ほいよ、これアチアチ料理対決ね。


 ある日、エリシアは新聞社同士が自慢のメニューで対決するという話を耳にした。




 興味をそそられた彼女は、ぜひともその会場に乱入することに決めた。




「これで勝負してやるんですわ!」




 エリシアは「バーガークイーン」で買ってきたチーズバーガーを手土産に持ち、意気揚々と会場に向かった。




 しかし、会場に到着すると、彼女の期待とは裏腹に、そこは古い雑居ビルだった。外観は薄汚れた感じで、異様な雰囲気が漂っていた。




 エリシアは少し戸惑いながらも、決意を新たにして会場の中に足を踏み入れた。


 中にはすでに数名の人々が集まっており、彼らはそれぞれ自慢の料理を持ち寄っていたが、どこか緊張した空気が流れていた。




「こんな場所で本当に対決が行われるのかしら……」




 彼女は周囲を見回しながら、ちょっと不安になったが、チーズバーガーを胸に秘めた期待感が湧き上がった。エリシアはそのまま、対決の様子を見守ることにした。彼女の手元には、自信を持って勝負に挑むための準備が整っていた。


 エリシアは自信満々にチーズバーガーを取り出し、周囲の注目を集めようとしたが、その瞬間、どこからともなく声が飛んできた。




「コスパ悪ぅ!」




 彼女はそのヤジに困惑し、思わず周りを見回した。




 彼女の期待とは裏腹に、集まっているのはスーツ姿の人々ではなく、スウェットやジャージ、そして首元がダルダルのTシャツを着た、だらしない大人ばかりだった。




「これは……一体どういうことですの?」




 エリシアは眉をひそめ、周囲の雰囲気に戸惑いを感じた。




 彼らはチーズバーガーに対する評価を気にするどころか、むしろその存在を軽んじるような態度を示していた。雑居ビルの空気はカビ臭く、全体的に薄暗い雰囲気が漂っていた。




 その時、メンバーの一人が料理を出した。彼は得意気に言った。




「ほいよ、これ具沢山・アチアチ・うどん、ね。」




 皿の上には全体的に茶色い、見た目にインパクトのあるうどんが盛られていた。


 伸び切ったうどんに、ほぼ生地だけのかき揚げが乗っていて、さらに納豆まで添えられている。まるで何が入っているのかわからないような見た目だ。




「うどん本体180円、具が120円。」




 男は満足げに説明しながら、周りにいる人々に早口でぶつぶつと自慢げに語り始めた。




「高い金出して注文することないんだよ。これだけのボリューム、やすいもんだろ!」




 エリシアはその料理を見つめ、眉をひそめた。


 彼女の持っているチーズバーガーと比較して、正直なところ、美味しそうには見えなかった。周囲の人々も、そのうどんの見た目に戸惑いながら、興味深そうに見守っていた。




「これが本当に自慢の一品なのかしら……?」




 エリシアは心の中で疑問を抱きつつ、料理対決がどう展開するのか興味を持って見続けた。


 次のメンバーが自信満々に料理を出してきた。




「もやしの卵とじ丼。」




「も゛っ!」




 その料理がテーブルに置かれると、エリシアは思わず声を上げ、込み上げてくるものを必死に押さえた。


 目の前にあるのは、ただのもやしではなかった。この物体は、ダンジョンの奥深くで見た覚えがある。冒険者の死体のそばに落ちていた気がする。




 皿の上には、もやしの水気でビチャビチャになった丼が盛り付けられていた。




 卵とじと名付けられているが、卵は全く閉じられておらず、むしろボソボソの物体と成り果てている。


 ところどころ混ざっているカニかカニカマなのか、よくわからない鮮やかな物体が、より一層不気味さを強調していた。


 漂う異臭は、もやしの水の匂いだった。水が臭いのだ。その不快な香りが、周囲の空気を一層重たくしている。




「これ、本当に食べられるものなの…?」




 メンバーの一人が決め台詞を言い放った。




「俺も卵とじはよくやるよ。卵一個50円くらいと見積もっても、どんなオカズ買ってきても卵で閉じればそれなりの味と見た目になる。節約しててこの調理法使ってないやつはバカとまで言いきっていいわ。」




