第300話 開幕の知らせ

 天気は晴天、雲一つない青空の下。俺は校庭に出て、やや高いところから見下ろしていた。

 眼下には、スカイグラス学園が抱えるすべての生徒がクラス別に集まっている。

 こうして集まるとそれなりに数がいて壮観だな、と感じた。


「エンデー、高さ、このくらい?」

「おう、いい感じだぞ。流石はムゥだ」

「ドヤァ」

「……よくそこまでのドヤ顔ができるもんだな」


 これぞ、というドヤ顔を披露するムゥに呆れたように返す。

 校庭で朝礼のようなものをする感じになるので、イッテツさんに台でも作ってもらおうかと思ったのだが、ムゥが必要ないと手をあげた。


『私、魔法、風の足場、作る。イッテツ様、大丈夫』


 やけにイッテツ様、大丈夫、を強調していたが、金がかからないし手っ取り早いからありがたいことだ。

 言葉に甘えて俺は今、ムゥの風魔法で作った台に乗っている形になる。

 ライアスと一緒にマルク・マギカを見下ろした時に近いな、と昔を思い出し、少しして意識を切り替えた。


「よしっ、始めるか。今回お前達に集まってもらったのは他でもない。すでに噂にはなっているが、クラス対抗戦の詳細な説明のためだ」


 要件を伝えると、生徒達は予想していたようで、全員が俺に注目している。

 息を大きく吸って、なるべく大きな声で話すことにした。


「これから期日の日まで、選出された参加クラスの代表者は通常の授業と並行して担任と個別授業を行う。その間、各クラスメイトは代表者の成長に力を貸す。一緒に自主練したり、他クラスの動向を偵察したり、って感じだな」


 余談だが、最初の方こそイベントの名前に相応しく、クラス全員での戦いを考えた。

 しかし、イヴ達の負担と、今回の最大の目的は『自分達の代表者の戦いを外から見る』ことから、この形式にしている。


「そして期日の日に、それぞれの代表者が担任と模擬戦をしてもらう。それを俺たち教員が観戦して採点するってのが大まかなルールだ。持ち点は一人5点。審査員は担任を除いた8人で、40点満点だ」


 俺、イヴ、ムゥ、ルイ、サナ、アンナ、ユウリィ、ミルキー。

 さらにはそこに、我もやりたいのじゃー! と駄々をこねたロードで9人。

 シエラがいればちょうど10人だったのになぁ、と思ったりした。


「評価は代表生徒の実力ではなく、どのくらい成長したかを判断する。できることが増えたとか、魔法や戦技の使い方が上手くなったとか、精神的なものだって評価対象だ。ここまでは良いか?」


 ここが学園である以上、大事なのは強さではなくどれくらい成長したかだ。

 実力はもちろん大事ではあるものの、それだけが評価基準じゃない。

 このことは生徒達もよく分かっているのか、反対意見は出てこなかった。


「じゃあ次……あ?」


 次に話を移そうとした時、予想以上に俺の声が大きく、そして響いているのに気づいた。

 視界の隅に、風に流れる白髪が映る。

 そちらに視線を向けてみると、イヴが俺を見上げてニコニコと笑顔を浮かべていた。

 どうやら風の魔法で、俺の声を増幅してくれているらしい。


「おぉ……こいつは楽でいいな」

「む」


 発言の途中でムゥの声を聞いたが、それを無視して次に移る。


「じゃあ次は参加クラスと代表についてだな。ちなみに参加しないクラスは、各担任がクラスで時間を作って、色々指導するってのは聞いてる。詳細はアンナ達が話すと思うが、存分に担任に甘えて、精進するように」

「えい」

「じゃあ--!?」


 話そうとしたとき、俺の声がさらに増幅され、爆音が響き渡る。

 あまりのうるささに俺はもちろんのこと、生徒達も耳を抑える始末だ。

 俺は何が起こったかをすぐに理解して、隣に浮かぶムゥを睨んだ。


「……む、やりすぎた」

「……お前なぁ」


 イヴが俺を補助したのを見て、ムゥもやってくれたらしいが、増幅度合いが強すぎたらしい。

 少し驚いたのか、ムゥも目を見開いている。


「ごめん」

「……ったく、次からは気をつけろよ? あー、あー……いい感じだな」


 再び声を出し、ちょうど良い音量なのを確認。

 イヴとムゥの魔法が互いに増幅し合い、ちょうど良い声量にしてくれるようだ。


「ぐぬぬ……なぜわたくしは魔法が使えないのか……おひさしのばか、あほ、あんぽんたん、おたんこなす、なます斬りにしてやります」

「サ、サナさん落ち着いて……」

「で、参加クラスは四つ。イヴクラスにムゥクラス、サナクラスにルイクラスだ。それぞれの代表者は、イヴクラスからティルファ、サナクラスからシュウヤ、ルイクラスからはラディウス……そしてムゥクラスからは、アルフ」


