異世界ラジオ、開局です!

立木見子

第1話

俺が目を覚ますと、見知らぬ建物の中だった。周囲に人影はなく、あるのは椅子と机、その上に水晶玉がポツンと置いてあるだけだった。


「いきなり呼び出してすみません!」


 突然聞こえた高い声に、俺は思わず振り向くと、小さな妖精――羽をパタパタさせた手のひらサイズの生物がこちらを見ていた。


「あなたには異世界中に声を届ける、ラジオDJになってもらいます!」

「は?」


 唐突すぎる話に、頭が追いつかない。


「な、なんで異世界でラジオをしなくちゃいけないんだよ!?」

「この世界には、悩める人たちが一杯います、その人達を救うために、貴方に『お悩み相談』をして頂きたいのです!」

「お悩み相談て…、そんなのしたって、わざわざ異世界の俺に、まともなアドバイスなんてできるわけないだろ」

「いいんですよ、実際そのアドバイスが的を得ているかなんて、要は誰かに話を聞いて欲しいってだけなんですから!その点、貴方様は異世界から来た顔も形もよくわからない変な奴、として見られてますので、実際の関係性や種族間の問題などを気にせず相談できると言うわけです」

「お前、結構腹黒いのな…」


 まあ、なぜラジオをやるのか、と言う部分には納得ができたが、まだ一つ疑問がある。 


「なんで俺が選ばれたんだ?」

「さあ?神様が選んだので、きっと話が上手いんじゃないですか?」

「ふざけんな!」


 俺がそう怒ると、妖精は呆れたように。


「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよ、終わったらちゃんと元の世界に返しますし、ちゃんとギャラも渡しますから」

「ギャラ?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 ギャラだと?


「はい、ギャラです」

「お金の?」

「それ以外に何があるんですか」


 お金、お金だ、ならやろう、やるしかない、どうせ元の世界に今帰ってもすることなんか何もない、ならせめてこの世界でやるだけやって帰ろう。


「やります」

「はい、分かればいいんですよ、分かれば」


 別にやることを渋っていたわけではないのだが、なぜか俺が物分かりの悪い子供のような扱いをされている。

 不服だ。


「じゃあ始める前に確認を」


 そういうと妖精は俺に椅子に座るように促す。

 

「なぁ、お前って名前なんて言うんだ?」


 椅子にもたれかかると、俺は妖精に話しかける。すると妖精は呆れたように。


「はあ、今からそのことについて話そうとしてたのに、やる気が削がれるようなこと言わないでください」

「はい…ってなんで俺が怒られなきゃいけないんだよ!」


 この妖精、本当に人の扱いが雑だな。


「私の名前はフィー、それで、貴方の名前は?」

「無視かよ」

「あ な た の な ま え は !」


 フィーは、イラついた様子で俺に名前を聞いてくる。もう少し堪えるって言うのを覚えて欲しい。


「…、波音響介はおんきょうすけだよ」

「そう、ハオンね、ラジオ放送っぽくていい名前じゃない」

「お、おう、そうか?」

「…、何照れてるの?」


 フィーが睨む、いいだろ、急に褒められたんだからの照れるぐらい!


「じゃ、そろそろ時間だし、始めるわよ」

「も、もうか?」


 あまりにもいきなりなので、少し戸惑っていると。


「ほらハオン、宣伝だけはこれでもかってぐらいしてるから、少しでも遅れて周りからエグい非難を受けるのは私なんだから」

「全部お前の都合じゃねえか」


 そんなことを話している内に、机の上の水晶玉がぐらりと動き、60という文字が浮かんできた、その数字は、59、58と一秒ずつに減っている。

 おそらく、これが0になると放送が始まるのだろう。


「な、なあ大丈夫なのか?その異世界のこととか何も知らないぞ?俺」

「大丈夫ですよ、質問ていったって、そんな重苦しい質問がそうそうくるわけもありせんし」

「俺は今、お前がフラグを立てたようにしか思えないんだが」


 そんなことを話している内に、水晶玉のカウントは10を切っていた。


5

4

3

2

1

0


「ハオンとフィーの、お悩み相談室〜!」


 フィーが、さっきとは違う口調でう水晶玉に話しかける、そんな名前なのか、これ。

 

「この放送は、マグニカ大陸の皆さんのお悩みを解決するために、私フィーが!異世界の住人、ハオン様をお呼びしましたー!」


 フィーが、何が話せ!とでも言いたげな顔でこちらを見る。


「えーっと、みなさん初めまして。俺は、えっと、普通のDJです、みなさんの相談、受け付けてまーす」


 だめだ!焦りのせいで日本語がおかしい!!

ここ異世界なのに!


「えー…、ハオン様も、初回ということで緊張しているようですね!それでは早速最初お便りにいきましょう!」


 フィーが助け舟を出しくれた。


「フィーに助けられるほどダメだったのか、俺」

「は!? え、えっと気を取り直して一枚目のお便りは―!」


 水晶玉がまた光り、そこにお便りが写り出される。

 ご丁寧に、日本語で書かれている、彼は俺が読み上げろと言うことだろう。


「えー、ラジオネーム『シゴトバリ』さん」


 俺は、水晶玉に書かれていることを読み上げる。


「魔王軍を辞めたいんですけど、今まで辞めていった魔族は一人残らず裏切りものとして始末されてしまいます(私も何人か始末してきました)どうにか、裏切りものとして始末されないようにする方法はありますか?」




 こんなの俺にどうしろってんだよ!!!


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