第13話 バレンタインデー
僕は記念日というものに、あまり興味がない。自分の誕生日でさえ、周りに言われて気がつくレベルだ。
そんな僕でも意識してしまう日、それが今日二月十四日、バレンタインデーだ。チョコが特別好きなわけではない。ただこの日ばかりは、世の中の男子同様、何だかそわそわとした気分で一日を過ごすことになる。
例年、僕は女子から貰ったチョコを持って帰るための空袋、を用意する程度にはバレンタインを享受している。もちろんほとんどが義理なのだが、ラッピングの凝ったものを渡された時などは、なんだか特別に嬉しく感じる。
今年は本命の、と言っていいのか、渡辺からのチョコが待っている。そう信じて学校に来た。念のため今年も空袋は用意している。
しかしどうしたことか、僕のもとには朝から何の音沙汰もない。渡辺のことだから、昼休みにこっそりと渡してくれるのだろう。そんな期待は見事に外れて、気づけば帰りのHRの時間になっていた。
渡辺はバレンタインに関心が無いのか、いやそんなことはないと思う。休み時間に女子のグループ内で、渡辺と女子達がチョコを交換し合っているのを僕は見た。友達の分はあって、僕のは無いとなると、少々胸が痛んでしまう。
もしかすると、去年のクリスマスの日、僕が彼女に何もしなかったことを、渡辺は怒っているのかもしれない。クリスマスを蔑ろにしておいてバレンタインを望むのは、虫が良すぎると言われても仕方がないのか?
帰りのHRが終わった。このまま帰ってしまってもいいのか、そう迷っていたが、「何か忘れてない?」と渡辺に聞きに行くような真似もしたくない。諦めて部活にいこう。僕はリュックを背負って教室を出た。
今年は出番がなかったな、せっかく準備した空袋はぺったんこのままリュックにしまってある。他の女子にチョコを貰っている姿を渡辺に見られたらどうしよう、そんな不安は杞憂に終わった。
足取り重く廊下を歩いていたその時、「ドスンッ!」背後から突然タックルを受けた。少しよろけた僕は、何事か、と後ろを振り向く。タックルの犯人は渡辺だった。
「これ、美味しくないかもだけど」そう言って僕に、透明な袋でラッピングされたチョコを手渡すと、逃げるように教室へと戻っていった。不意の出来事に、僕はポカンとしたまま彼女の背中を見送っていた。しかし、すぐにまた部活へと歩みを戻す。渡辺から貰ったチョコは形が崩れないよう、両手で優しく持っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます