第11話 リアナ

「悪いが…お前たちはここまでだ。」


東真は冷静に距離を詰め、一人目の盗賊の攻撃を体をひねって避けると、そのまま反撃に移った。手刀が盗賊の首に深く入り込み、一瞬で血しぶきが上がる。盗賊は驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には崩れ落ちていた。


「な、何だこいつ…!」


他の盗賊たちは驚愕の表情を浮かべたが、東真は一切表情を変えず、無表情のまま次の標的に向かって進んでいった。盗賊の一人が震える手で剣を振り下ろそうとしたが、その剣が東真に届くことはなかった。東真は素早く間合いに入り込み、そのまま拳を腹部に叩き込んだ。


「ぐはっ…!」


盗賊は息が詰まり、その場に崩れ落ちる。東真はすぐさま次の相手に向かって移動し、敵が反応するよりも早く、その首を手刀で刎ねた。その動きは流れるようで、一瞬の隙すら与えなかった。


「く、くそっ、こいつは人間じゃない!」


残りの盗賊たちは恐怖に駆られ、後ずさりし始めた。しかし、東真はそれを逃すことはなかった。素早く間合いを詰め、次々と手刀を振り下ろし、盗賊たちの首を刎ねていった。彼らの叫び声は荒野に響き渡り、やがて静寂が戻ったとき、そこにはただ東真と倒れた盗賊たちの死体だけが残っていた。東真は人を殺したことになんの何の嫌悪感もなかった。有ったのはただ虚無だけ。


そして、盗賊に抑え込まれていた女性に目を向けた。


「すまん、こいつら倒してよかったのか?」


東真が尋ねると、女性は驚きと警戒の入り混じった表情で東真を見つめた。その目にはまだ恐怖と不信が残っていた。


「…誰よ、あんた?」


東真は少し肩をすくめて答えた。


「俺はトーマだ。別に怪しい者じゃない。助けが必要そうだったから手を貸しただけだ。」


「トーマ…?」


女性はまだ警戒を解かない様子だったが、助けられたことに対しては感謝の気持ちもあるようだった。


「ありがとう…でも、まだあんたを信用したわけじゃないからね。」


「それでいいさ。俺もお前を信用してるわけじゃない。」


東真はそう言って微笑み、女性に近づくのをやめた。その場で少し距離を保ちながら、自分の手を軽く上げて警戒心を解こうとした。


「名前は?」


「…リアナ。私はリアナよ。」


「リアナか。お前、一体何があったんだ?なんで盗賊に囲まれてたんだ?」


リアナは少し口を噤んでから答えた。


「あいつら、私の荷物を狙ってきたのよ。私は冒険者で、C級ライセンスを持っている。依頼の帰りに襲われたんだ。ソドム共和国で仕事をしていて、この辺りを通ることが多いから、目をつけられてたんだと思う。」


「なるほどな…」


東真は頷きながらリアナの話を聞いた。そして、自分がこの世界のことをまだよく理解していないことを思い出した。


「なぁ、リアナ。この辺りのこと、もう少し詳しく教えてくれないか?俺は…少し記憶を失っててな、この世界のことがあまり思い出せないんだ。」


「記憶喪失…?」


リアナは東真を不審そうに見つめたが、彼が盗賊を倒してくれたことを思い出し、ため息をついた。


「分かったわ。でも、全部は教えられないかもしれない。あんたが何者かも分からないからね。」


「それでいい。教えられる範囲で構わない。」


リアナは東真にこの辺りの地理やソドム共和国のこと、ゲヘナの森について簡単に説明した。彼女の話によると、この辺りは盗賊が多く、旅人にとって危険な地域だということだった。また、ソドム共和国の街「イニツィオ」には盗賊の被害を避けるための冒険者ギルドがあり、そこに向かえば安全だという。


「イニツィオに行くなら、私が案内してあげるわ。ただし、変なことをしないって誓うならね。」


「誓うさ。俺はただ自分を知りたいだけだからな。」


リアナは東真の言葉を聞いて、少しだけ表情を和らげた。そして、「こっちよ」と手で合図しながら、ソドム共和国の街「イニツィオ」へ向かって歩き始めた。


東真はリアナの後について歩きながら、これから自分がどこに向かうべきなのか、そしてこの世界でどう生き延びるべきなのかを考え続けていた。彼の心にはまだ多くの疑問が残っていたが、それでも前に進むしかなかった。


「イニツィオ…冒険者…ほんと異世界だな」


遠くに見えるイニツィオの街並みが少しずつ近づいてくる中、東真は新たな旅路に一歩を踏み出したのだった。

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