誕生花
せにな
君のほほ笑み
――俺には気になる人がいる。それと同時に、その人を妬んでいる。
「あっ、今日も来てくれたんだ」
花のように咲き誇るそのほほ笑みと共に紡がれるのは嬉しげな声。
まるでこの時間を待ち望んでいたかのように、ベッドから体を起こす
「ルーティーンみたいなもんだからな」
「私のお見舞いをルーティーンにしてくれてるんだ?相変わらず優しいんだね」
イヌホオズキを絡めた花束を花瓶に挿していれば、聞こえてくるのはそんな言葉。
何十回、何百回、何千回と俺の感情を突き刺したそのほほ笑みは、相も変わらず俺の背中を突き刺す。
「優しい……ね」
「すっごく優しいよ。毎日ありがとうね」
きっと俺はすごく捻くれているのだろう。
穂稀が呟いた『優しい』なんて言葉が当てはまらなくなってしまうほど捻くれているのだろう。
(その『優しい』という言葉は自分自身に言っているのだろうか)
前日に渡したニチニチソウの花を処理しながら思案してしまう。
穂稀を見て分かったことがひとつある。
それは『優しい人は己の感情を隠す』ということ。
優しい人が真っ先に取る行動は、相手の機嫌を損ねないための処世術。
まるで自分の感情なんてそっちのけで行う
人によっては煽てられて嬉しいのかもしれない。
けど、俺はその煽てなんて嬉しくもなんともない。それどころか嫌悪感すら抱く。
11月22日の穂稀の誕生日の日。
俺はリンドウの花や、偽物のパールが埋め込んであるネックレスを毎年のようにプレゼントする。
でも、その度に穂稀が口を揃えて紡ぐのは、
『ありがとう!』『嬉しい!』『綺麗!』
そんな嘘の言葉たち。
そのすべてが高らかで、綺羅びやかな声色。
もちろん俺も喜ばれて嬉しい。
けれど、それ以上に湧くのは妬み。
毎日お花を送られて、毎年プレゼントを渡されて、どうして『迷惑』の一言が出ないのか。
どうして嘘ばかり並べるのか。
その体の容態だってそう。
どうして俺の前では元気な顔を見せるのか。どうして俺に――誰にも弱音を吐かないのか。
「……嫌いだ」
「ん?なにか言った?」
「んーん。なんでもない」
心の底から俺は『優しい』が嫌いだ。
俺にくらい弱音を吐いてくれよ。
俺にくらい泣き顔のひとつを見せてくれよ。
自分でも傲慢だとは思う。
けれど、君1人に抱え込ませたくない。
だから俺はずっと君の傍に居続ける。
1月21日の俺の誕生日の日。
君の退院日が来たとしても、俺は君のところに行く。
誕生花 せにな @senina
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