第2話 夢と推しと異世界と。青春召喚ライフ!
私は、無理矢理眠りから目を覚ました。うたた寝状態だったのかもしれない。頭痛で休もうと思った矢先に悪夢なんて、嫌だな。保健の先生に少し心配されたが、大丈夫だと言って教室へ向かった。扉を開けてすぐにジョーが駆けつける。心配していたのか、私の体調を気にかけてくれた。私はその好意に胸が高鳴った。また1つ、ジョーに対する好きという気持ちが増えた気がする。そんな日々の積み重ねで、溢れそうな気持を抑えることに精一杯だった。
授業も終わり、下校の途中にまた頭痛が走る。私は頭痛持ちという訳でもないし、一体どうしたんだろうかと考える。でもやはり、あの夢のせいかもしれない。数日前まで不調なんてなかったのだから。考え事をすると、頭からモヤモヤが離れないため、思い切ってジョーに話してみることに決めた。
「ちょっと相談があるんだけど、聞いてくれる?」
ジョーは一呼吸置いて、私に向き合う。
「じゃあさ、ちょっとそこの川辺に座ろうよ」
私はこくんと頷き、側にある石で造られた階段をゆっくりと降りた。綺麗な川の流れを見ながらでこぼこした道を歩き、平たい草の上に二人並んで座った。
「何かあった?朝から体調悪そうだったから心配してたけど」
もしかしたら夢の話なんて信じてもらえないかもしれないという不安もあったが、ジョーならきっと聞いてくれると思い私は意を決して話を始めた。
「ここ数日、変な夢を見るの……。何だか、妙に助けを求められているような感じの。それで夢を見始めてから頭痛が止まらなくて……何だか不安になっちゃって……」
気付くと私は涙が零れ落ちていた。悲しい気持ちというより、1人で抱え込んでいたから辛かったのかもしれない。私の様子を見て、ジョーは私の頭をポンポンと撫でてくれた。表情は穏やかだった。
「悪夢を見たのか、そっかそっか。とりあえず頭痛もするなら、今日は早めに休んで。大丈夫だって、心配し過ぎだよ。俺は話を聞くくらいしか出来ないかもしれないけど、また夢を見たら教えてよ」
優しい言葉に、少しだけ心が癒された。言ってみて良かったと心から思えた。今日は安心して眠れるかもしれない。
「今日はちゃんと休んで、明日は笑顔を見せてくれよ!」
心配そうな表情をして私のことを見つめる瞳は、とても優しい眼をしていた。
「うん、話を聞いてくれて、助かった」
明るい気持ちを貰えたおかげで、涙は止まった。泣いた分の涙を手で拭い、鞄を持ち上げる。モヤモヤしていた黒い気持ちは、どこかに消えていった。私たちは立ち上がり、また階段を登り、平坦な道を歩きながら帰った。
就寝時間になった頃、お風呂を済ませて自分の部屋に入った。今日あった出来事を頭の中で整理していた。整理し終わった頃には頭の中がすっきりしていたため、布団に入るとすぐに眠りにつくことが出来た。
♦♦♦
突然、頭に激しい痛みが走った。視界がぐにゃりと歪む。まるで、どこか遠い場所から何かが呼びかけているような――。
『……い。今こそ召……の時がきた。いでよ!我ら惑星ファルナの地へ!』
「なに……?急に体が軽くなって……え?体が浮いてる!?」
体が軽くなり、突然目を覚ますと、部屋の中で何か奇妙な力が働いている気配がした。その瞬間……、薄暗い黒紫色の魔方陣が体を囲む。何かの力に引き寄せられて、私の体は少しずつ消えていった。足元が消えていく感覚に鳥肌が立った。体が無重力に浮かび上がる感覚は、恐怖と奇妙な興奮を同時に感じさせる。
気を失っていたのか、目が覚めると、そこは自分の部屋ではない場所にいた。目に映る建物はどれも古代風だが、空には2つの太陽が輝いていた。ここはどこだろう、と周りを見渡していると、誰かの足音が聞こえて心臓が跳ね上がった。誰か来る……。