 最初に告げた参加クラスと各代表の順番が違うことに途中で気づいたが、そのまま続けた。

 無意識でアルフを最後に回してしまったらしい。

 結果、生徒達はざわつき始めた。


『アルフ……? 誰?』

『ロスティアさんじゃないのか?』

『どういうこと? 勝負を諦めたの?』

『なんだかよく分からないけど、ロスティアが出てこないならラッキーですね!』


 戸惑いの声から、ムゥクラスに勝てるのでは、という希望的な観測を告げる生徒まで現れた。

 それを注意しようとしたとき、俺のすぐ横に一人の人影がすっと浮かび上がった。


「面白いこと、言うね?」


 浮かび上がったムゥ。そんな彼女の魔法で増幅させた声が、校庭に響き渡った。


「私、選んだ、アルフ。彼女、一番、強い。それでも、それ、言える?」

『…………』


 鶴の一声とはこういう事を言うのだろう。

 宙に浮いているのもあり、絶対零度の眼光で見下ろすムゥの姿は生徒には恐ろしく映ったか。

 こいつ、魔塔では魔法ぶっ放して生徒から恐れられてたらしいしなぁ。


『私が強いと思って選んだアルフに、よくもまあそんな事を言えたものだ』

 という事を伝えて満足したのか、ムゥは放出していた雰囲気を霧散させる。

 それと同時に、生徒達も認識を改め始めた。


『あ、あのムゥ先生があそこまで……』

『これは強敵かもしれません……』

『アルフさん……しっかりと覚えておきましょう』


 一気に変わった流れ。ちなみにその当人であるアルフはクラスメイト以外に認知されていないので視線を感じることはないようだったが、物凄く居心地悪そうにしていた。

 ただそれでも評価されることは嬉しいらしく、ほんの少しだけ雰囲気は柔らかい。

 目立ちたくない、という気持ちはあっても、普通の女の子であることに変わりはないんだと、改めて理解した。


「俺たち教員は、今日からしばらくお前達の授業をちょくちょく見学する。成長度合いを見るには、スタートラインを詳しく知る必要があるからな。けど見学してるからって声をかけちゃいけないわけじゃねえ。それぞれ交流しながら、教われるところは教われよ。何も担任からしか教わっちゃいけないなんてことはねえんだから」


 さまざまな教員から小さい指導を受けろ、と伝えると、生徒達は一同に頷いた。

 色んな事を知れるってのは良い事だし、優秀な教員が多いからこそ、それを活用して欲しいと思う。

 その結果、複数の教員達から異なる事を言われて混乱する生徒も出てくるかもしれないが、悩むのもまた大事なことだ。


「クラス対抗戦については以上だ。何か質問はあるやつはいるか?」


 尋ねるも、手が上がる事はない。

 流石はユウリィが考察した内容。細かい所まで決められているようだ。

 問題がないことを悟り、俺は頷いた。


「じゃあ話は以上だ。引き続き授業を頑張ってくれ」


 地球にいる時から思ってたが、朝礼とかの偉い人の挨拶は短い方が良いだろう。

 視線をムゥに向ければ、彼女は頷いて地面への足場を作ってくれる。

 それを降りて、地面に足をつけて、なんとなく大地の感触を確かめるためにトントンと靴のつま先を地面に軽く打った。


(始まったか……)


 シュウヤ達四人がどんな風に成長するのか。

 そして、それ以上にイヴ達がどんな授業を彼ら彼女らにするのか、その報告が聞ける日が、今から楽しみだった。


 クラス別評価対抗戦、開幕。



--------------------------

【あとがき】

今回で300話(プロローグ入れると301話)を達成しました!

総文字数も100万文字を越えたということで、長く続いたなぁ、という印象です。

こんな風に作品が毎日続くのもモチベーションがあるから。そしてモチベーションがあるのも皆さんが応援してくれるお陰だからですね。本当にありがとうございます!


この調子で次は連載一年記念の365話を目指しますので、今後もお楽しみいただけますと幸いです!


紗沙

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る