ささやかな髪飾りを軸に、ひとりの女の人生が時代のうねりと共に姿を変えていく過程が、重厚だけれど読みやすい筆致で描かれていました。農家の嫁としてのささやかな幸福と、宮廷に上がってからの冷徹な決断とが同じ人物の中に同居していて、その変化が断ち切れない感情と理性のせめぎ合いとして伝わってきます。政と私情が絡み合う場面も、過度に説明せず情景と会話で見せてくれるので、歴史を知らなくても人物の心の動きに自然と引き込まれる一編でした。