第22話 俺空手やってんだぞ!

「俺、空手やってんだぞっ!」


 と凄んでくるのは、もちろん社長の甥っ子だ。周りには緊張感が走り、その物騒な言葉に動けずにいる。


『それで、何が言いたいの?』


「だから、俺は空手やってんだぞ。分かってんのかっ!」


 どんな意味があり、何を期待したのかは分からない。ただ、私にとっては、救いでしかなかった。


 誰もが嫌がる、重労働の仕事がある。重い・大きい・それでいて細かくて時間がかかる仕事。そんなタイミングで、「俺、空手やってんだぞ」と言われれば、「重労働は任せろ」にしか聞こえない。


『ありがとう。まさか、やりたいって言って名乗り出てくれるなんて。ホントに助かった』


「えっ、何の話……で」


『ぎっくり腰には気を付けて。何回も言ってるけど、普段から姿勢は悪いからね。一発でやっちゃうよ!』


「いや、それは……違うっていうか」


『えっ、空手やってんでしょ!』

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