吹雪かれて大乱闘
第三戦闘 豪雪に叫ぶ
夢から覚めるかのように意識が身体の内側から外側にかけて浮上してくるのを感じる。
「さっぶ!!!」
俺の寝ぼけまなこを覚ましたのは、全身を針で刺すかのような"痛み"に近い極寒であった。
「アホーッ!これやったら異世界転生やなくて異世界転移やんけーッ!」
空に向かって放たれた俺の絶叫は、吹雪と突風が天に届く前にかき消し、刺すような寒波と共に流れていく。
異世界転生と聞いていたものだから、記憶を保持したまま赤ん坊としてどこかの父母の許に産まれるのか、それとも名もなき少年少女の身体を乗っ取ってしまうのかのどちらかだと思っていたが、自分の身体と持ち物は駅で刺される直前のもの。そのうえ力いっぱいに広がる腹立つぐらいの雄大なツンドラと小学生が考えたような激しさの吹雪...
あの
いや、一度死んで生き返ったんだから転生といっても間違いではないのか?
「だーくそっ...あんちくしょうこんちくしょう愚痴っとってもしゃあないワ!」
とにかく考えたって仕方がない、パァンッ!と両頬を叩いて気合を入れ直すと、俺はリュックサックの中から教科書に押さえつけられ圧し潰されかけていた迷彩柄の特攻服を堂々と引きずり出せば、普段着の上に羽織り立ち上がる。
「しゃっ、状況開始や」
第一に探すべき場所は衣食住の"住"。動転した心を落ち着かせ、次何をするべきか見極めることが出来るシェルターだ。幸いお節介な母親が入れてくれた水筒にはたっぷり麦茶が入っている。水分の心配はまだしなくていい。
ーーー
「あっっっかん、あっかんぞこれ...」
数時間後。俺は自分の選択を早くも後悔しつつあった。
周りは完全にホワイトアウト。辛うじて遠くに見える山脈の影が無ければ、地面を見下ろしているのか空を見上げているのかすら判別できなさそうだ。
当然視界だけでなく天候も最悪だ。手が千切れるんじゃないかと思うほどの寒さもそうだが、馬鹿みたいに降りしきる雪と、雪に混じって降り注ぐ淡い水色の細かい粘着物がトリモチのようにベタベタ纏わりついてきて、一歩進むのにいつもの数倍の体力を持っていかれる。
やはりあの場に留まってかまくらでも掘り、吹雪をやり過ごすべきだっただろうか?かまくらの製作なんかしたことがなく崩落の危険性があったのと、雪を触って作業することで熱を奪われるリスクを考えて突き進むことにしたが、これは完全に失策だったか...
今更考えても仕方がない。ここから強引にプランを変更したって更に体力を奪われるだけだ。
「しっかし幻想的やなあ...」
青い粘着物は地面に着弾すると、ぽやあっと光りながら周囲の雪を溶かし沈んでいく。それが青い蛍が雪に舞っているようでなんとも美しい...ああ、あかん。やっぱ寝てへんのが響いてきたわ、ちょっとここで仮眠でも―――
「あっぶなっ!あっぶあっぶあっぶ!ここで寝たら百パー死ぬ!はよ岩場でもなんでも探さへんと!」
自分の頭に自ら拳骨を落として痛みで無理やり意識を引き戻すと、その瞼が再び閉じ切る前にぐっと目を凝らす。ホワイトアウトで視界は最悪だが、暗所にてそうであるように人間の目には慣れるという機能がある。なにか、なにかないか?
