夢魔界転生

ほいどん

第1章 戦い①

背後から敵が追ってくる。背中には日本刀を背負っている。

 俺のほうは、右手に木刀。

 

 今は逃げるしかない。どうやっても、本物の日本刀に対して勝てるはずもなかった。

 敵が後ろから叫ぶ。


「逃げられると思うか? どのみち死ぬなら、戦って死んだほうがよい」

 

 場所はどこだ?

 東京か?

 いや、雪が降っているので、たぶん東京でない。


 広い道を走っていくと、左右に高層ビルが建ち並んでいる。北国の大都市か。

 後ろをもう一度振り向いたとたんに、足を滑らして、転倒した。

 相手はすぐに追いついた。


 おもむろに立ち上がって、木刀を正眼に構える。逃げられない。

 相手も右胸に刀を立てて引きつける、八相の構えをした。

 

 黒いスタジャンに黒いズボンをはいている。顔を覆面をしている。街灯の黄色い光で顔が見えた。

 ピエロの覆面だ。


 まるで映画のジョーカーのような顔だ。

 ヒゲを生やして、笑い顔で、何か、得体の知れない不気味さを感じた。

 八相の構えのまま、にじり寄ってくる。


 八相の構えなぞ役に立たないことはわかっているが、その後の動きの変化がわからない。

 なので、うかつに飛び込めない。

 俺と言えば、突くことしかできぬ。馬鹿の一つ覚えで、これしかできぬ。


 相手の喉笛に一発ついて、それで終わらせることしか、勝つ可能性がない。


 人はどのみち死ぬ。今日死ぬか、明日死ぬか、そんなことはわからぬ。

 だが、死ぬことは確実なのだ。


 俺が負けて死んでも、勝った敵も未来において、どこかで死ぬだろう。

 その意味で、同じ運命を背負っている。


 ならば、ここで勝負をかけよう。

 俺は間合いを近づけて、相手の振り下ろす日本刀が届かぬギリギリの間合いに近づいた。

 

 いまだ。

「えい!」

 飛び込んだ。しかし、敵は身を右へ翻して、刀を振り下ろした。

 

 斬られる!

 思わず、左に飛んだ。

 だが、相手の振り下ろした日本刀の先が、俺の右腕上腕に届いた。


 痛みが右腕に走る。

 五センチほど、右腕上腕の肉が切れた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る