最近、好きな子が積極的過ぎて困るんだが
無我無常
第1話 好きな子が積極的過ぎる
ピロピロピロ…ピロピロピロ…
スマホのアラームがけたたましく鳴っている。
僕は必死に音の出所を探した。
寝ぼけ眼で部屋を見渡すと、徐々に意識が覚醒してくる。シミだらけの壁、畳の上に敷いた使い古した布団、そして、朝食を作る母親の後ろ姿。
「ふあぁ…」
僕は大きく欠伸をした。
それに気がついた母親が
母「あっ、直人おはよう。今日学校行く日でしょ?早く用意しちゃいなさい」
と、ひと声かける。
眠いせいか僕は
「ふぁい」
と、間の抜けた返事をした。
直人(そうだ、今日からまた学校に行かなくちゃいけないのか…面倒くさいな)
そう思いながらも上体を起こし、リビングとローテーブルに並べられた目玉焼きとソーセージを平らげ、とてつもないスピードで身支度を始める。
【ピンポーン】
服を着替えている最中に突然、玄関のチャイムが鳴る
母「はーい」
薫「おはようございます。あの、前田ですけど、直人君いますか?」
母「あら、薫ちゃん久しぶりね。直人、今ちょうど着替え終わって出てくると思うから、ちょっと待っててね」薫「あっ、はーい」
直人(あっ、薫か。薫と会うのも久しぶりだな)
幼馴染とまた会えることに、僕は少しだけ嬉しくなった。自然と制服に着替える速度が速くなる。
支度を終えて、玄関のドアノブに手をかける。
直人「それじゃ、いってきまーす」
母「はーい、気をつけて行ってくるのよ」
ガチャ
そう言葉を交わし、外へ出た。
朝日がまぶしい。
僕は陽の光を浴びながら長い渡り廊下を歩き、エレベーターに乗って5階から1階に降りた。
起きてから20分しかたってないため、まだ頭がボーっとしている。
僕は眠い目をこすりながら、あの子を探す。
公営住宅の前の公園に、その女の子は待ちくたびれたように立っていた。
薫「あっやっと来た!おそいおそい!」
彼女の名前は前田薫。僕の1つ下の幼馴染だ。
茶色がかったショートヘアーに、小麦色の肌。顔は少し丸みを帯びているが、決して太っているわけではなく、健康的な体型をしている。まさに快活な女の子といった風貌だ。
ちなみに休学する前は一緒に学校へ行くために、ほぼ毎朝薫が僕の家に迎えに来てくれていた。
直人「すまんすまん!それじゃあ行くか」
僕らは学校に行くために学校に向かった。
薫「それにしても、おにぃと学校行くなんて久しぶり。良かった~元気になって」
直人「おう、心配かけてごめんな。もう入院しないから」
薫「ホントにぃ?それならいいんだけど。しっかし、こんなに長く学校休んで勉強とか大丈夫なの?」
直人「それはたぶん大丈夫。休んでいる間は、友達が宿題とか自宅まで届けてくれてて、それを毎日やっていたし」
薫「あっそうなんだ。まぁそれなら心配ないか!おにぃは真面目だけが取り柄だもんね!」
直人「コラ、一言余計だぞ」
そんなたわいもない会話をして、僕らは学校に到着した。
校舎の下駄箱で「じゃあまたあとで」と軽く言葉を交わし、僕は薫と別れて自分の教室へと向かう。
教室へ歩みを進めると同時に、ある考えが脳内を支配する。
直人(学校を休む直前にあんなことがあったから、みんな僕を快く迎えてくれるだろうか…もしかしたら僕の席にすごい落書きがしてあったりして…!!)
