辺境農家のおじさんが英雄に~一流になった弟子たちに推薦され、世界に発見される~

相野仁

第1話「辺境で農家をしてるおじさん」

 スヴェン・ベルツおれはどこにでもいるごく普通の農家だ。

 朝早く起きて畑を耕し、飼っている犬にごはんをやる。


 獣や鳥が寄って来ていたら追い払う。


 ああ、普通の農家と違う点があるとすれば、近所の人間に戦い方の初歩を教えているってことくらいか。


 何も大したことはしていない。

 ここは田舎なので熊が出るし、イノシシも出る。

 

 鳥も出るし、巷でいう「怪物」のたぐいも出るから、戦い方を覚えたいやつがあとをたたないってだけだ。

 

 俺は実家の農地を受け継げたからいいものの、こんな田舎じゃあ受け継ぐ農地がないやつは珍しくもない。


 そんなやつは都会に行って仕事を見つけるのだ。

 俺だって長男じゃなかったら、たぶん同じ道を選んだだろう。


 そんな未来が待っているガキどもに最低限、戦い方を教えるのも俺の役目になって

いる。


 ときどき立ち寄る旅人が話していたことなんだが、こんな辺鄙な土地よりも「怪物」がたくさん出る場所もあるらしいのだ。


 俺が教えることがどの程度彼らの人生に役に立つのかはなはだ疑問だが、何も知らないよりはずっとマシ。


 そう思って日々、ガキどもを指導している。


 世界はきっと俺が想像もできないくらい広いのだ。

 その広い世界を見て回れるやつらが、少しだけうらやましいのだが……。

 

「まあ、身の丈ってやつはある」


 とつぶやくが、これは教え子たちにも言い聞かせていることだ。

 相手との力量差をよくわきまえて、分相応の行動をとる。


 そうすれば「怪物」相手に無謀なことをせず、生き延びることが可能だ。

 

「兄貴、ここにいたのかい?」


 家の庭で休んでいたところへ、弟のデニスがやってくる。


「ああ、まだ休憩時間だろう」


 と俺は返す。

 弟のデニスは俺の手伝いという立ち位置だ。


 だが、こいつは面倒見がいいし、手先が器用で罠をつくって仕掛けるのを得意とする。


 性格も得意分野も異なっているうえに、十歳くらい離れているので、ケンカすることなく兄弟助け合ってきた。

 

「そうなんだけど、兄貴にお客さんだよ」


 とデニスは思いがけないことを言う。


「俺に客? 珍しいな」


 首をかしげる。


 弟子のガキどもの親はみんな近所の顔なじみなので、いちいち客あつかいしたりしない。


 巣立っていった弟子たちはマメに手紙をよこしてくれるが、手紙配達人は客とは言わないだろう。


「僕としては来るべきときが来たって感じだけどね」


 デニスが意味深なことを言って笑う。


「何だ?」


 きょとんとして問いかけたが、弟は教えてくれない。


「言ってみればわかるんじゃないかな?」


 なんて言うしまつだ。

 こういう思わせぶりなところは、こいつの少ない短所のひとつだと思う。

 

「わかったよ」


 聞いても教えてくれない性格だと知っているので、素直に会いに行こう。

 どうせ村長とかいうオチだろう。

 

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