どこからともなく宝箱が湧いてくると思った? 残念、ちゃんと設置しているんです。

藤烏あや@『死に戻り公女』発売中

宝箱の出所

 光も届かぬ森の中。

 せっせと宝箱に回復薬を詰める。


「ふう、こんなもんかな」


 先程から中腰で作業していたためか、腰が痛い。

 痛む腰を伸ばし、額に流れる汗を袖口で拭った。

 私の仕事はこの世界を救う勇者のため、毎日先回りをして宝箱を設置することだ。

 長く伸ばした黒髪のせいで、極稀に魔族と間違えられる事もあるが、れっきとした人類である。

 ただ少し、人よりも魔力が多いだけで。


 俺の魔力に釣られていかのか、がさがさと音を立てて魔物が飛び出してきた。


「ふっ!」


 襲いかかってきた魔物の首を一撃で落とす。

 魔王城に近づくほど瘴気は濃くなり、それは動物を理性のないモンスターへと変えてしまう。

 その瘴気は魔王から生み出されると言われているが、正確な事は解明されていない。だが、人類は魔王を討ち滅ぼせば魔物はいなくなると信じて疑わない。

 穴を掘り、その中に魔物を入れ土を被せる。

 簡易だが墓に入ることができれば魔物も浮かばれるだろう。


「さて行くか」


 向かうは魔王城。

 勇者の旅路もいよいよクライマックスを迎えようとしている。



 やって来た魔王城。

 魔族に見つからぬよう、気配を殺して魔王城に忍び込んだ。

 廊下の行き止まりで立ち止まる。

 そして収納魔法マジックポケットから大きな宝箱を取り出し、設置する。

 一度宝箱の蓋を開け、中に毒消しを入れておく。


「っと、そろそろか」


 腕時計で時刻を確認すれば、そろそろ勇者が城に到着する頃だろう。




 重苦しい空気の中、物理的にも重い謁見の間への扉が開く。

 まばゆいほどに磨かれた鎧を身に纏った、金色の少年が入ってきた。


「魔王! オレはお前を倒しにきた!!」


 高らかに宣言する勇者。

 それを玉座から見つめる私。


「私は魔族でもないが……よかろう。倒せるものなら倒してみせよ」

「戯言を。いくぞ! 聖なる光ホーリレイ


 玉座の上に魔法陣が展開され、光の雨が降り注ぐ。


 一瞬の間。


 勇者は勝利を確信する。

 だがそれは叶わず、それを相殺する魔法が展開され、勇者の魔法は消え失せた。

 無詠唱で行われた魔法展開。それができるのは唯一選ばれた者のみ。

 驚愕と絶望に染まる勇者の顔。


「今のが全力か?」

「う、うわああああああ!!!!」


 無謀に、無様に、大振りで剣を振りかぶった勇者を、窓の外へ吹き飛ばした。


「今回もハズレか」


 大きなため息をつき、肘掛けに肘をついて考え込む。


 ――今度は賢者を勇者に仕立て上げようか。それとも教会にいっそ聖女を勇者にしてみるか?


 思い立ったら即行動だ。

 勇者となる者の精神に干渉し、夢を見させるのだ。

 己が次の勇者だと。

 そうして出来上がった勇者をサポートし、魔王城へと導く。

 都合よく現れる宝箱を頼りにせず、己の力のみで這い上がってくる勇者を求め、魔王は征く。



 真の勇者を探すため、魔王は今日も宝箱を設置する。

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どこからともなく宝箱が湧いてくると思った? 残念、ちゃんと設置しているんです。 藤烏あや@『死に戻り公女』発売中 @huzigarasuaya

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