そんなことをグルグルと思考して緊張しながら教室に入ると、その不安とは裏腹に友人たちが明るく声をかけてきた。
渡邊「おっ直人おはよう!久しぶりだね」
直人「おっ、おう!久しぶり!」来栖「ホント会うの久々だなぁ!俺たち直人のこと、まぁまぁ心配してたんだぞ」
直人「まぁまぁってなんだよ。まっ、心配してくれてありがとな」
渡邉「直人がいなくって僕たちどれだけ退屈していたことか!早速だけど、退院祝いで今週カラオケでも行っちゃう?」
直人「おっいいね!いこういこう」
変わらぬ友人たちの様子に僕は安堵した。
直人(やっぱり、友達っていいな)
そう心の中で思い、友人との久しぶりの会話を楽しんでいると、クラスにぞろぞろと4人の女子集団が入ってきた。
「マジやばくなーい?」「ねーほんとそう」
その女子たちの中で、ひと際目を奪われる存在がいる。安藤あやかだ。
整った顔立ちと綺麗な漆黒の長髪、同年代とは一線を画すモデル体型。
その妖艶さは他クラスだけではなく他の学年にも知れ渡っているらしい。また月に20人から告白されたという噂まであるという。
まさに高嶺の花といった感じで、一部の生徒の間では”あやか様”というあだ名で通っている。
来栖「なっ、やっぱりお前、今でも安藤さんのこと狙ってるのか?」
直人「べっ、別にそういうのじゃねぇし!」
渡邊「ふぅん、高1の頃好きだって言ってたから、まだ好きだと思ってた」
本当は今でも好きだ。正直、安藤さんに会いたかったから今日学校に来られたまである。
女子4人が一人一人席についた。
僕は一番後ろの席に座っているが、自然と教室の真ん中あたりに座っている安藤さんの後ろ姿に自然と目を奪われる。
直人(やっぱり座っている姿も華があるな)
そんなことを考えていたら、突然彼女が後ろを振り返った。まじまじと安藤さんを見ていた僕と、ばっちり目があってしまう。
一瞬、僕は緊張のあまり硬直してしまったが、すぐに視線を別の方向へ移す。
直人(やばい…ガン見していたのバレてないよな…)
そう思って数分の間、全身から変な汗が出ていた。
直人(でも目が合った時、安藤さんが僕に微笑みかけた気がするけど…気のせいかな)
ピーンポーンパーンポーン
安藤さんのことばかりに意識が行っていたら、始業のチャイムが鳴った。
みんな自分の席につく。
直人(ううん…僕に気があるなんて100%ないんだから、彼女が少し笑ったのはきっと思い違いだ。少し冷静になろう)
そう心の中で結論付けている間に、いつのまにか先生が教壇に立っていた。
先生「おはよう。じゃあ朝のホームルームを始めるぞ。まず最初に、すでに知っていると思うが今日から相沢が学校に復帰した。まぁ、変わらず仲良くやってくれ。相沢、なんか皆に言いたいことあるか?」
直人「はい!えっと…いろいろとお騒がせしてすみませんでした。これからもよろしくお願いします」
パチパチパチ…
まばらな拍手が聞こえた。
先生「…うっし、じゃあ連絡事項だが、理科の先生が今日病欠でいないから自習だ。お前らサボらずやるように。あとは…」
そんな感じで、歓迎されているのかされていないのか微妙な雰囲気であっさりとホームルームは終わった。まぁ万来の拍手で迎えられてもそれはそれで困るのだが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(あぁ、学校の授業ってこんな感じだったな)
とノスタルジックな気分に浸りながらも午前の授業を受けていた。
そして、あっという間に昼休みの時間になった。
昼休みは、いつもあいつがやってくる。
ダッダッダッダッ…ガラガラ!
薫「おにぃ、いま暇?お昼いかない?」
そう、僕の幼馴染だ。
直人「コラ!声がでかいぞ薫!それに、みんなの前でおにぃって呼ぶの恥ずかしいからやめろって何度も言ってるだろ!」
薫「えへへーごめんなさーい」
来栖「おっ薫ちゃん久しぶりだね」
薫「来栖先輩と渡邉先輩!お久しぶりです!」
渡邉「いや~それにしても、お二人共仲がいいね〜。やっぱ付き合ってるでしょ?」
薫「えーやっぱりそう見えますかぁ?」
猫なで声で反応した薫を制止するように
直人「いや、ただの幼馴染なだけで付き合ってないよ。なっ、薫!」
と言って薫の顔を見ると、頬を膨らませてしかめっ面をしている。
直人「…あれ?薫どうした?」
薫「……なっ…なんでもない!とにかく早く屋上行くよ!バカおにぃ!」
直人「イテテ…お、おい手引っ張るなって!あっ2人ともじゃあな!」
僕は薫に強引に手を引かれ、教室を後にした。
来栖「…相沢直人は薫ちゃんの地雷を踏みましたね。解説の渡邉さん」
渡邉「えぇ、そうですね。やはり相沢選手は復帰しても彼女の気持ちに気がつかないようです」
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コツコツコツ…
薫に手を引かれて屋上にやってきた。毎日ここで昼食を食べるのが決まりとなっているためだ。
僕らはいつも座る場所に腰を下ろした。
不貞腐れたような顔でいる薫に、僕はたまらず声をかける。
直人「なぁ、なんでそんなに怒ってるんだよ」
薫「それは自分の胸に聞いて下さい!まったくどこまで無神経なんだか…」
直人「ん?最後のほう聞き取れなかった」
薫「なんでもない!それよりご飯食べよ!どうせ今日もお弁当持ってきてないんでしょ?はいこれ」
直人「うおっサンキュー!さすが薫、頼りになる〜!これはいいお嫁さんになるわ!」
薫「ほっ、褒めても何もでないわよ!もうっ!」
薫の手作り弁当を食べながら談笑していると、屋上の扉が開く音がした。
目を向けると、そこには安藤さんの姿があった。
僕はすぐに目を逸らしたが、なぜか安藤さんはこっちに向かってくる。そして僕らに声をかけた。
あやか「こんにちは。あなたたち、いつもここで食事しているのね。もし良かったらご一緒してもいいかしら?」
薫はキッと安藤さんの方を睨むと
薫「は?なんで天下のあやか様が私たちと食事するんですか?仲良しグループと一緒にいればいいじゃない」
と言い放った。
この2人はおそらく初対面だというのに、薫はやけに好戦的である。
あやか「今日はあなたたちと昼休みを過ごしたい気分なの。それとも、私が一緒だと嫌かしら」
薫「別に嫌とかではないですけど…」
あやか「ならいいわよね。直人君もいいかしら?」
直人「あ、あぁ。別に構わないよ」
あやか「本当?ありがとう。じゃあここに座らせてもらうわね」
といって安藤さんは、向かい合わせに座っている僕と薫の斜め前くらいに座った。しかも、ほんのりと僕寄りだ。
直人(いや近い近い!)
