素直になりたい

安東アオ

第1話

 バレンタインデーは好きな子にチョコレートをあげる日なんだよとお母さんに教えてもらって、わくわくしながら一緒に作った記憶がある。


 幼稚園児だった私が初めてあげた相手は、隣に住む同じ年の麻生柊吾あそうしゅうご。お母さんに着いてきてもらって家まで届けにいったっけ。


『るりちゃん、どうしたの?』


『きょうはばれんたいんだから、しゅーごくんにあげにきたの。ちょこれーとあげる』


『わぁ! ありがとう』


 あの頃は私も柊吾も可愛かったなぁ。

 それから毎年普通に渡してたいたのに、ある出来事をきっかけに渡せなくなった。それは小学四年生のこと。


『チョコ渡すってことは、やっぱり柊吾のことが好きなんだろ? ヒューヒュー』


 柊吾の家のインターフォンを押した後、クラスメイトだった久保にからかわれた。タイミング悪く通りかかったらしい。


『ち、違う! これは……お母さんに渡しに行くよう頼まれたの! 中身だって何か知らないんだから!』


『瑠璃の嘘つきー。お前が柊吾のこと好きなのはバレバレなんだからな』


『違うって言ってるでしょ! 柊吾のことなんてこれっぽっちも好きじゃないってば!』


 玄関ドアを開けた柊吾にも聞かれて、押し付けるように渡して逃げたんだよね。思い出すだけでも最悪な気分。




『なー、みんな知ってるか? 瑠璃の好きな奴って柊吾なんだぜ』


『しつこい! 違うって言ってるでしょ!』


 教室で会うたびに久保がからかってくるから、柊吾のことなんて好きじゃないって何回も否定して。


『柊吾はどうなんだよ? お互い呼び捨てにしてるんだから好きなんだよな?』


『……瑠璃は家族みたいな感じだから、そういうふうに見たことない』


 ショックが大きくて、しばらく久保のことを恨んでた。


 その翌年からは作りすぎたとか、クラス全員の男子にあげることになったとか、何かしらの理由付きで渡してたんだよね。


 中学生になって身長が抜かされた頃から状況が変わって、私以外の女の子からもチョコを貰うようになって。


 誰かと付き合ったとかじゃないのに何だか面白くなくて、しばらく一人でふてくされたりもしてた。手作りに自信がなくなったから市販品に変更して、幼なじみだから義務であげている感を漂わせたり。


 うん。振り返ってみても本当に可愛くない。初恋こじらせすぎてる。


 何だかんだ言いながら、毎年欠かさず渡していることだけは我ながら凄いと思うけど。それはきっと、柊吾が律儀にお返しをくれるせい。


 卒業したら別の大学になるし、今年こそ普通に渡すんだ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る