第3話

俺は両手で顔や目に当たる風を防いだ。体が動く。


『やはりダメじゃったか。格が足りんな』


「やはりって!なんなんだ。」


目を瞑っているのに、山伏の形が見えていた。動くようになった手足で先程の風や山伏からのオーラのようなモノを払う。しかし目を開ける気には不思議とならなかった。視野が拡張し、常世に馴染んだ気がしたからだ。


『ズレた霊体の隙間に入った穢れを取り除いてやったが、お主のままじゃった。それだけじゃ』


「格って言ってたろ!それはなんだ。それがあれば俺は変われるのか?」


『お主はお主。それだけじゃ、ワシがお主にする事など些細な事でしかない。お主の持っている因果がここでなす事がないのであれば、お主が何処ぞへ行って探し出してみれば良い』


「ここはなんだ」


『ここは常世、現世の影、いや光、初まりも無く、終わりも無い時空の先じゃ』


「はぁ⁇俺、動けてるぞ」


『その目(まなこ)のせいじゃろう、お主の目は真理を見ている。見ている自分がいるから、お主だけはここで動けてるのじゃろう』


「ズレか…」


『やはりダメじゃったという事じゃ、このままで良ければそれで良し、嫌ならお主でどうにかせい』


「どうにかって?ここに来て、見てしまった。知ってしまった。戻れっこないだろ。てか、ここからどうやって戻るの?」


『時空の先じゃ、一瞬の瞬きの永遠、戻りたければ戻れるじゃろう』


「…、ちょっと待て!もしかして知らない?戻り方」


『ワシはここにおったし、ここにいる』


「知らないんだな!余計な事しやがって、どうすんだよこれから」


『目覚めればよいじゃろ、好きなとこへ行け』


「…、好きなとこって、どこにも行けるの?…いや、え〜と!異世界転生なんかも対応してくださいます?」


『何を言っているのじゃ?』


「いやだから、剣とか魔法の世界でモンスターとかをやっつけてレベルアップするみたいな、はは。でもファンタジーの世界は人の妄想かぁ」


『お主の言っている事はワシにはわからんな、しかし人が思う世界なら必ずある、お主の目が導くであろう』


山伏はそう言うと薄れていき、収束して、一粒の粒子になった。

その粒子はやがて輝きをまし、常世全てがひかり、俺の目の前は真っ白になる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る