第3話 冷たい決断
「逆見東真、お前のスキルは戦いにおいて何の役にも立たぬ。王国の資源を使って育てる価値はない。」
国王の言葉には明らかな失望がにじんでいた。その顔には期待を裏切られた怒りと、無駄な存在に対する冷酷さがあり、眉間には深い皺が刻まれていた。玉座に深く座りながら、国王は東真をまるで無価値な存在を見るかのような目で見下ろしていた。
その冷たく突き放すような視線が、広間にいた人々の態度に反映され、彼らの視線はさらに厳しく、冷たいものへと変わっていった。広間のあちこちから嘲笑が聞こえてくる。
「【反転】ってのは。相手の向きを変えるだけだろ?つまり、何の役にも立たないってことか?」
「見ろよ、あの光の弱さ。勇者どころかただの役立たずじゃないか。」
「こんなスキルで何をするつもりなんだ?むしろ邪魔なだけだろう。」
「【剣聖】や【聖女】と比べて、まるでごみスキルだな。どうしてこんな奴が召喚されたんだ?」
その言葉の一つ一つが東真の心に突き刺さる。まるで自分の存在が否定されているかのような感覚に、全身が冷たく強張る。東真はその場に立ち尽くし、何も返す言葉が見つからなかった。
「お前には、町の外で自分の価値を見つけるが良い。少なくともこの城においては必要とされない。」
大臣の一人も冷ややかな声で続けた。美咲が「そんな…」と小さな声でつぶやき、勇人も東真の肩に手を伸ばそうとしたが、衛兵が一歩前に出て三人の間に割って入った。
「待ってください!東真だって…!」
勇人が抗議の声を上げようとしたが、国王が片手を上げて制した。
「天道勇人、神楽美咲。お前たちは我が国の勇者だ。その責務を果たすために集中するが良い。この者のことは忘れるのだ。」
国王の命令は絶対だった。勇人は唇を噛み締め、美咲も涙ぐんだ表情で何も言えなかった。東真はその二人を見て、わずかに微笑んだ。
「大丈夫だよ、勇人、美咲。俺は…なんとかするから。」
その言葉に二人は何かを言おうとしたが、衛兵が東真を取り囲み、強引に広間から連れ出した。広間の扉が重々しく閉まる音が響き、東真は冷たい石造りの廊下に押し出された。
外に出されると、夜の冷たい風が東真の体を刺した。城の外れに連れて行かれ、衛兵たちは無言で彼を放り出した。
「ここから先は自分でどうにかするんだな。」
そう言って衛兵たちは去って行った。東真は星空を見上げ、深く息を吐いた。その目に浮かんでいたのは絶望だった。
「この先どうすれば良いのか…」
追放されたことによる喪失感が胸に重くのしかかり、今までの自分の人生が全て否定されたような思いに駆られた。何もかも失った――勇人や美咲との絆、平和だった日常、自分の居場所。それらが全て崩れ去り、ただ一人夜の闇の中に放り出された現実に、心が軋むような痛みを感じた。
「どうして俺だけが…」
東真は拳を握りしめ、唇を噛んだ。涙がこぼれそうになったが、それを必死に堪えた。誰も彼を必要としない、誰からも期待されない。そんな孤独と無力感に押しつぶされそうだった。しかし、ここで諦めてしまえば、本当に自分は「無価値な存在」になってしまう。
「自分が持つ【反転】というスキル…あいつらが言う通りきっと使えない能力なんだろう。だけど…それでもこの世界で生きていくには必要な力なはずだ。」
何度も心の中で自分に言い聞かせた。その言葉は、自分を奮い立たせるための必死の叫びでもあった。孤独の中で自分を鼓舞し、前に進む力を見つけるために。
「俺は…生き残ってみせる。」
夜の静寂の中で、東真の冒険は静かに、しかし確かに始まりを告げたのだった。絶望に押しつぶされそうになりながらも、彼は自らの力で未来を切り開くことを決意したのだ。
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