「お、あれは!?」
そうして見つめていること数十秒。身体の深部体温若干と引き換えに、俺の眼は数百mほど先にある巨大な岩らしき物体を発見した。あの大きさなら少なくとも背中を預けることは出来るだろう。ほら穴でもあればよりよいのだが選りすぐっている余裕は全くない。疲労で動きが悪くなった足に鞭を打ち、俺はその岩のもとへと突き進んでいく。
「た、助かった...!」
ーーー
「いや全然変わらへんやないかーい!」
数分後。俺はまた天に向かって叫んでいた。寒さのせいか自分のテンションがおかしくなっている気がする。
「ちゃうねんツッコミでエネルギー使ってる場合ちゃうねん。なんとかせな凍え死んでまうっちゅうねん」
そこは巨大な岩が重なって出来たごく小さな山場で、人一人と荷物がギリギリ入るだけの丁度いいくぼみ、ギリギリほら穴と呼べる程度のくぼみがあった。落盤の危険が常に伴うことを除けば、入り口は屈まねば入れぬほど小さいことも相まって正に理想のシェルターなのだが、俺の頭からはよく考えればわかることが一つすっぽり抜け落ちていた。
「クソッタレ、外と大して変わらんやんけ!」
そう、それだけ小さな浅いくぼみということは、馬鹿みたいに振る雪もねちょねちょうざったい粘着物もなにも防げないということだ。確かに吹き荒ぶ風から身を隠せるだけマシとも考えられるが、絶命までのタイムリミットが伸びただけでこれでは吹雪が晴れる前に氷漬けになってしまう。
この小さな我が国土を防衛するためには、吹雪から守ってくれる壁が必要である。雪を固めて作るか?だがこんな寒さの中雪と戯れていては本当に指が引きちぎれる。
どうしようか途方に暮れていたとき、俺の服中についた粘着物がふと目につく。
「粘着物...そうか、よっしゃ...!」
ーーー
「すまんが泣いてもらうでぇ...!耐えろや俺の一張羅ぁぁっ!」
俺はそれから身体中にへばりついた粘着物をはがしては特攻服に塗りたくり、べったべたにしていった。粘着物はやはり雪と比べてかなり温度が高いようで、床の雪をそのべったべたになった特攻服で拭くとすぐさま水になり、そして瞬時に固まる。
出来る限りしわなく伸ばした特攻服はやがてデカい氷の塊になって、小さな入り口をふさぐ程度なら訳ないほどの大きさになったのである。雪を根性で素手で固めても大して変わらなかったんじゃないかと思うほど手はかじかんだが、特攻服に粘着物を塗りたくる過程で手の甲まで広がっていた粘着物が深部体温を護り切ってくれたおかげで凍傷にならずに済んだ。
これが何かわからないが、とにかくこのねちょねちょには命を救われた。未だに少し青白く光っているのだが、核汚染物質とかじゃあるまいな...
「ふう...これで幾らかマシや...」
だがもし放射能物質であっても、俺はそれを振り払う体力すらもうない。入り口付近に氷の板となった特攻服を押し込み周りの雪を集めたあたりで緊張の糸が遂に切れたのか、俺の身体は糸を絶たれたマリオネットのようにいくらか綺麗になったほら穴の地面に叩きつけられる。もう一歩も動かへんワ...
「ぁ...?」
ふと、身体に感じる違和感で、またまた遠ざかりそうになっていた俺の意識は再び目覚める。
身体に虫が飛び乗った時のような感覚、いや、これは...身体中を虫が這いまわっている感覚だ!
「クソッ!ふざけんなやっ...!」
おいおい、シャブなんてやった記憶はないぞ!恐る恐る手足を見渡すと、そのかゆみの原因が俺の身体の上を"行軍"しているのが見えた。行軍と表現したのは、青白い粘着物が無数の小さな糸くず状に分裂し、全く同じ方向へ、肩から腕、腕から手のひら、そして地面へと向かっていたからである。
『ずぞぞぞろぞぞぞ...』
「うわぁっ!キショ!なんやこれっ!?」
ウジ虫に集られているかのような現状に思わず情けない叫び声をあげる。
だがその耐えがたい身体の上で行われる行軍訓練はすぐさま終わりを告げる。糸虫は一つに固まり、その塊がまたくっつき...そして強力なネオジム磁石がお互い引かれ合うように、バギバギバギッ!と音を立てて特攻服に塗りたくっていた粘着物と合流すると、せっかく作った氷の壁を弾き飛ばして合体し...そして粘着物はその正体を現す。
「めーっちゃ異世界さんこんにちはってか、やかましわァ...!!!」
吹き荒れる突風の向こう側に現れたのは、人の子供ほどの大きさもあるウミウシのようなモンスターであった。
意志の勝利 ~ガチ右翼大学生、上位存在が支配する異世界にてチートスキルなしで最底辺種族から成り上がる~ @arabesuku
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