空を駆ける賢者と雷の竜

星灯ゆらり

念動力ハーピー、嵐の中の大逆転!

荒れ狂う嵐の中、雷鳴が空を引き裂き、冷たい雨が容赦なく降り注ぐ。岩だらけの丘の上、四人の冒険者たちは必死に身を隠しながら、目の前の巨大な影を睨みつけていた。


「これ…どうするんだよ!このままじゃ全滅だ!」

剣士アルドが崩れかけた岩陰に身を潜めたまま叫ぶ。鋭い目つきの彼だが、その顔には焦りが滲んでいる。


「魔法のバリアが限界よ!次の雷撃が来たら…!」

細い指で魔法陣を描いているのは魔法使いミーナ。力尽きそうな魔法の光と共に、その瞳にも恐怖が揺れていた。


「ちっ、やれることはやるしかねぇ。おい、お前ら!俺が時間を稼ぐ!」

盾役のガロンが低くうなり、濡れた盾を構えた。だが、その表情には諦めにも似た覚悟が滲んでいる。その大きな体躯が頼もしさを感じさせるが、緊張で眉間に深い皺が刻まれていた。


彼の目に映るのは、翼を広げ空を滑るように飛ぶ巨大なモンスター――雷翼竜。


雷翼竜の濡れた鱗を青白い光が走り、焦げるような匂いが漂う。巨大な翼を広げると、荒々しい風が巻き起こり、大地をえぐるような咆哮が空に響いた。


「ちょっと待った、それやられると私たちが困るんだけど?」

空から響く軽い声が、緊張で固まった場を崩す。荒れ狂う風をものともせず、滑空してきたのは、翼を広げた一羽のハーピー。


その羽根は雨に濡れて光り、小柄な体ながらもどこか堂々とした雰囲気を漂わせている。フルカと呼ばれる彼女は、嬉しそうに翼を羽ばたかせながら、仲間たちの視線を一身に集めた。


「フルカ!戻ってくるな!」

アルドが叫ぶが、ハーピーの少女――フルカはその声に耳を貸さない。彼女は雨粒をものともせず、嬉しそうに翼を羽ばたかせながら、雷翼竜を見上げて言った。


「ねえ、これ思ったんだけどさ――この雷、利用できないかな?」


「はぁ!?正気か!」

ガロンが目を剥くが、フルカは平然とした様子だ。むしろ、その大きな青い瞳には好奇心が輝いている。


「だって、雷ってすごいエネルギーなんでしょ?だから上手く使えば勝てるかも!」

「そんな簡単な話じゃない!相手は飛んでるんだぞ!」

「そう、それがポイントなの!」


フルカは翼を広げ、雷翼竜と同じ高さまで舞い上がる。彼女の小柄な体は、嵐の中でまるで迷子の鳥のように見えたが、彼女自身には迷いなど微塵もなかった。


「ねえ、アルド、あんたの剣貸して!」

「何言ってんだ、お前!」

「いいから!信じてみてよ!」


半ば強引に剣を念動力で引っ張り上げるフルカに、アルドたちはただ呆然とするしかなかった。フルカは空中で剣をくるくると回しながら、満面の笑みを浮かべて言い放つ。


「さあ、みんな!この嵐、最高に楽しくなるよ!」


その言葉と同時に、雷翼竜が轟音を響かせて突進してきた――。



雷翼竜の突進が迫る中、フルカは大きく翼を羽ばたかせて空を舞い、鋭い風切り音を立てながらモンスターの横をすり抜けた。

「わっ、近い!でもこれくらいならいけそう!」

楽しげな声を響かせながら、フルカは念動力で浮かせた剣を雷翼竜の目の前で回転させる。


「アルドの剣、ちょっと重いけどいい感じ!これでターゲットをおびき寄せるの!」


下から見上げるアルドが呆然とした顔をして叫んだ。

「おい、何する気だ!俺の剣を盾代わりに使うな!」


「うん、盾じゃなくて避雷針代わりだよ!」

フルカはニッコリ笑うと、雷翼竜を引きつけながら低空飛行に切り替えた。念動力で剣を操り、まるで見えない手が自分の手のように動く。剣の先端が空気を裂き、鋭い音を立てて雷翼竜の鼻先をかすめる。


「さあ、こっちにおいで!」

翼竜が大きく羽を広げ、甲高い咆哮を上げた。その声に合わせるように雷鳴が轟き、雨粒が地面に叩きつけられる。


フルカは空中でバランスを取りながら叫ぶ。

「ミーナ、ガロン!そこに落ちてる武器を拾って、全部ここに投げて!」


ミーナは驚きの声を上げた。

「全部って、そんなの無理よ!こんな嵐の中で!」

「大丈夫、私が拾うから!念動力でね!」


ミーナとガロンが渋々地面に散らばった武器を集めて投げ上げると、フルカが念動力でそれらを空中に並べ始めた。剣や槍が風に乗って浮かび上がり、まるで見えない糸に吊るされたように回転する。


