第10話 森の旅路と新たな出会い

ブラッドグリズリーとの死闘を終えた東真は、森を進み続けた。しかし、奇妙なことに、ブラッドグリズリーとの戦いの後から、今まで戦ってきたモンスターたちが急に弱く感じるようになった。ゴブリンやコボルトといった相手も、以前よりも素早く反応できるようになっていた。素早い相手でも目で追いながら対応でき、拳で殴ればその当たった個所を抉るほどの威力があり、手刀や蹴りでモンスターを切り裂くことすらできるようになっていた。


「これは…俺が強くなったのか?」


東真は自問したが、明確な答えは出なかった。ただ、ブラッドグリズリーというこの世界の強者でも一対一で避けるほどの強敵を倒したことが、彼自身に何らかの変化をもたらしたのは確かだった。能力が向上した理由について、東真はその原因をはっきりと理解していなかったが、自分が確実に強くなっていることだけは感じていた。


東真は森を西へ向かい続けた。そして、遂に森の出口が見えてきた。


「これで…この森とおさらばか」


東真が入ったこのソドムの森は奥に入れば入るほど世界最悪と言わしめる森だったが、東真にとってこの世界で生きていくための強さを得られた場所だった。


「最悪な場所だったけど…今となっては、だな」


そう言って東真は出口まで歩き始めた。


そして森の外に出ると広大な荒野が広がっていた。そこはソドム共和国方面に続く場所であり、荒れ果てた地形がどこまでも続いていた。見渡す限り、枯れた草と乾いた大地が広がり、生命の気配はほとんど感じられなかった。東真はその光景を見て辟易とした表情を浮かべた。


「なんて場所だ…どこまで行っても何もないのかよ…」


乾燥した風が頬を打ち、砂ぼこりが舞い上がる中、東真はひとり歩き続けた。体力は回復しつつあったが、精神的な疲労は重くのしかかっていた。それでも足を止めるわけにはいかなかった。彼の目の前に広がる荒野は無情にも広がり続け、行く先には何の希望もないように思えた。


「森での死闘を乗り越えたってのに、次はこんな場所か…やれやれ、俺の運命ってやつは本当に試練続きだな。」


東真はそう呟き、乾いた唇を舐めながら前へ進んだ。荒野の中には遮るものがなく、太陽の光が容赦なく照りつける。その中を一歩一歩進むたびに、彼の心の中には小さな不安が広がっていったが、それでも彼は歩みを止めることはなかった。


「ほんと…クソッタレな場所しかないな…」


東真は自身を奮い立たせ、足元の砂を蹴り上げながら進んでいった。




そんな中、東真は遠くで何かの争いが起こっているのに気付いた。


「なんだ…?」


近づいてみると、盗賊たちに囲まれている一人の女性がいた。彼女は身軽な動きでアクロバティックに戦い、盗賊たちに立ち向かっていた。その動きは素早く、まるで風のように軽やかだった。敵の刃を避けながら、逆に素早く反撃を加えていく。盗賊たちはその動きに翻弄され、簡単には彼女を捉えることができなかった。


「ちっ!すばしっこい!」


盗賊の一人が叫びながら、剣を振り回す。しかし、女性はそれを難なく避け、逆に敵の足を狙って蹴り飛ばした。彼女の攻撃は的確で、敵に隙を与えなかった。しかし、相手の数が多すぎて徐々に追い詰められていく。


「くっ…!」


女性は一瞬の隙を突かれて背後から腕を掴まれた。その瞬間、他の盗賊たちが一斉に襲いかかり、ついには彼女を地面に抑え込んだ。彼女は必死にもがいたが、多勢に無勢、逃れることはできなかった。


「手間取らせやがって!」


「こいつどうするよ!」


盗賊のリーダー格の男が続けて言う。


「顔は悪くねえからな…楽しんだ後奴隷として売っちまうか!」


東真はその様子を近くの岩陰からじっと見ていた。女性は絶体絶命だったが、助けるべきかどうか迷っていたのだ。今の彼は人を簡単には信用できなくなっていたため、関わらない方がいいと考えていた。しかし、その時、女性が盗賊たちに向かって叫んだ言葉が彼の心を揺さぶった。


「お前たち…絶対に許さない!」


その怨嗟のこもる声に、東真の胸の中で何かがはじけた。彼はかつて、自分も理不尽な力に追い詰められ、捻りだされた声。自分と同じような怒りを彼女に感じた。


「仕方ない…」


東真は立ち上がり、岩陰から盗賊たちの前に姿を現した。盗賊たちは突然現れた東真に驚き、一瞬動きを止めた。


「誰だお前!」


盗賊の一人が叫んだが、東真は無言のまま彼らに向かって歩み寄った。初めての対人戦だったが、見た感じ相手の動きはゴブリンよりも単純で、ウルフよりも遅かった。盗賊たちは人数に物を言わせて囲もうとしたが、その動きは東真の目にはあまりに鈍く映った。


「悪いが…お前たちはここまでだ。」

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