第6話 教室にて

 朝練を8時10分に切り上げ、部室内でバスケウェアから制服に着替える。そして8時20分頃に教室に登校する。


「おいおい。昨日の中川に対する告白はどうだったんだ? 」


 俺を騙した岡崎達が俺が席に座った直後、狙ったかのように声を掛けてきた。さも結果を分かった様子でニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべる。


 この野郎。


 俺は少なからず胸中に怒りを覚えつつ、決して口には出さない。出したら最後だ。俺はスクールカーストの高い陽キャのこいつらによって潰され、教室内で居場所を失うだろう。学校生活は不平等であり弱肉強食の側面が存在する。


「ねぇねぇ。若松君。ちょっといいかな? 」


 中川さんが岡崎達とは反対サイドから俺に疑問を尋ねるように声を掛ける。


「な、中川さん。別にいいけど」


 俺は突然の中川さんの登場に驚きつつも、要望を受け入れる。


「よかった。ちょっとお話ししたいんだけど」


 中川さんは両手を背中の後ろで繋ぎながら言葉を紡ぐ。


「な!? どうして中川がこいつ話をする理由があるんだ!? 」


 中川さんの言葉を耳にした岡崎は明らかに動揺を隠せない。まさか告白を断った人間に対して話をするなど予想できなかったのだろう。また、陽キャの中川さんが陰キャと話す理由が無いと思ったのかもしれない。


「何で? 私と若松君が話をしてはいけない理由があるのかな? 」


 中川さんは不思議そうに首を傾げる。


「そ、それはないけどよ」


 岡崎は中川さんの疑問に対し弱弱しく答える。


「そうだよね。なら私が若松君と会話をしてもいいよね? それとも岡崎君は私が若松君と話をすると不味いことでもあるのかな? 」


中川さんは追い打ちを掛けるように再び不思議そうに尋ねる。


「ああ。そうだな。お、俺達はそろそろ自分達の席に戻るから。2人での会話を楽しんでくれ」


 居心地の悪くなった岡崎は逃げるように自身の席に戻る。友人も岡崎の後を追い掛ける。


「どうしたんだろう? あんなに慌てて席に戻ちゃって」


 中川さんは岡崎達の方を見ながら、不思議そうに呟く。


「ねぇ? 」


 中川さんは俺に同意を求めるように視線を向ける。


「さ、さぁ? 」


 俺は理由を理解しつつ、口にしなかった。


 なぜなら中川さんが本当に不思議そうに首を何度も傾げていたためだ。


 これはおそらく悪気は無かったんだろうな。

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