第6話 自称女神がまた出たよ(声だけの出演です)


 疲れた。

 帰宅してシャワーも浴びず、栄養ゼリー2袋だけでカロリーを補給してすぐ和室に敷いたお布団に入る。

 もう、寝たい。現実が辛い。しかし現実は強い。現実は最強だ。

 職場のみんなのことは大好きだ。でも職場も辛い。それも含めて現実だ。

 お布団に入ってすぐに、意識が薄れた。


 そしたらね。


 また出たよ。自称女神が。やっぱり響くのは声だけで姿は一切見えないけれど。


「ハジメさん……ハジメさん……聞こえていますか?」

 意識の中に響く声はひたすらに美しく心地良い。しかし何とも言えない嫌な気分が湧き上がってきた。

「え、なになに、またこの声?縦型トンネルは無し?」

「ハジメさん……ハジメさん……聞こえていますね。私の声が」

「はい、私はハジメですが」

「私は女神です」

「あ、はい。またですか」

 自称女神だ。

「二回目ですね。極めて稀な事なのですよ。私から二回目の声が必要となる事は」

 なんかすごい偉そうな口調と物言いだ。声は綺麗なのだけれど、私は早速苛々してきた。

「おや、ハジメさん、感情が揺れていますね……まあ、無理も有りません。このような形で、このような決定を受け取る訳ですから」

「何の御用ですか、私は熟睡したいのですけれど」

「そうですか。でしたら結論から申し上げます。残念な事ですが協議を経ての決定です。あなたの魂は現時点をもちまして……ってえっ?そのパラメータ……えっ?……表示崩れじゃないしツブれでもないけれど……ねぇ、p、コレ、ダイレクトじゃないのよね?」

 あれ、何か変な事言い始めた。自称女神。

「p、この人の星って前回接続から自転で一回転位しかしていない筈よね?履歴も改竄とかないわよね。そうよね。改竄は有り得ないわよね。有ったら大問題だしね。でも太陽系惑星のその域で公転二十回から三十回の範囲に成長期・極短が入る種族ってあったかしら?p、当たり前でしょう。植物では無くて人型です。当たり前でしょう。さすがにそこは間違えませんよ。……でも、前回との比だと……十倍って」

「あの、すいません。何を言って居られるのですか?」

 訳が分からなくなったので質問してみた。

「ええと、……ゴホン。何でもありません。こちらの話です。ハジメさん、何でもないのですよ」

 自称女神、威厳を取り戻そうとしているようだが、明らかに取り乱している。

「いや、何でもないとかではなくて、絶対何かありましたよね」

「ハジメさん……何かと言われましてもそれはですね……ああ、そうです。ひょっとしてハジメさん、初めて私の声を聞いてから二回目の今に至る間に、何かありましたか?ハジメさん、あなたの身の周りで何か変化は起きませんでしたか?あなた自身の経験や振る舞いに関する事かも知れませんが」

 自称女神は私の質問に答えず、逆に質問をこちらに返して来た。

 一方通行だなぁ、と思う。社長と同じなのかも知れない。おそらく種類が違うとは思うけれども。

 社長の顔と声を思い出す。

「社長に、勝手に正社員にされていましたけれど。免状受け取って、そのまま勢いで……」

 自称女神に答える必要など無いのだが、社長を思い出したらそのまま連想して答えてしまった。

 そうだ。明日の朝一番でもう一度冷静に確認しよう。正社員が嫌とかではないけれど、こういう契約に関わるところの曖昧はそのままにしておくと危ない。中学校の公民の先生も言っていた。契約。書面。本人の同意。正当性。合法性。権利。義務。合憲と違憲。合法と違法。法。

 ん?中学校の事なんて思い出すの久し振りだな。あの頃の思い出も、痛みしかないから思い出さないようにし続けていたのに。

 ふとぼやけかけた私の意識にまた自称女神の声が響く。

「正社員?ああ、そちらでの領主権限による疑似的な叙任に近いものですね。そんなに厳しくは私事の作法とか問われないし会派も王権も公権も関わらない簡易型の」

「え、ええ。ええ?え?」

 肯定して良いのか否定して良いのかさっぱり分からない。

「分かりました。ハジメさん、分かりましたよ」

 私にはさっぱり分からないのに自称女神は分かったらしい。

「何が分かったのですか?」

 素直に聞いてみた。

「いえ、こちらの話です。ハジメさんが気にする必要は一切有りません。ハジメさん、何でもないのですよ」

 何も分からない。一方的過ぎるよ、この自称女神。

「では、一旦この件は持ち帰りとさせて頂きます。再協議を経ての決定をお待ち下さい」

「あの、女神様、を名乗って居られる方ですよね?何か、どんどん変になってませんか?」

「ゴホン、ゴホン。はい。私は女神です。ハジメさん、そのような心配は一切無用なのですよ。私は女神なのですから。では、再協議後の決定を待っていて下さいね」


 そして私は和室のお布団で目を覚ましたのである。



【現時点のパラメータ】

 ハジメ・フジクラ

 性別:おとこ

 職業:僧侶(在家)・錬金術師(技師30・化学50・製鉄1)up! excellent!!!

  ・[正当性の付与・対外的有効範囲の強化・権能の強化が主]

 功徳値:81 up!

 修習度:61 up!

 布施:28 up! good!!

  ・ [社会への布施・納税額の向上が主]

 業:55

 解脱近似値:????

 種族:太陽系惑星人・太陽派


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