表面上は平静を装っているが、頭の中はパニックになりかけている。
ちなみにふくれっ面の薫が、さらにふくれっ面になっているのは気づかないふりをしておこう。
あやか「突然薫さんとの間に割って入った私を、受け入れてくれるなんて…やっぱり直人君って優しいのね」
直人「い、いやそんなことないよ」
あやか「そんな謙遜しなくてもいいのに。直人君のいいところって、優しいだけじゃなくて謙虚なところかしら。この性格がみんなを惹きつけるんだと思うの」
直人「あっ、ありがとう…」
突然褒められると返答に困る。
直人「あと、直人君が学校をお休みしていた間、クラスのみんなが寂しがっていたわよ。直人君って優しいだけじゃなくて人望もあるのね」
直人「ほっ、褒めすぎだよ!」
あやか「うふふ、直人君をからかうのってとても面白い!」
直人(あっ、僕、からかわれていたのか。でも全然嫌じゃないな。むしろ、好きかもしれない…)
そう思いながらも、しばらくあやかさんとの会話に花を咲かせていた。
ちなみに薫はというと、押し黙ったまま弁当を口に運んでいた。たまにギリギリという歯をかみしめるような音が聞こえたが、きっと鳥の鳴き声だろう。
会話の途中で突然、あやかさんがこういう質問を僕に投げかけた。
あやか「…ねぇ、直人君。そういえば、なんで入院したの?あっ、いや忘れたわけじゃないわ!けれど、念のためもう一度教えてほしくて」
直人(ん?忘れたわけじゃないってどういうこと?もしかして友人伝いで僕の病気を知ったのかな?…まぁいいか、とりあえずお茶を濁しておこう)
そう思った僕は
直人「えっと…も、もともと持病があって、それが悪化しちゃったからかな」
と、はぐらかすようにこの質問に答えた。
あやか「持病?珍しいわね、この歳で持病なんて。何の病気なの?」
速攻で痛いところを突かれた。
直人「えっと…それは」
どもる僕を見かねてか、いままで沈黙を貫いていた薫がすかさず口をはさむ。
薫「ちょっと!!人には言いたくないことがあるって分からないの?あ・や・か・さ・ま?」
あやか「あらごめんなさい、でも私と直人君との仲だからそういうこと聞いてもいいと思ってね」
そういって安藤さんはまるで恋人同士のように僕の腕を両腕でがっちり抱き寄せた。
直人「ちょっと安藤さん!何してんですか!?」
あやか「ふふっ。直人君、こういうことされるの、嫌かしら?」
直人「嫌とかそういう問題じゃなくて、僕たちそういう関係だったっけ!?あんまこれまで話したことなかったよね!?」
そう僕が言うと安藤さんはパッと手を放した。
あやか「まっ、それもそうね…ごめんなさい」
一瞬、あやかさんは切ない表情をしていたが、僕はその意図がくみ取れなかった。
薫「はははっ!フラれてやんの!おにぃは、あなたみたいなクールぶっている子は好みじゃないの。むしろ私みたいなハツラツとした子が好きなんだよねーおにぃは!」
あやか「えっ?それって本当なの?直人君…」
2人は僕に熱い視線を向けてくる。僕はどうすればいいかわからなくなり
直人「ぼっ、僕は知的な子がタイプかな」
と言ってしまった。
一瞬、場が凍ってしまった感じがしたが、すぐさまあやかさんが口を開く
あやか「知的な子?それって私のような人を言っているのかしら?うふふ…それなら嬉しいわ」
薫「はぁ?そんなわけないじゃん!おにぃは知的で元気な子がタイプって言ったの!ねぇ、おにぃ?」
あやか「薫さん、言ってもいないことを口にするのやめてもらっていいかしら。そういうあなたみたいな知性のかけらもない子を直人君が相手にするわけないじゃない」
薫「な、なんですって……!!」
薫の顔が目に見えて赤くなった。
周りで昼食をとっている生徒たちも僕らのギスギスした雰囲気を察して、そそくさ屋上から退散していく。
長い長い沈黙の時間が訪れる。
この沈黙を破ったのは、すっかりふくれっ面になっている薫だった。
