浴びに来る

海夏世もみじ

第1話 クラスで一番人気の美少女がうちでシャワーを浴びてる

 ガヤガヤと騒がしい高校一年生の教室。その賑やかな中心にいる人物は、このクラスで一番人気の粟田あわた乃々のの

 青いメッシュが入るミディアムヘアーの黒髪に、青みがかった宝石のような瞳。シミひとつない綺麗な肌や豊満な胸などなど……。

 容姿端麗でコミニュケーション能力カンスト、いつだって彼女の周りには人がいる。告白された回数などはすでに二桁を超えたとか。


(……俺とはステージが違う人種だな)


 俺は自分の席に座りながら頬杖をつき、一瞥した後に窓の外を眺める。

 一瞬、窓に反射した平凡な顔をしてい自分が映ったが、すぐにその奥の空を見上げた。空は濁った色をした雲に包まれており、これからの天気は良好ではないことを伝えようしていた。



 # # #



「はぁ……。学校帰りに食材買っておくんだった」


 現在の時刻は夜の七時ほど。

 マンションで一人暮らしをしているので、待っていてたとて夜ご飯は現れたりしない。なので自炊しようと思っていたのだが、冷蔵庫の中がもぬけの殻だった。


 天気は予想通りに雨となり、傘をさしてスーパーに買い物をしに行っていた。そして現在は帰宅中だ。

 雨音を聞きながら足を進め、近所の公園を通り過ぎて家に帰ろうとしたのだが、そこに人影が見える。傘もささずに座り込んでおり、怪しい人だと思いスルーしようかと思ったが、それは知っている人だった。


「……粟田さん?」


 あの容姿端麗さを見間違えることはないため、本人っぽい。しかし、クラスにいる時とは打って変わってどこか暗いオーラを纏っていた。

 クラスでのカーストが最下位に近い俺はお呼びじゃないのかもしれないが、困っている人を見かけたら放っておけない。じいちゃんから怒られてしまうし。

 俺は公園に入り、粟田さんの側まで行って傘を彼女の頭の上に持ってゆく。


「粟田さん、こんなところで何してるんですか」

「…………。誰、あんた」

「同じクラスの冴木さえきひびきです」


 最初は捨て猫のように感じたが、俺が話しかけると今にも噛み付いてきそうな狂犬のような鋭い眼光で俺を穿つ。

 思わず後ずさりしそうになるが、踏みとどまって話しかける。


「風邪引きますよ」

「うるさい。どっかいってよ」

「……これから音楽聴きながらアイスを食べる優雅な時間を過ごすつもりなんですけど、警察沙汰になったらサイレンがうるさくてかなわないんですよ。端的に言えば迷惑です」


 ピシャリと本音を言いつけると、鋭い眼光は消えてポカンとした顔に変化した。


「……普通、こういう時って慰めの言葉とかかけてくれるんじゃないの」

「俺、慰めるの苦手なんですよね。つい本音が出て相手を逆上させるのが上手いんで、最初っから本音をぶちまけるんですよ」

「……変なやつ」

「うーん……。面白いやつって言われた方が嬉しいかもですね」

「ふふっ、そーゆーとこが変すぎ」


 へにゃりと笑ってみせたのだが、粟田さんが笑っているところを初めて見たかもしれない。

 いつもクラスでもよく笑っているのだが、心の底から笑っているような、仮面ペルソナを被っていない笑みのような……そんな感じがした。


「とっとと帰ったらどうですか? いよいよ俺も寒いんで」

「ほんっとーに容赦なく言うね……。はぁ、今日は帰りたくないの」

「じゃあ友達の家に泊まるとか」

「……アイツらに借りは作りたくない」

「じゃあうち来ますか? 俺一人暮らしですし」

「は?」


 俺がそんな提案をした途端、周囲の気温が急激に低下した気がする。


「変なこと期待してんの」

「変なこと? ……あぁ、あれか。逆にお断りです。俺綺麗好きなんで、自分の部屋でそういのは断固拒否します。しかも昨日掃除したばっかだからたまったもんじゃねぇですよ」

「……本当に変なやつ。はぁ〜〜……わかった。とりま、あんたの家でシャワー浴びさせて」

「料金プランはどうしますか?」

「やっぱそういうことするつもりじゃん!!」

「冗談ですよ」


 ふっ、と笑った後、粟田さんに手を差し伸べた。彼女は呆れ混じりのため息を吐いて俺の手を握り、立ち上がる。

 粟田さんの手はひどく冷たく、こちらの体温がみるまる奪われていく感覚がした。


 粟田さんを連れて自分の部屋へと戻り、何か着るものはないかもタンスを漁る。


「へー、本当に綺麗じゃん」

「そりゃどうも。着替えジャージでいいですか?」

「ん、ありがと。じゃあシャワー浴びてくるね」


 俺のジャージを受け取った後、粟田さんは洗面所に入った。ドア越しに服が擦れる音が聞こえてしまったため、じいちゃんからもらったラジカセをつけて音楽を流し始める。

 夜ご飯を作ろうと思ったのだが、粟田さんはそんな食欲とかないかもしれないし、俺だけ隣で食ってても気まずい。


「……ホットココアでも作るか」


 綺麗好きで部屋を汚したくないからそういうのはしたくない。だが、男の性があるというのもまた事実。

 俺はその欲のボルテージが上がらぬよう、ホットココア作りに集中をするのであった。

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