第2話 部活終わりの部室

「伊織、何だか今日全然集中できてなかったな」


 サッカー部の練習が終わった後、部室でキャプテンにそう言われた。

 キャプテンといっても、皆が彼をそう呼ぶようになってまだ日は浅い。


「三年生が引退して気が抜けてるんじゃないか? 」


 キャプテンの問いに「そんなことはない」と僕は首を横に振った。


「じゃあ、やっぱりあれか」キャプテンが今度は核心を突くように言ってきた。


「選手権予選のこと、まだ引きずってるんだろ」


 図星ではないが、否定もできなかった。


「まあ、それはあるかも」僕は沈んだ声で答えた。


「あの試合を落としたのは伊織のせいじゃないって」


「伊織のせいじゃない」いろんな人に掛けられたこの言葉で、目の前にいるキャプテンも僕のことを励まそうとしてくれる。


 どうして外してしまったのだろう。


 あの場面を思い返すたびに、身体全体が嫌な感覚に襲われる。


 相手ディフェンスの連携ミスから巡ってきたチャンス、キーパーと一対一になった時点でゴールは約束されたようなものだった。それなのに――



 帰り支度を済ませ部室を出ると、外で着替えをする後輩の姿が目に入った。


「寒くなってきたから、風邪ひかんようにね」と一声かける。


 部員の多いうちの部では、部室の中で着替えが出来るのは基本的に三年生だけ。

 ただ、その三年生はこの前の試合を最後に引退していった。


 あのシュートが決まっていたら、僕はまだ外で着替えていたのかな、心ともなく自虐的な思考が働く。


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