第一話 途中の始まり
第一話 途中の始まり 1
廊下を歩く。
右手で壁に触れた。石造りの建物はひんやりとしている。つなぎ目に指が引っかかる。親指で砂を擦って落とす。そろそろこの壁を拭いた方がいいかもしれない。午前中はいつもどこかしらを掃除をしている。掃除は成果がすぐに見えるし、有意義に時間を使っている気がする。難点は一日に掃除ができる範囲は限られていて、この建物は広すぎて永遠に終わらないということだ。
この城に、十六歳の誕生日、その翌日から私はずっといる。
たった一人きりで。
開きっぱなしのドアを抜け、広い部屋に入る。
部屋の中央には横長のテーブルがあり、左右に硬い椅子が三脚ずつ向かい合わせに置かれている。テーブルかけられた白い布は私が定期的に洗濯をしているから清潔だ。私しか使わないのだからもう少し適当にしていてもよさそうだけど、放っておくと気分がよくないのできれいにしているのだ。ここは食卓と呼んでいる。
更に奥に進み、別な部屋に入る。そこは調理場だ。
数日前に焼いたライ麦のパンを一つと燻製された豚肉をスライスしたものを何切れか木製の皿に乗せて食卓に戻る。味はさておきとりあえずお腹を満たすことができる。
午後は城の端にある書庫に向かう。書庫にはたくさんの本があり、その中からまだ読んでいない本を一冊取り出して自室へと戻る。そこでベッドに転がりながら日が暮れかけるまで読む。
日が暮れる前にまた食卓へ行く。昼と同じような食事を取る。
暗くなると、各部屋にある燭台の上に置かれた丸い玉がほのかに光り部屋を照らす。城の構造を熟知している私からすれば、明かりがなくても移動をすることはできるのだけど。
夜になったら早々に眠り、また日が昇る朝まで待つ。
そして朝起きて、朝食を取り、城のどこかを掃除して、昼食を取り、本を読み、夕食を取り、寝る。
ただただこれを繰り返している。
今日も同じはずだった。
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