「やった……!やっと召喚が成功した!待っていたぞ、水村世未。」
「えっ……」
目の前には、青い髪で背丈がスラッとした、私より少し年上くらいの男の人がやってきた。軍服を着た男がこちらを見下ろす視線は、冷たくもどこか期待に満ちていた。……そんなことより、どうして私の名前を知っているんだろうと疑問に思っていると、瞬く間にその男は話始める。
「俺の名前はルロンド・アーシュベルトだ。怪しい者ではない、が……そんなことを言っても信用してもらえないよな。早速だが、世未。君にはこの惑星ファルナを救ってほしいんだ。君にはこの惑星を救う力がある。……いや、救わなければならない」
「はい!?」
私はその言葉に理解が追い付かず、間抜けな声が出てしまった。そもそも、自分のことを怪しい者ではないという人ほど、怪しく感じる。
「……ここは、地球じゃないの?そして救ってほしいってどういうことですか?」
「君はこの星を救うために選ばれた存在だ。詳しい話は向こうの部屋でしよう。」
急ぎ足でルロンドは私を連れて隣部屋へ移る。これは拉致?誘拐?助けを求めた方がいいのだろうかとあれこれ考える。あれこれ考えているうちに、もう一人白い髪の白衣を着た青年が立っていた。
「怖がらなくていいよ。僕はサージェ・ヴィルキット、研究員だ。」
ニコニコとしながら名前を名乗る。研究員……?人当たりは良さそうに見えるがとても怪しい。私も名を名乗るべきかもしれないが、今出会った知らない人たちに簡単に心を許せるほど社交性もなかった。そもそも、危機感を持ってもいいのかもしれない。
「世未、警戒する気持ちも分かるが、事は一刻を争うんだ。説明させてくれ。まず、ここは君の知ってる星ではない。そして、この惑星ファルナの危機をなんとかしない限り君のいた星には帰せない」
頭が真っ白になる。帰れない?……噓であってほしい。そしてどうして私が選ばれし者なのか理解できない。
「”選ばれし者”って一体何のことですか?……それに、急にこの惑星を救ってほしいだなんて……そんな大それた事、私には出来ません」
顎に手をあて、考える素振りをしているルロンドさんの碧色の瞳はとても真剣そうに見える。サージェさんも困った表情をしてこちらを見ている。
「私はただの女子高生です。特別な力もない。こんな私が、本当にこの惑星を救えるの……?」
拒み続ける私の態度が気に障ったのか、ルロンドさんは鋭い目付きで私を見る。正直、怖いと感じる、目線だけで威圧されそうだった。
「”選ばれし者”とはな、サージェの研究データから選び出したんだ。君の存在は、この星の波長と一致していて、この星を救う鍵になる。その波長を感知して、召喚術を発動させたんだよ。夢の中でそれを感じていたんじゃないか?」
「……まさか、夢の中で呼んでいたのは……ルロンドさんだったの……?」
ルロンドさんは軽く微笑み、頷いた。まさにそれだ、と右の口角をニヤッと上げる。だとしたら、私は……この惑星に召喚されるため、悪夢を見ていたということになる。それに、どちらにしろ私は勝手に地球へ帰ることが出来ない……。この惑星が滅んだら、帰れる確率はもっとずっと低い……。どちらにしろ命を落としてしまうなら、せめてこの人たちに協力した方がいいのかもしれない。
「もしこの惑星を救えたら、必ず地球に帰れるんですよね?」
「ああ、約束する」
「――わかりました。協力します。」
怖いけど、ここでじっとしているわけにはいかない。
「君が思っている以上に、この星は危機的状況だ。その現実を、すぐに知ることになるだろう」
私、実は選ばれし魔法少女なんですけど…推しが多すぎて困ってます 藍瀬 七 @metalchoco23
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