君に彼氏は作らせない~成功報酬300万に釣られてお嬢様の彼氏作りの邪魔をしていた俺が、いつのまにか疑似彼氏になっていた件~

一ノ瀬 六葉

第1話 ウソ告

『恋人の楽園』


第二校舎裏にそういう名前の小さな花壇がある。おそらくこの学園に通う者なら全員知っているはずのそこは、生徒たちからは憧れと親しみを込めて『楽園』と呼ばれている。


少し奥まった場所にあるため、この花壇の周辺は他人の目を気にせずに話ができるのだ。


生徒が意中の子を呼び出して告る場所として有名であり、これまで多くの在校生が告り告られしてきてた。


噓か真かここで成立したカップルは末永く幸せになるとかならないとかのジンクスまである。


モテる者は楽園に呼び出される度に「あ~またかぁ、面倒だな~」などと周囲に聞こえるように呟きながら足取り軽くその場所へ向かう。モテない者はその幸せそうな光景を眺めながら、いつか自分もあそこに呼び出されたいと夢想する。


もちろん俺は後者だ。呼び出された男子を心底妬みつつ「がんばれよー」などど心にもない言葉を送っていた。


だがそれも昨日まで。


高校一年ももうすぐ終わろうかという三月、ついに俺も楽園に呼び出されたのだ。つまりアオハルデビューなのだ!これでクラスメートの女子から「藤野ふじのってさー、楽園に呼び出されたことある?」という殺傷力高めの質問にも「あるよ、一度だけね」と微笑返すことができる!どうせないでしょ(笑)という嘲りの表情で聞いてくる女子の鼻を明かすことができるのだ!



と、浮かれるのはここまで。実は俺、バイトと勉強に追われて遊ぶ時間皆無なんだよね、本当に。


あまりこの言葉は好きじゃないんだけど、うちは母子家庭だ。しかも子供が三人。長男の俺が高校一年生、妹が中学三年で弟が小学四年生。ぶっちゃけ貧乏。どのくらい貧乏かって言ったら、俺が放課後にバイトしないと、夕食が白米とみそ汁と海苔の佃煮だけになってしまうくらい貧乏。

しかも理由わけあって成績も落とすわけにはいかないから、一日二十四時間では足りないくらい。


だからさ、せっかく俺の良さに気付いてくれた子には悪いけど、お断りするしかないんだよ。いや本っ当~に残念なんだけどさ。

でもな~、告白してきた子が「勉強の邪魔はしないわ!真言まこと君と付き合えるだけで幸せだからっ!」なんて言ってきたら断りづらくなるなぁ。


なんてことを考えながら楽園に到着。あの子が俺を呼び出した子かな?うん!?クラスメートの名前は確か……伊東さんだっけ?



「急に呼び出してゴメンね」


染めた美容師の腕が悪いのか、あまり似合っていない茶髪を撫でつけながら伊東さんは俺の顔を見てニヤリと笑った。


「あ、うん。俺を呼び出したの伊東さん?」


「そう。藤野真言ふじのまことくん、私ね、アナタのことが好きになっちゃったみたいなの。だからさ、私と付き合ってくれない?」


これはビックリ、伊東さんはクラスでもカースト上位の比較的目立つグループに属している子だ。今まで俺とまともに話なんかしたことなかったはずなんだよね。

と言うか、俺みたいな地味目な男子は存在自体スルーしているような子だった気がするんだけど?


うーん、これは不自然すぎるかな。俺は伊東さんの顔を正面から見た。


『陰キャ』『騙して』『キモい』……か、告白とは程遠い感情だなぁ。


「ねぇ聞いてるの?ボーっとしちゃって。私が付き合ってあげるって言ってんのよ?嬉しくないの?」

『喜べ』『返事しろ』『キモい』


……思っていたような反応を俺がしないからちょっと焦ってるな。ってかさっきからキモいキモい言い過ぎだから。なんか腹立ってきたし、言葉を選ぶ必要ないよな。


「えーっと、あのさ、陰キャ相手だからって何しても良いわけではないよ?ウソ告で相手を傷つけて笑いものにするなんてさ、猫に石をぶつけて喜んでいる連中と大差ないと思うよ?」


自分より弱い立場の相手をいたぶって楽しむという意味では同じだと思うんだよね。


伊東さんは一瞬キョトンとし表情を浮かべた。


「……は?はぁっ!?なに偉そうに説教してんの?この陰キャが!キモいんだよっ!」


さっきまでニコニコしていた伊東さんの顔が瞬時に鬼の表情になった。怖えぇ、人の顔ってこんな一瞬で変わるのな。


よほど悔しかったのか、伊東さんはそう吐き捨ててドスドス足音を立てながら立ち去っていった。近くで隠れて見ていたであろう女子二人が「ユリちょっと待ってー!」と叫びながら後を追いかけていった。


「ハァー、やれやれ。和人に話したらまた笑われてしまうな」


せっかくのアオハルデビューだと思っていたのに、ウソ告だったなんてさ。これでは楽園に呼び出されたとカウントできないよな。





この俺、藤野真言ふじのまことには特別な能力がある。


相手の顔を見ると、その人のひたいの前にうっすらとカードくらいの大きさの画面が現れ、その人が考えていることが表示されるのだ。

俺はこのカードを『思考カード』と呼んでいる。


と言っても、相手の思考が事細かに表示されるわけではない。ごく短い言葉でしか表示されないし、2メートル以内で正面から顔を直接2秒以上見なければ思考カードは現れない。

テレビ画面を通してとか、ガラス越しとかでは表示されない。中学のとき試しに友達のメガネを借りて見てみたが出なかった。


まあ色々と条件はあるが便利な能力だ。


でも俺はこの能力をあまり過信しないようにしている。少し前、友人の市川和人と教室で弁当を食べているときにクラスの女子に話しかけられたんだ。その時その女子の思考カードに『好き』って出ていたから「ついに俺にも春が来た!」って興奮していたら、隣にいた和人に向けた感情だった。『市川君が好き、でも藤野はそうでもない』と表示されれば分かりやすかったけど、そんな親切設計ではないのだ。


それにこのカードはある日突然見えるようになったので、ある日突然見えなくなる可能性もある。あまりこの能力に頼り切ってしまうのは危険だと思っている。


「肉体的または精神的に大人になるか、童貞を卒業したら使えなくなるのかも」とは、唯一この能力の存在を知っている妹の弁。童貞卒業とか恥ずかし気もなく言う中三の妹が少し心配になったのは別の話。


しかもこの能力、オンオフの切り替えが出来ないので意外と厄介なのだ。


会話している相手の考えていることが中途半端に分かってしまうと大変話しづらいんだよ。笑顔で会話している相手が俺のことを『うざい』とか『面白くない』とか思っていると知ったときは死にたくなる。

お陰で相手の顔を見ながら話すのが苦手になってしまったんだよね。目も合わさずに会話する俺のことを、周りはさぞ挙動不審でキモい奴だと思っているだろう。




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初めまして、一ノ瀬六葉と申します。


以前から一度は学園ラブコメを書きたいと思っていました。気に入っていただけると幸いです。



投稿初日は書き溜めている数話を見直しをしながら投稿する予定です。


もしよかったらお付き合いください。

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