リモート面接


 面接官はリモート画面越しに次の応募者を見つけた瞬間、思わず目をこすった。




 そこに映っていたのは、全身がメタリックシルバーに輝く、異様な姿の男。サングラスをかけ、冷たい笑みを浮かべている。




「俺だぜ〜」




 その言葉とともに、画面に映し出されたのは、まさにヴァイその人だった。




 面接官は一瞬、画面の向こうにいる人物の印象に圧倒され、何を言おうか迷ってしまった。




「えっと、今日はお越しいただきありがとうございます……。まずは自己紹介をお願いできますか?」




 面接官は必死に平静を保とうとしたが、ヴァイの不気味なオーラには抗えなかった。




「自己紹介?簡単に言えば、オレはプロフェッショナルな暗殺者だぜ。で、今日はこの職に応募してきたってわけだ!」




 その瞬間、面接官の心臓はドキリと跳ねた。


 自分が面接しているのは、どこか常識を逸脱した危険人物であることを理解したからだ。彼の目は冷たく、狂気の香りを漂わせていた。




「ま、まあ、こちらの職務内容を理解されているかどうか、少しお話を聞かせていただけますか?」




 面接官はどうにか言葉を続けたが、心の中では「やばいやつ」と感じざるを得なかった。


 ヴァイはその目を輝かせながら、何か面白いことでも起こるのではないかと期待しているように見えた。面接官はますます緊張感を募らせるのだった。




 面接官は、ただの商社での面接であることを理解していた。

 しかし、目の前のヴァイの言動に、普通の面接とはかけ離れた緊張感が漂っていた。




「それでは、最終学歴をお聞きしてもよろしいでしょうか?」




 面接官がそう尋ねると、ヴァイはニヤリと笑いながら、カメラの前に何かを取り出した。




 それは、まさにデザートイーグルという名の拳銃だった。




 光沢のある金属のボディが画面越しに光り、その存在感に面接官は背筋が凍る思いをした。




「学歴?こいつに聞いてみるか?」




 ヴァイは拳銃を持ちながら、まるで冗談のように言った。その笑顔は狂気じみており、面接官は心臓が早鐘を打つのを感じた。




「ヤバいやつや……、拳銃持ってる……」




 面接官は静かに呟き、視線を逸らさずにいたが、内心は恐怖でいっぱいだった。ヴァイの目は興味津々で、まるでその状況を楽しんでいるかのように見えた。




 面接官は不安を感じながら、ヴァイに志望動機を尋ねた。




「それでは、志望動機をお聞かせいただけますか?」




 ヴァイは一瞬、よそ見をしていて、まるで別の世界にいるかのように見えた。しかし、面接官が再度問いかけると、ヴァイはゆっくりと顔を向け、何やら不気味な表情を浮かべた。




