虚構と現実
浅木蒼依
序章 日常
ー怪異・幽霊・魔法...常識から外れたものを認識したとき、人は初めてそれを信じざるをえなくなるー
授業開始のチャイムが鳴る。それと同時に先生が教室に入ってきて今まで話していた生徒たちは静まり返った。先生が合図をし、あいさつをして授業が始まる。教室内には先生の喋り声と黒板を書く音が響く。一定のリズムを刻んでいるチョークの音は心地いい。これが昼休み後の世界史の授業でなければどんだけよかっただろうかと思う。真剣に授業を聞こうとしているが、授業が進むにつれて脱落者が一人二人と増えている。先生も授業が退屈であることを理解しているのか、寝ている人を注意せず、淡々と授業を進めている。
「三河、魔女狩りって知ってるか?」
唐突に世界史担当の椿姫先生に質問された。おそらく起きてる人の中で、上の空であろう僕を授業へ引き戻すために指したのだろう。寝ている人に無関心とはいえ
起きている人には授業を聞いてほしいのだろう。
「はい、中世ヨーロッパで行われた出来事ですよね。」
「素晴らしい」
「異端審問から始まったこの出来事は11世紀から18世紀まで続くこととなる。元々カトリック教会が異端を取り締まるために始めたものだったのだが、みんなも想像できる通り、科学が進歩していなかった中世では異常気象や疫病、不作などが神による怒りなどと解釈されていたこともあり、これらの騒動をしばしば魔女のせいにして処刑するという出来事が起きた。」
椿姫先生は僕が授業に意識が戻ってきたのを確認したのか真剣なまなざしで再び授業を進めた。
「まぁ、実際は魔女なんていないんだがな....人々の不満のはけ口にされてしまったのは気の毒だよ...」
「ほんとに魔女がいたら私の授業を面白くしてほしいものだよ」
椿姫先生は遠くを見つめながらつぶやいた。
椿姫先生がつぶやくのも当然、昼休み後の授業とはいえ、教室の半分以上の生徒は睡魔と戦うか、睡魔に負けているからだ。
「椿姫先生授業の面白さは先生の技量次第じゃないですか?」
「三河、君は授業中ぼけっとしてるかと思ったら痛いところを突いてくるじゃないか。」
「でも先生ならできると信じてますよ。」
「なんだ三河、ご機嫌取りか?」
「そんなわけないですよ、ほんとに先生ならできると思っているので」
疑いの目で椿姫先生は僕を見ながらも授業の続きを始めた。
(一応真剣に授業を聞いてみるか....)
僕はそうして授業プリントに板書を写し始めた、その途中やはり視界がぼやけて心地のよい空間に包まれていった。
....み....の..ち.......みの.....ち....
みのっち!!おきな!次移動教室だよ!!
「おはよう、次は科学の実験かぁ」
「みのっち寝起きで間違えて爆発とかさせないでよね」
「大丈夫、実験は春香に任せるからさ」
「なんで真面目に授業受けてた私が授業寝てた人のお世話しなきゃいけないんですか~」
「わ~かったよ手伝うからさ」
ならよしという顔をして、急いで理科第一実験室へと早足で移動していった。
彼女は堀内春香
小学五年生のときに春香が転校してきたときに、1人孤独だったときに話しかけてからの縁だ。同じ高校に行こうと相談したわけではないが、学力が大体同じだったこともあり必然的に同じ学校に進学した。なので友達でもあり、ライバルでもあるのだ。
色々準備をして教室を出るころには時計が13:54を指そうとしていた。
「やべぇこれは実験室に着くころにはチャイムがなっちゃうじゃねーか」
急いで教室の戸締りを確認して教室のドアに鍵をかける。
鍵がかかっているのを確認したら急いで第一実験室へと向かう。
廊下にはすでに生徒の影は無く、自分の足音と教室の鍵が揺れる音が聞こえる。
「まるで自分以外の時が止まっているみたいだな。」
そんなことを考えながら第一実験室の扉を開けて自分の座席に座った。
時計を見ると13:54だった。
「あぶねぇ...ギリギリ間に合ったぁ...」
「ギリギリもギリギリすぎるよあと1分でチャイムがなっちゃうんだもん、お寝坊さん。」
「あの授業は眠くなっちゃうんだから仕方ないだろ。」
春香とそんなやりとりをしていると授業開始のチャイムが鳴った。
科学の授業は実験ということもあり、みんなわいわいと実験に取り組んでいる。
「なぁ春香。」
「どうしたのみのっち、なんか実験でわかんないところでもあった?」
「いや、実験の内容は大丈夫。」
春香は、不思議そうな顔をしながら少し不機嫌そうにこっちをみた。
「なぁ、教室からここまで早足で何分で着く?」
「早くても2分はかかるんじゃない?校舎の構造的に」
「だよなぁ....」
この高校は2棟が並列しておりクラス教室棟と特別教室棟で分かれている。その2棟をコの字に繋がるように渡り廊下が二階以上の各階に存在する。
2年生の教室は教室棟の2階にあり、第一実験室は特別教室棟の3階にある。
そのため移動だけでも時間がかかってしまうのだ。
そのため1分未満で実験室まで着くことは本来ありえないのだ。
「どうしたの?」
そんなことを考えていたら春香に声をかけられた。
「なぁ、時間って止められると思う?」
春香は瞬きを2,3回したあと呆れた顔でこっちを見てきた。
「みのっちがそんなこと言うなんて珍しいね、熱でもある?」
「あぁ、夢でも見ているのかもしれない。」
「夢見てる少年君、とりあえず実験手伝ってくれないかな?」
はいよと返事をした後試験管を取り出し、僕は見てるだけだった実験を渋々手伝うことにした。
実験は滞りなく終わり、実験結果を記録し、実験の跡片付けを始めた。
「それで質問の答えだけど」
片付けをしながら春香は答える。
「真面目に考えてくれるのか?」
「みのっちが何の根拠もなくそんなこと言うはずがないからね。」
「みのっちが急いでいて時間を見間違えたに1票」
「結局信じてないじゃないか」
「当たり前でしょこの世に魔法なんてないんだから」
SFの見過ぎよと言わんばかりの顔をして使った実験器具を先生の所へ戻しに行った。
「本当に見間違えだったのかなぁ...」
そんなことを考えている間に授業終わりのチャイムが鳴った。その瞬間ポケットに違和感を感じた。
この一瞬で”誰か”が僕に触っただが辺りを見渡しても違和感を感じる前とは何も変わらない。
「三河!号令だぞ動くな~!」
周りを見ていたら先生に怒られた。
おとなしく号令をし、ポッケにある違和感を確かめる。
ポッケの中には丁寧に折りたたまれた紙が入っていた。
「みのっちなんか警戒してるみたいな素振りしてるけどどうしたの?」
「ふぇ!いっいやなんでもないよ」
急に春香に話しかけられてびっくりした。
「そうなの?ほら鍵持ってるの実なんだからはやく教室行くよ」
「やっべぇそうだった急ごう春香」
ポッケに入っている紙を後回しにして僕達は教室へと急いだ。
このとき紙に書かれた内容を見ていれば、あの後あんなことにはならなかったのかもしれない。
虚構と現実 浅木蒼依 @asaki_aoi
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