第35話 良い報せ

授業も終わりあとは帰りのHRを待つばかり。部活は引退していないが、僕が行ったところで見学するだけ。もうしばらくの間、練習に顔を出していない。この大きなリュックに教材だけ入れるのは何だか寂しい、帰りの準備をしながらそう思った。


担任の前平先生が教室に入ってきた。うちの高校は、二年生から三年生のクラスは持ち上がり制となっている。よって担任もクラスメイトも、二年生の時から替わっていない。   


「はい、席に着いてください。HR始めますよ」


前平先生は国語の先生らしく、いつも端的に諸連絡を伝えてくる。おかげで他のクラスより、HRが終わるのが早い。今日もそろそろ解散となりそうだ、そう思ってリュックに手を掛けようとしたところ、先生に待ったをかけられた。


「まだ連絡事項は終わっていませんよ。実はこのクラスの生徒のことで、良い報せがあります」 


前平先生はそこで一旦話しを止めた。クラスの中が少しざわめく。先生がみんなに対して焦らすような態度をとるのは珍しい。生徒たちの様子を見て、先生の口から白い歯がこぼれて見えた。


「はい、じゃあ発表しましょうかね。先日、夏休みの課題で皆さんに読書体験記を提出して頂いたと思います。毎年、全校生徒の作文の中から最も優れた作品を一つ選出して、コンクールに応募するのですが、今年は何と、このクラスの生徒の中から応募作品が選ばれました」


「おおー」クラスメイトは、誰が選ばれたのか周りと予想し始めた。そして、みんなの視線が再び前平先生に集まる。先生は教室の後ろの席の方に目を向けた。


「――渡辺さん、おめでとうございます」


「おおー!」さっきより一段と大きな歓声が上がった。遅れて拍手が巻き起こる。当の京香はというと、信じられないといった様子で困惑気味の顔を浮かべていた。前の席のトッチーが「おめでとう」と僕に向かって言ってくる。教室が落ち着いてきたところで、先生が話を続けた。


「それでですね。渡辺さんには来週の全校集会で、今回応募が決まった作品をスピーチしてもらいたいと思います。皆さんもクラスメイトの勇姿をしっかり見届けるようにしましょう」


クラスメイトが元気よく返事をしたところで、帰りのHRが終わった。しばらくの間、京香の周りを女子達が囲んで、祝福の言葉をかけている。


その輪の中から少し外れたところに相本が一人立っていた。僕の目には、相本が何だか不満げな顔をしているようにしか見えなかった。


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