 周囲の人々はその言葉に一瞬静まり返り、彼の自信満々な態度に呆れた様子で見つめていた。しかし、エリシアはその発言に内心の不快感を抑えきれず、思わずぼやいた。




「きめえセリフ。」




 彼女は苦笑いしながら、料理の見た目とその発言のギャップに戸惑いを隠せなかった。


 周囲の雰囲気は微妙に変わり、誰もがその発言に共感できるわけではなかった。エリシアはその場の異様な空気を感じながら、次に何が起こるのかを待ち続けた。


 別の男が自信満々に料理を出してきた。




「その辺で捕まえた鳥を焼いたやつだ!」




 エリシアが目を向けると、そこにはなんと、頭を落としていないスズメのような鳥が丸ごと焼かれている光景が広がっていた。


 外は丸こげで、中は生の状態。毛の処理もされていないようで、見た目はまるで恐ろしい実験料理のようだった。




「ピャアアぁ!?」




 エリシアは思わず飛び退き、その異様な姿に驚愕した。周囲の人々も、目を丸くしてその料理を見つめ、言葉を失っていた。


 男は自慢げに吠えた。




「なめんなよ、俺は色々食べるぞ。これはその辺で捕まえた鳥を焼いたやつだ!」




 その言葉に、周囲は再び静まり返り、エリシアは混乱しながらも内心でツッコミを入れた。




「これが料理対決なの?まさか……」




 彼女は、果たしてこの奇妙な料理がどのような評価を受けるのか、緊張感を持って見守ることにした。周囲の反応がどうなるのか、興味と不安が入り混じった感情が彼女の心に広がっていた。


 今度は挙動不審な男が、何やらそわそわしながら料理を取り出してきた。




「無料の天かす丼……」




 周囲の視線が集まる中、男は得意げに説明を始めた。




「天かす丼(無料)の作り方は簡単だ。まず、空いてる丼を拝借して、家から持ってきたオニギリを入れる。そこにネギ、天かす、だし用醤油、すりごまをふりかける。これで、天かす丼(0円)完成だ!」




 彼は自信満々にそう言い放った。周囲の人々はその光景に驚きながらも、冷ややかな反応を示していた。




「0円でこれはコスパ最強。普段の昼飯と比べてみろよ!」




 エリシアは、その話を聞いて思わず口に出してしまった。




「家の米は金かかってるでしょう。」




 しかし、男はその言葉の意味が理解できず、目をきょとんとさせていた。周囲の人々も同様に反応し、彼の料理に対して微妙な空気が流れる。




「もしかして、一人暮らししたことないのかな?」




 エリシアは心の中で呟き、男の不器用さに少しだけ同情しつつも、この料理対決の行く末を見守ることにした。周囲の反応がどうなるのか、興味と不安が入り混じった感情が彼女の心に広がっていた。


 違う男が自信満々に料理を出してきた。




「ほいよっと、川でとれたグッピー炊き込みご飯ね。」




 彼は得意げに続けた。




「野生化したグッピーだからペットショップのやつみたいに豪華な鰭じゃないけど、色は綺麗だからまるで東南アジアの珍味を味わうかのようなエキゾティックな気分。味は淡泊であっさり系だよ。」




 男は茶碗に盛られたご飯を指し示すと、そこには小さなグッピーが、なんとも言えない形でご飯の隙間に刺さっていた。茶碗の中で、無造作に泳ぎ回るような様子である。


 エリシアはその光景を目の当たりにし、声にならない驚きがこみ上げてきた。




「〜〜〜〜???」




 彼女は目を丸くし、言葉を失ってしまった。周囲の人々も、食欲をそそるどころか不快感すら覚える様子で、その異様な料理をじっと見つめていた。




「これが本当に料理なのか……?」




 心の中で戸惑いを感じながら、エリシアは再び周囲の反応を注視した。果たして、この「グッピー丼」がどのように評価されるのか、興味と不安が入り混じった感情が彼女の心を掻き乱していた。




 エリシアは青い顔をして雑居ビルから出ていった。




 心の中には、奇妙な料理の数々が渦巻いており、吐き気を感じながらも何とか外の空気を求めて足を進めた。




 道中、トラックに踏み潰されたコンビニのおにぎりが、妙な形になって道路に転がっているのが目に入った。それを見た瞬間、エリシアの心に一瞬、「まだ食べられそう」と感じる思いがよぎった。




「なんでこんなことを考えているの?」




 その瞬間、彼女は自分がさっきの集会に毒されていることに気がついた。普段なら考えられないようなことを思ってしまった自分に、恐ろしさを感じた。


 エリシアは急いでその場を離れ、再び自分を取り戻すために深呼吸をした。異様な料理と、そこから得た不思議な感覚を振り払うために、彼女は次の行動を考えながら、歩みを進めた。

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