第2話

「瑠璃、柊吾くん来てるわよー」


「えっ!? ちょっと待っててって言っといて」


 自分の部屋で鞄の中に入っている物を眺めていたら、母親の思いがけない言葉に心臓が飛び跳ねた。


 いつも起こしにいかないと起きないくせに、何で今日に限って来るのよっ。


 ドア横にある全身鏡でチェックしてから急いで玄関に向かう。もう少し静かに移動しなさいって注意されたけど、今はそれどころじゃなかった。


「よ」


 幼い頃の面影がほとんどなくなっている柊吾。昨日写真を見返していたこともあって変な感じがした。見た目はもちろん、態度も言葉遣いも本当に可愛げがない。


「今日は雪でも降るんじゃないの?」


 可愛くないのは私も、か。

 珍しく迎えに来た柊吾も悪いんだからね。


「いいじゃん。瑠璃好きだろ?」


「は? 寒くて嫌だし。あ、マフラー忘れたから取ってくる」


 これも全部柊吾のせい。調子が狂う。

 部屋に置いたままだった、紫みを帯びた濃い青色のマフラー。私の名前と同じ色。首にグルグル巻き付けて再び階段をおりた。


「おまたせ」


「別にたいして待ってねぇよ。それより、お前今日の放課後ヒマ?」


「……何で?」


 予定聞かれて嬉しいのに、そう答えちゃうのは何でだろう。直したくても直せないからそういう性格なんだろうけど、どうにかしたいとも思ってるのに。




「瑠璃ちゃーん、プリント受け取ってよ?」


 振り返って話しかけてきたのは憎き久保だった。前の席だから嫌でも視界に入ってくる。高校入学前にイメチェンしてモテるようになったからか、口調まで変えて調子に乗ってるチャラい奴。


「その呼び方やめて」


 腐れ縁っていうものが本当にあるみたいで、久保とはずっと同じクラスのままだった。


 そっちは忘れてるかもしれないけど、あの時のことは一生恨んでやるんだから。


「相変わらず塩対応だね。ちゃん付けがダメなら、昔みたいに瑠璃って呼び捨てにしようかな」


「はぁ!? 絶対に嫌」


 何で同じクラスなの。だったら柊吾と同じになりたかったのに神様の意地悪。


「柊吾は良いのに俺はダメなんだ?」


「ダメに決まってるでしょ」


 ホームルームが終わった後のことで頭がいっぱいだから、これ以上絡んでくるのやめてほしい。久保にかまってる暇なんてないのに。


「久保くーん」


 しばらくして聞こえた黄色い声。

担任が出ていくのを廊下で待っていた女子達がいた。手には小さな紙袋を持っている。


 私もあんなふうに渡せたら……

 って、そんなことしたら柊吾にキモいって言われるか。


「じゃあね、君嶋。頑張って」


「頑張ることなんて何もないから」


 見透かされてる気がして苦手でもあった。

教室に入ろうとしていた柊吾にも、その意味深な笑みを向けないでよ。

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