どこからともなく宝箱が湧いてくると思った? 残念、ちゃんと設置しているんです。
藤烏あや@『死に戻り公女』発売中
宝箱の出所
光も届かぬ森の中。
せっせと宝箱に回復薬を詰める。
「ふう、こんなもんかな」
先程から中腰で作業していたためか、腰が痛い。
痛む腰を伸ばし、額に流れる汗を袖口で拭った。
私の仕事はこの世界を救う勇者のため、毎日先回りをして宝箱を設置することだ。
長く伸ばした黒髪のせいで、極稀に魔族と間違えられる事もあるが、れっきとした人類である。
ただ少し、人よりも魔力が多いだけで。
俺の魔力に釣られていかのか、がさがさと音を立てて魔物が飛び出してきた。
「ふっ!」
襲いかかってきた魔物の首を一撃で落とす。
魔王城に近づくほど瘴気は濃くなり、それは動物を理性のないモンスターへと変えてしまう。
その瘴気は魔王から生み出されると言われているが、正確な事は解明されていない。だが、人類は魔王を討ち滅ぼせば魔物はいなくなると信じて疑わない。
穴を掘り、その中に魔物を入れ土を被せる。
簡易だが墓に入ることができれば魔物も浮かばれるだろう。
「さて行くか」
向かうは魔王城。
勇者の旅路もいよいよクライマックスを迎えようとしている。
◆
やって来た魔王城。
魔族に見つからぬよう、気配を殺して魔王城に忍び込んだ。
廊下の行き止まりで立ち止まる。
そして
一度宝箱の蓋を開け、中に毒消しを入れておく。
「っと、そろそろか」
腕時計で時刻を確認すれば、そろそろ勇者が城に到着する頃だろう。
重苦しい空気の中、物理的にも重い謁見の間への扉が開く。
まばゆいほどに磨かれた鎧を身に纏った、金色の少年が入ってきた。
「魔王! オレはお前を倒しにきた!!」
高らかに宣言する勇者。
それを玉座から見つめる私。
「私は魔族でもないが……よかろう。倒せるものなら倒してみせよ」
「戯言を。いくぞ!
玉座の上に魔法陣が展開され、光の雨が降り注ぐ。
一瞬の間。
勇者は勝利を確信する。
だがそれは叶わず、それを相殺する魔法が展開され、勇者の魔法は消え失せた。
無詠唱で行われた魔法展開。それができるのは唯一選ばれた者のみ。
驚愕と絶望に染まる勇者の顔。
「今のが全力か?」
「う、うわああああああ!!!!」
無謀に、無様に、大振りで剣を振りかぶった勇者を、窓の外へ吹き飛ばした。
「今回もハズレか」
大きなため息をつき、肘掛けに肘をついて考え込む。
――今度は賢者を勇者に仕立て上げようか。それとも教会にいっそ聖女を勇者にしてみるか?
思い立ったら即行動だ。
勇者となる者の精神に干渉し、夢を見させるのだ。
己が次の勇者だと。
そうして出来上がった勇者をサポートし、魔王城へと導く。
都合よく現れる宝箱を頼りにせず、己の力のみで這い上がってくる勇者を求め、魔王は征く。
真の勇者を探すため、魔王は今日も宝箱を設置する。
どこからともなく宝箱が湧いてくると思った? 残念、ちゃんと設置しているんです。 藤烏あや@『死に戻り公女』発売中 @huzigarasuaya
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