「これをちょっとだけ配置換えして…はい、完成!」

空中に浮かぶ金属の武器が螺旋状に並び、巨大な避雷針のような形を作り上げた。


「これで雷を引き寄せるのよ!」 フルカの声に、アルドが焦りの表情で叫ぶ。

「ちょっと待て、それでモンスターに当てられるのか?」

「うん、大丈夫!ほら、見てて!」


雷翼竜が再び空高く舞い上がり、その翼から青白い光が走る。フルカはそれを見逃さず、念動力で浮かせた武器を調整しながら笑みを浮かべた。

「ほら、雷って金属に吸い寄せられるんだよね!」


雷翼竜が放つ稲妻が、空中に並んだ金属武器を伝い、一瞬の閃光が嵐の中を照らし出した。武器の列が火花を散らしながら、雷のエネルギーを翼竜へと返す。


「やった!狙い通り!」

雷を受けた翼竜が悲鳴を上げて体勢を崩す。空中で大きくバランスを失い、そのまま地面に向かって落下していく。


だが、武器の配置が崩れ始め、避雷針が不安定になった。翼竜が最後の力を振り絞って反撃を試みる。

「えっ、まだ立ち上がるの?それはちょっと予定外!」


フルカは慌てて念動力で崩れた武器を再配置しようとするが、集中力が追いつかない。風が強く吹き荒れ、武器が次々と吹き飛ばされそうになる。


「こんな時こそ新技だよね!」

フルカは翼を広げ、念動力を限界まで使う。複数の武器を一斉に操作し、まるで見えない無数の手が働いているかのような精密な動きで再び避雷針を整える。


最後の雷が発射され、避雷針に誘導される。激しい稲妻が翼竜を直撃し、閃光が嵐の中を照らした。巨大な体がついに動きを止め、静寂が訪れる。


「ふぅ…これで終わりかな?」

フルカが一息つきながら翼をたたむと、下から仲間たちの歓声が聞こえた。



稲妻が散り、空に響いていた雷鳴がようやく静まった。荒れ狂っていた嵐は嘘のように収まり、雨雲の隙間から淡い月明かりが地面を照らしていた。地上では、冒険者たちが呆然とその場に立ち尽くしていた。


「……終わったのか?」

剣士アルドが信じられないという顔でつぶやく。視線の先には、地面に倒れ込んだ巨大な雷翼竜の姿。体中から煙を上げていて、もう動く気配はない。


「信じられない…。あのモンスターを倒せるなんて…」

魔法使いミーナが震える声で言った。その手には焦りを隠せない魔法陣が淡く光っている。


盾役のガロンは大きくため息をつき、重い盾を地面に下ろして座り込む。

「はあ、もう二度とこんな依頼受けないぞ…。命がいくつあっても足りねぇ」


そんな中、一人だけ笑顔を浮かべて空を舞う姿があった。


「ねえ、見た!?やったでしょ!?」

フルカが大きく手(翼)を振りながら降りてくる。その顔には得意げな笑みが浮かび、仲間たちを見下ろす目は、まるで「どう、私すごかったでしょ?」と言っているようだった。


アルドがため息交じりに呟く。

「すごかったのは確かだ。でも、普通じゃないぞ、お前のやり方は…」


「えー、そう?うまくいったんだからいいでしょ!」

フルカは念動力でアルドの剣をひょいと浮かせると、自分の手元に戻して彼に投げ返した。

「ほら、剣ありがとうね。すごく役に立ったよ!」


「役に立ったんじゃなくて、無理やり使ったんだろ!」

「どっちでもいいじゃない!」


二人のやり取りを横で聞いていたミーナが笑い出した。

「まあ、確かにフルカのやり方は型破りだけど、結果オーライね。ありがとう、フルカ」


「うん!私、楽しかった!」

フルカは翼を広げ、空を仰いだ。嵐が去った空は澄み渡り、星が瞬いている。


雷翼竜との壮絶な戦いを終えたフルカたちは、達成感と疲労の入り混じった表情で空を見上げる。

「よくやったな、フルカ」

アルドが剣を収めながら微笑むと、フルカは満面の笑みで翼を羽ばたかせた。

「でしょでしょ!私、かなり活躍したよね!」


ガロンが地面に腰を下ろしながらぼやく。「お前の無茶っぷりに付き合うのは骨が折れるぜ。でも…悪くなかったな」

その言葉に、ミーナも微笑みながら頷く。「そうね。こんな型破りな戦い、忘れられないわ」


その時、フルカが空を舞い上がり、視線を遠くの山に向けた。

「あれ、なんだろう?」

彼女が指差した先、嵐が去った空の下に不思議な光が見えた。それは、ただの星の瞬きとは違い、山頂にぽつんと浮かぶように輝いている。


アルドがその方向に目を凝らし、低く呟いた。「あの光…何か嫌な予感がするな」

フルカは興味津々な表情で拳を握りしめた。「ねえ、次はあそこに行こうよ!絶対何か面白いものがあるはず!」

「いや、お前は少し休め!」

アルドが慌てて制止するが、フルカの目はすでに次の冒険に向けられていた。





─── 後書き ───

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