第3話


 “普通に生きる”ってどういうことか、ずっと考えてきた。


 研究所の中で生まれて、あてもなく外に飛び出した。


 何が正しいのかなんて二の次だった。


 生きることに必死で、ただ、逃げることで精一杯だった。


 いつも、窓の外を見てた。


 理由なんてなかったんだ。


 島の外に出て、海の向こうに行く。


 そう思うことが、どこから来たものかさえわからなかった。



 『とにかく気をつけろ?最近取り締まりも厳しくなってるって噂だぞ?』


 『エイザも経験してみれば?席は用意しとくし』


 『学校なんか行かねーよ。行ったってどうせ役に立たねーんだ』


 『身内ばっかのとこにいたら、それこそ息が詰まっちゃうよ?』


 『水樹と違って人見知りなの。孤立したらどうすんだよ』


 『どの口が言ってんだか…』



 私が学校に行ってるのは、エイザしか知らない。


 2人だけの秘密なんだよね。


 バレたら怒られるだけじゃ済まないってのと、せっかく今まで積み上げてきたものが、全部台無しになっちゃうって可能性があるから。



 ここまで大変だったんだ。


 友達を作るのも。


 学校に忍び込むのも。


 スキルメーカーたちに、「身分」は存在しない。


 住民票の登録だってしてないし、保険証だって無い。


 社会の中では幽霊のような存在で、スマホの契約だってろくにできないんだ。


 身分を証明するものが、何もないから。



 じゃあどうやって学校に忍び込んだのって?


 …まあ、それにはちょっとしたコツがあって。

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