第8話 国政
「大阪?君、本気か?」張り詰めた空気の中、村下大臣が椅子を後ろに向ける。
「私は本気です…!」
「大阪には避難指示がだされ、水、電気、ガスがあちこち止まっている。道も踏まれてボロボロだ。人命救助も追いついていない。第一、今は牛の怪物の体温が低下しているだけでいつ動き始めるかも分からん。死にに逝くようなものだぞ」。
古田はただ床のある一点を見続ける。
「やめておけ。今、本部で起きていることを書くことでも十分スクープに…」
村下大臣の声をかき消すようにバンッ!!と古田は壁をたたいた。この場にいた全員が何事かと目を丸くして見ている。
「死んでも…死んでも行く価値があると思うんです…!!!」
村下の瞳孔がハッと何かに気付かされたように大きくなる。それはまるで二十年前の自分を見ているようで青臭かった。しばらく考えたのち、口を開いた。
「今は、新幹線も止まっている。一時間以内に自衛隊の補給ヘリが大阪へ向かう。それに乗せてもらいなさい」。
「ありがとうございます」。古田は深々と礼をした。
ヘリは静岡上空を通過した。ちょうどそのころ東京では内閣官房長官、高田誠二が緊急会見を開いた。国家の緊急事態ということもあり、いつもの青い後ろのカーテンは赤色だ。古田は会見の様子をスマホを片手に見守る。ライブの視聴者数は六十三万人と類を見ない数だ。
『本日、十二月二十六日午後二時ごろに大阪府の古墳から出現した三体の巨人について政府の緊急会見を始めます。報道にもある通り、巨人は家やインフラを破壊し、大阪に甚大な被害を及ぼしました。
その後、三体の巨人は大阪湾の方向へ移動したのち、吸収をした形で現在は外観が変わり、体温が低下しており活動を停止中です。巨人の詳細としては三体のうち一体は先日、二十三日に確認されたものと同じであると確認されています。政府は一刻も早く自衛隊とともに人命救助、避難生活の補助、府外への退避に注力をしてまいります。』
あっさりと官房長官が話し終えると一斉に記者の手が上がる。ゆくゆくは自分があの立場に行きたいと考えていた頃が合ったが今はそんなことを言っている場合じゃない。
『JHKの田中です。現時点での被害の規模となると何万人に及ぶのでしょうか?また巨人が再び活動を再開させる可能性はあるのでしょうか?』
『被害の規模としては現在確認中です。停電、断水についても同様です。えー、活動を再開させるかどうかも不明です。可能性は捨てきれません』。次々とまた手が上がる。包帯を巻いた記者があたった。
『毎晩テレビの華山です。政府の見解としては最初の二十三日での大阪の被害の原因は竜巻によるものだと説明していましたが巨人によるものだったということですか?どうして真実を隠ぺいしたのですか?』その声には怒りが含まれているようだった。
『えー…、国民に不安感を抱かせないためです。えー、二十三日時点で被害は不明生物によるものだということは確認されていましたが、恐怖を煽らないように竜巻と異なった表現をしました。そのことについては深くお詫びをします』
コメント欄は非難囂囂で見る気にもならない。
『月光テレビの亀谷です。今回の…』延々と質問が続くが官房長官は現在調査中と不明という二つのワードしか言わない。ほぼ何も情報がないのだ。そんな現場に足をつけようと自分がしていると改めて思うと不安がよぎる。しかし、もう後には引けない。
その後、名古屋を過ぎたあたりで大きなニュースが地球の裏側からはいってきた。アメリカ軍撤退の大統領令だ。アメリカは日米安全保障条約は外部からの武力攻撃に対して効力を発すると解釈し、今回の古墳から出現した巨人は外部ではなく国内の災害と位置付けた。よって安保条約は効力を持たず、防衛する義務はないということだ。自国の人間を守ることで必死なのだ。というわけで先ほどから癖が特徴的な男がひたすらニュースで取り上げられている。
大海の水の様にいま社会は大きく揺れている。
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