「え?ターゲットが死亡した時?あぁ心配すんな。俺は前払い制だぜ?」




 その言葉に面接官は思わず目を見開いた。何をどう聞き間違えたのか、完全にズレた返答が返ってきたのだ。




 まるで「志望動機」が「死亡した時」に聞こえたかのようだった。




 面接官の心の中では、「ヤバいやつや……、一体どういうことだ?」という疑念が渦巻いていた。




 リモート面接は、昼食を食べながら行うことが主旨となっていた。




 面接官は、よりリラックスした雰囲気でお互いの距離感を縮め、本音を引き出すことを目的としていた。


 面接官は自分のサンドイッチを取り出し、ニコニコしながらヴァイに促した。




「さあ、あなたも何か食べてください。一緒に昼食を取りながらお話ししましょう。」






 ヴァイは画面の向こうで、カメラに向かって笑みを浮かべながら、取り出したのはなんと生ハムの原木だった。






「これさぁ、なんか塩辛いんだよな!」




 そのまま原木を齧ろうとするヴァイに、面接官は驚愕した。生ハムの原木をそのまま食べるつもりなのだ。




「え……、それ……」




 面接官は言葉を失った。通常、そういったものは切り分けて食べるものだが、ヴァイはまるでそれが常識であるかのように、原木を口に近づけていた。




「ヤバいやつやで……、生ハムの木そのまま食べてる……」




 面接官は心の中で叫びそうになった。まさに狂気の沙汰である。


 ヴァイは何も気にせず、満面の笑みを浮かべて原木をかじりついている。周囲の状況がどれだけ不適切であろうと、彼には関係がないようだ。




「これ、やっぱ、しょっぺえよな!?」




 ヴァイはそう言いながら、無邪気に原木を持ち上げてかじる姿は、まるで異次元から来たかのような存在感を放っていた。


 面接官はますますこの状況をどう受け止めるべきか困惑し、彼の笑顔に恐怖すら感じ始めていた。




 面接官は緊張をほぐすために、少しでも軽い質問を投げかけることにした。




「もし弊社が内定を出した後、他社があなたをスカウトしたらどうする?」




 ヴァイは一瞬の迷いもなく、即答した。


「金額次第だなぁ!」




 その返答に、面接官は少し安心した。彼の言葉には確固たる自信があり、まるでビジネスの世界で生き抜くための合理的な判断を下しているかのようだった。




「よかった、多分人間だ」




 面接官は心の中で思った。先ほどの狂気じみた行動や生ハムの原木を食べる姿とは裏腹に、実際には彼が理性的な判断を持っていることに、ほっと胸を撫で下ろした。




 面接官はマニュアル通りに次の質問を続けた。


「それでは、学生時代に打ち込んだことは何ですか?」




 ヴァイはその問いに即座に反応し、口元に微笑を浮かべながら答えた。


「鉛玉。」




 彼の返答は意外だった。




 生ハムの原木を片手に持ちながら、もう一度デザートイーグルを見せびらかす。彼の持つ銃とその言葉の意味が、面接官に衝撃を与えた。




「え……鉛玉?」




 その瞬間、面接官は自分の質問が場違いであったことを痛感した。目の前にいるのは普通の学生ではなく、明らかに常識を逸脱した人物だった。




 面接官は心を落ち着け、次の質問を投げかけた。




「もしあなたの希望通りでない部署に配属されたら、どうしますか?」




 その瞬間、ヴァイは生ハムの原木を持った手をピタリと止め、面接官を真っ直ぐ見つめた。




「え、そんなイジワルするやついるの?だれ?誰?」




 ヴァイの声には明らかな不快感がにじみ出ており、その視線はまるで実際に誰かを追い詰めているかのようだった。




「うわぁ……ヤバいやつや」




 面接官は思わず心の中で呟いた。自分の質問が引き起こした反応が予想以上に強烈だったため、一瞬のうちに緊張が走る。




 面接官は心の中で「こんなやつの面接なんかまっぴらごめんだ」と思いながら、どうにかして面接を終わらせようとした。




「まぁ……その……、最後に質問はありますか?」




 すると、ヴァイはニヤリと笑って生ハムの原木を持ち上げ、こう言った。




「食う?」




 面接官はその言葉に驚いた。




 まさか、面接の最後に生ハムを勧められるとは思ってもみなかった。しかも、ヴァイはその生ハムを頬張る様子を見せながら、満足そうにしている。




「いや、結構……」




 面接官はすぐに答えたが、その声には戸惑いがにじんでいた。




「(ヤバいやつやで……)」




 彼は心の中で叫んでいた。




 ヴァイの余裕のある態度と、まるで何事もないかのように振る舞う姿に、ますます恐怖を感じていた。彼の思考は混乱し、普通の面接がどういうものだったのかをすっかり忘れてしまいそうになった。




「喉乾くよな。」




 ヴァイは再び生ハムを齧りながら続けた。その姿に面接官はただ唖然とし、どうにかこの場から逃げ出したい気持ちを抑えきれなくなっていた。




 そして、面接が終わりであることを告げると、ヴァイが急にイキリたった表情を見せた。


「え!?結果は!?」




 面接官は戸惑いながら言った。


「いや、これから選考しますんで……後日……」




 その瞬間、面接官がいた個室のドアがカチャリと開いた。事務員かと思ったが、現れたのは——




「え、ちょ、おま……」




 ——ヴァイだった。




「いや、ずっと隣の部屋で待ってたのにさ、おっかしいな始まらねえなぁ〜面接、って思ってよ。で、お前の会社のサイト見たらリモート面接じゃん!?だから慌ててドンキでパソコン買ってきたよ〜」




「いや、ヤバいやつやん!」

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