配信動画:近所の祠、壊したったwww①

 画面上にロード中のアイコンが浮かんだかと思うと、「令和オカルト研究会」チャンネルの動画が開始された。

 タイトルは「近所の祠、壊したったwww」。数時間前に鬼倒し丸が告知していた物と同一である。タイトルの不穏さとは裏腹に、フォント自体はポップな物であり、それが一層不気味さを際立たせてもいた。


『キメラフレイム:一コメントです \500』

『ユッキー☆:スパチャしてるやん!?』

『オカルト博士:マジでやるのか……』

『通りすがり:何か今回コメント多くね?』


 コメントが投げられている間に、動画の画面も変化していく。オープニング画面がフェードアウトし、自撮り棒にて撮影された動画へと切り替わったのだ。

 時刻は既に夜の九時を回っている。周囲は暗く、街灯も遠い。自撮り棒と懐中電灯を手にした男の姿がかろうじて映っている。黒いロングコートに黒のズボンであるが、素顔を隠すために狐面を被っている。狐面は白地に朱色の隈取が施されており、左手に持つ懐中電灯の明かりを反射して、浮き上がるように光っていた。


『ワン子:おおっ、生の鬼倒し丸さんじゃあないですか』

『通りすがり:何で顔隠してるの?』

『きつね四郎:身バレ防止じゃあないですかね』


「おおっ。早速コメントがたくさん来てますね。視聴者の方もたくさん集まってますし……そうでーす。私が鬼倒し丸です。皆さんこんばんは~」


『通りすがり:こんばんは~ \200』

『キメラフレイム:こんばんは』

『ワン子:鬼倒し丸さん、めっちゃ美声ですやん』

『通りすがり:つーか若そう』


「あははっ、キメラ小僧、じゃなくてキメラ先輩も視聴なさってるみたいっすねぇ。いつもは編集した動画をお送りしていましたが、今回は……近所に丁度良い祠がありましたので、そいつを壊してみようと思いま~す!!」


 狐面の青年が、さも興奮したように腕を振るう。腕の動きに合わせて、地面の一点を照らしていた懐中電灯の明かりがブレた。それでも場所は明らかではない。外も暗く、尚且つ青年が離れた所にいるからだろう。


『通りすがり:祠壊しktkr』

『城マダラ:SNSで流行ってたからけれど、実際に動画でもやってみるとは……そこに痺れる憧れるぜ! \300』

『ワン子:鬼倒し丸様はカッコいいってはっきりわかんだね』


「皆さん、心強いコメントありがとうございます。ええまぁ、そりゃあ私もオカルト系統の情報を提供する配信者ですからね。祠の一つや二つくらい壊してみないといけませんって」


『オカルト博士:オカルトを舐めてたら……生命を落とすよ?』

『通りすがり:↑の米、ガチトーン過ぎて臭うわ』

『通りすがり:いやオカルト博士はガチやで。かれこれ二十年くらいオカルト板に出没しとる』

『城マダラ:という事は、祠を壊した鬼倒し君の前に現れる中年男性ってオカルト博士なんか……?』

『きつね四郎:マジレスすると違います』

『ワン子:こいつもキメラフレイムの視聴者やな。設定厨なのは解ったわ』


「はっはっは。その祠を壊したらどうなるのか。それを実証するんですってば」


 尚もコメントが続いていたが、狐面の青年は意に介さない。暗がりで解り辛いが、画面が揺れる。鬼倒し丸と名乗る青年は、自分が壊すと言ってはばからぬ祠の許へと向かっているらしかった。


『物書きアトラ:今北産業』

『城マダラ:鬼倒しさん 祠壊しに 初挑戦』

『キメラフレイム:本当に心配なのですが……』

『通りすがり:てか祠壊したら何が起きるん?』

『通りすがり:マジレスしたら逮捕じゃない? 器物破損とかかな?』

『オカルト博士:礼拝所不敬罪にも相当するやろな。まぁ、それで済めば良いんやろうけれど』

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