第4話
「アレック、どうして結婚したの?お父様の命令なんて聞かなくてもいいのに!わたし、絶対許さないから!」
初めはただの我儘を言っているのだと思っていた。シルビアとの婚約は王命だった。だけど裏で手を回してくれたのはバライズ殿下だった。
大人になるにつれソニア殿下の俺への執着が酷くなってきた。バライズ殿下は俺をなんとか配置換えしようとしてくれたがソニア殿下のヒステリーが酷くなり手に負えなくなる。
俺がそばにいなければ暴れたり侍女達にまで暴力を振るうようになった。
見た目は可愛らしいおとなしそうなソニア殿下。しかし中身は我儘で全て思い通りにならないとダメな人だった。
陛下もそんな俺を心配してくれた。俺自身がソニア殿下との結婚を拒絶していたし、陛下もそれだけは絶対しないと言ってくれた。
そこには本当は理由があった。
俺は陛下と侯爵夫人である母の不倫の末できた子供だったからだ。
父の侯爵はそのことを知っていても、何も言わずに俺を息子として育ててくれた。
王妃も俺に対して思うところはあったと思う。
陛下と俺の母は、大恋愛の末引き裂かれ、それぞれ別の人と結婚した。そんな二人が……一晩だけの過ちを犯し、そして俺が生まれた。
母には似ているが父には全く似ていない。陛下にも似てはいないが、唯一……陛下と同じ髪の色を持って生まれた。それが俺が陛下の息子だと言う証。
誰にもわからないように幼い頃から髪の色を変えている。
王族だけが受け継ぐシルバーの髪を、金髪に変えて、誰にもわからないように暮らしている。この秘密を知っているのは両陛下と侯爵家の両親とバライズ殿下、メイラー公爵だけ。
ソニア殿下はもちろん知らない。
元々ソニア殿下に対して恋愛感情はなかった。
俺が陛下の息子だと知ってからもバライズ殿下もソニア殿下も義兄妹ではなく臣下として仕える方達でしかない。
ソニア殿下から逃れるための王命での結婚。それでもシルビアと共に生きていけることが嬉しかった。少しずつでも彼女と温かい家庭を作っていきたい。
そう思っていたのに………
ソニア殿下はそれを許さなかった。
『もしシルビアを愛したらシルビアを殺すわ』
はっ?何を言ってるんだ?
『いい?もしもアレックがシルビアを抱いたら許さないから!子供が生まれたらその子供もシルビアも殺す!出来ないと思ってる?わたしはずっとずっとあなたが、あなただけが好きだったの。その想いを壊されたのよ?』
殿下は俺を見てとても美しい顔で微笑んだ。
『絶対に許さないわ』
俺は結婚したらバライズ殿下の騎士になる予定だった。しかし俺はソニア殿下の護衛騎士でいることを選んだ。
王命での結婚、2年間は離縁は出来ない。
その間彼女に本当のことを伝えることもできない。ソニア殿下は常に俺とシルビアに監視をつけていた。
彼女の執着は異常だった。
もし本当にシルビアに何かあったら……だから誰にも相談できない。
俺が唯一できること、それはシルビアに対して冷遇することだけだった。
愛している。だからこそ俺は彼女と関わらない。
夜会の時もソニア殿下は疲れたと裏庭に俺を連れ出した。そして、抱きついてきた。
耳元で「シルビアったら一人寂しく突っ立っていたわね?」とクスクス笑った。
シルビアを一人になんかさせたくない。そう思っているのをこの人はわかっている。
俺にシルビアのところへ行くことを許さない。ソニア殿下の俺への執着はもう愛情ではない、自分を選んでもらえなかった恨みとただの固執でしかない。
そして、シルビアに対してソニア殿下は憎悪を抱いていた。
この一年はなんとか乗り切った。残り一年、シルビアに何もなければいいのだが……いや、守るしかない。
この数日後、ソニア殿下が隣国の第二王子のもとに嫁ぐことが決まった。
そこから俺にとって悪夢のような日々が始まった。
「アレック、屋敷に帰ったら許さないから!この王宮に泊まるの、これは命令よ」
俺はシルビアのいる屋敷に帰ることすらできなくなった。
陛下から『もうお前の我儘は聞き入れない』と拒絶され、『嫁ぎたくない』とどんなに泣いて頼んでも聞き入れてもらえなかった。
それからは、俺にさらに固執し始めた。
もし逆らって帰れば、シルビアに何をするかわからない。ソニア殿下は嫁ぐことが決まってから精神が異常になっていった。
そして今まで以上にシルビアへの嫌がらせが知らぬ間に酷くなっていた。
それもソニア殿下は楽しそうに俺に話して聞かせるのだ。
『シルビアったら何枚か大切な書類を命令してこっそり捨てさせたら、彼女のミスになったらしくて信用がなくなってきているみたい、いい気味ね?』
『使っていない部屋に騎士がシルビアを呼び出して無理やり乱暴しようとしたらしいわよ?残念ながら未遂で終わったらしいけど。夫に相手にされないから他の男に抱いて貰えばよかったのに、ねっ?』
愉しそうに嗤うソニア殿下。俺は何度怒鳴りそうになったか……女でなければ殴りたかった、護衛騎士なんてすぐにでもやめたかった。
だけどソニア殿下から逃げればシルビアが何をされるかわからない。狂った殿下は本当にシルビアを傷つけてしまいそうで怖かった。
俺は一人では対処することがもう出来なくなって、なんとかバライズ殿下と話す機会を探していた。ソニア殿下の監視から逃れることができるのはバライズ殿下の執務室に行くしかなかった。そこなら監視も近づけないし話の内容は聞かれない。
しかし自分から行けばソニア殿下のことを話していると疑われシルビアに危険が及ぶ。
疑われずにバライズ殿下と話せるのは……第二騎士隊のメイラー団長に書類を渡す時しかない。彼に助けを求めてバライズ殿下に俺を呼び出してもらうしかない。
俺はいつものお遣いに、いつものように行った。
シルビアは俺をチラッと見たが、帰ってこないことを責めることもなく、何か言ってくることもなく、お互い無言のまま俺は団長室に通された。
俺に関心のないシルビア……
ーーそれでいい。
シルビアが何事もなく笑って幸せに過ごしている。
俺はもうそれだけで十分だ。
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