第9話
「団長、バライズ殿下、助けてください。俺はどうなってもいい、だけどシルビアが……ビルから連絡があったんですが、屋敷に通う若い男の使用人には今実家の侯爵家に通ってもらっているんです、シルビアが若い男性を怖がっているらしいんです」
第二部隊の団長はテーブルに肘をつき顎に手を置いている。
眉は吊り上がりイライラを抑えながら話をした。
「ああ、シルビアは今休みを与えている。あの事件はシルビアの醜聞になってしまうから知っているのはごく一部の人間だけだ」
「ソニア殿下はその話を楽しそうに俺に語ったんだ……あの人のことだから俺が言うことを聞かなければシルビアが襲われたことを未遂ではなく本当だと言って回るかもしれない。そうなればシルビアは今以上に外に出られなくなってしまう……ソニア殿下は狂っています!
シルビアを襲わせるなんて……」
「犯人たちはソニア殿下から直接頼まれたわけではないらしい。ソニア殿下に可愛がられている侍女に声をかけられたと言っている。その侍女はもう辞めてこの城を去っているんだ、行方はわからない。ソニア殿下のことだから金を握らせ逃したんだと思う。
アレは口封じに人を殺す度胸はない」
「ソニア殿下は……俺がシルビアを好きになるなと脅しています。もし俺がシルビアのことを愛したら、シルビアを殺すと言われています。常に俺にもシルビアにも監視をつけています」
「はっ?嘘だろ?シルビアを殺す?」
バライズ殿下は呆気に取られていた。
「何故今まで言わなかった?シルビアがどうなってもいいのか?」
団長の声に怒気が混じっている。
唇をぎゅっと締めた厳しい表情で、俺を強く見据える団長。
「何度も話したいと思いました。でも常に影が監視をしているんです。バライズ殿下と二人っきりになれば影はついてこれない。
だが俺が意識的に殿下に近づけばソニア殿下は俺がバライズ殿下に本当のことを話したと思われる。そうなればソニア殿下はシルビアにまた何かしてくるかもしれなかった」
「ソニアが殺すと脅しているのか?あの子がそこまで……シルビアを犯そうとするなんて」
バライズ殿下はとてもソニア殿下を可愛がっていた。幼い頃は俺も含め三人で仲良く遊んでいたくらいだ。
バライズ殿下からすれば俺のことを好きだと言っているのは少女特有の淡い初恋から来るものだと思っていたようだ。
まさか本気で俺の結婚の邪魔をしているなんて思っていなかった。
「陛下は俺に本気で惚れていることをご存知だった。だからこそソニア殿下に俺のことを諦めて隣国に嫁ぐように言ったんだ……それでもソニア殿下がだんだん執着が酷くなっていることまでは知らないと思う。俺は今シルビアが屋敷にいる時は帰宅できない、絶対帰さないと脅されているんだ」
「脅すって……何をしようと?」
バライズ殿下は妹の異常さには気づいていない。
「屋敷を燃やす?それとも襲う?ソニア殿下の目はもう異常でおかしい……何をするかわからない……シルビアのことも本気で犯すつもりだった」
俺は時計をチラッと見た。
「バライズ殿下、俺はあまり長くここに居ることはできない。長い会話はソニア殿下に疑われる。あと第二部隊にソニア殿下の回し者がいるはずだ。シルビアの仕事を邪魔しているみたいだ、殿下がそのことも楽しそうに話していた」
「それは今犯人を探してる。また第二部隊に書類を届けてきてくれ。必ず書類は女性事務の二人に渡して欲しい。あの二人はシルビアの味方だから」
団長の言葉にホッとした。この人は信用できる。
「わかりました……俺はソニア殿下の機嫌を取りながらシルビアを守ることしか今は出来ません。シルビアをお願いします、シルビアに碌でもない旦那だと思われてもいい、頼れない最低だと思われてもいいんです。彼女を守ってください、お願いします。もし無理なら……」
ーーその時は、俺がソニア殿下を殺します。
俺は最後の言葉を言わずに飲み込んだ。だが二人とも俺の決心に気がついているかもしれない。
何があってもシルビアを守る。本当なら早く離縁してやれればいいのだけど……これが王命でなければ簡単に離縁できたのに……俺がシルビアを好きにならなければ……陛下は王命でシルビアとの結婚を言い渡さなかっただろう。
陛下は俺に『お前には愛する人と結婚して欲しい』とシルビアの気持ちも考えず俺の気持ちを優先して王命で無理やり結婚するように告げた。
俺のせいで。
殿下の執務室を出て俺はまたソニア殿下の護衛騎士として働く。心を殺して。
「アレック、わたし、貴方を絶対離さないわ、愛しているの」
ソニア殿下は蛇のように俺に絡みついてくる。
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