薫「あれぇ、おにぃもうお弁当食べ終わってんじゃん!さぁとっとと教室戻るよ!」
直人「いやまだ残ってるけど…ってイテテテ!わかった!わかったって!ごめん安藤さん、僕ら先帰ってるね!また教室で!」
僕は薫に手を引かれ、屋上を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
直人「なぁ薫、どうしたんだよ、そんな安藤さんの前で敵意むき出しにするなって」
薫「だってあいつ、ズケズケと私たちの間に入ってきてあんな不埒なこと…許せないわ!!」
直人「しょうがないだろ、安藤さんもなんかの気の迷いで俺たちと交流を持ちたかったんじゃないか?」
薫「ふーん、あの女の肩を持つのね」
直人「いや、誰の肩を持つとかじゃなくて…」
薫「へーそうやって言い訳するんだぁ…私は、おにぃに対しても怒ってるんだから。ずーっと鼻の下伸ばしちゃって!なに?もしかしておにぃはあの女のことが好きなの?」
直人「えっ?べっ、別に安藤さんのことはただのクラスメイトとしか思っていないよ!」
薫「本当にそう?」
直人「う…うん」
薫「じゃあ、今、誰が好きなのかこの場で言えるわよね」
直人「えっ!?そっ、それは…えーと…」
凄まじい勢いで目が泳ぐ。とりあえずこの場から逃げるしかない!そう思った僕は
直人「正解はCMの後でー!!!」
と捨て台詞をはいて一目散に逃げた。
「コラ!待ちなさい!」という薫の声が聞こえたが、僕は聞き入れなかった。
結果的に速攻で薫をまくことに成功。僕は逃げ足だけは速いのだ。
逃げている最中にチャイムが鳴ったので、僕は平静を装ってクラスに入っていった。
既に安藤さんは席についているみたいだった。チラッと目が合ったが、僕が話しかけたら教室中大騒ぎになると思ったのでやめておいた。
退屈な午後の授業が終わり、ようやく放課後だ。
この曜日はいつも薫と帰っているのだが、昼にひと悶着あったのでなんだか会いづらい。
直人(しょうがない、一人で帰るか)
と思った矢先、こちらに近づいてくる一人の女子生徒がいた。
あやか「ねぇ、直人君、一緒に帰らない?」
一瞬教室全体が凍りついた気がした。学校1の美少女が、冴えない男子生徒に声をかけるのがよほど珍しかったらしい。
直人「う、うんいいよ」
腰が抜けるかと思うほど驚いたが、とりあえず断る理由もないので二つ返事で快諾した。
みんなからの視線を浴びながら僕らはそそくさと教室からでていく。
直人(やばい!なんでか分からないけど、安藤さんと一緒に帰ることになっちゃった!どうしよう!)
僕は動揺を抑えるので必死だった。
僕に気を使ってか、校舎の外に出るまであやかさんは無言でいてくれた。そのおかげである程度落ち着くことはできた。
少し冷静になると、ふとこのような疑念が沸き上がる。
直人(ずっと入院してたから安藤さんの好感度が上がること一切していないんだけど、なんで安藤さんは今日こんな積極的なんだろう)
しかしこの答えを聞けぬまま、僕は無言で一階の下駄箱まで下りていく安藤さんをただ黙って追いかけた。
校門を出て一息ついたところで、僕は彼女に話しかける。
直人「安藤さん、急に一緒に帰ろうなんてびっくりしたよ。どういう風の吹き回し?」
あやか「うふふ、今日はなんだか直人くんと帰りたい気分だったの。いけないかしら?」
直人「別にだめってわけじゃないけど、みんなの前で帰ろうなんて言われると恥ずかしいよ…」
あやか「あら、それは申し訳ないことをしたわね。次からは気をつけるわ」
"次からは気をつける"という言葉が気にはなったが、気にせず会話を続ける。
直人「ところで、昼間のことなんだけど…急に逃げ出すような真似してごめん。嫌な気分にさせちゃったよね。あとで薫にキツく言っておくから」
あやか「いやいいのよ。私だって、薫さんの神経を逆なでして申し訳ないと思っているわ。まさかあの子があんなにムキになるとは思わなくて」
直人「まぁ薫も、突然安藤さんが話しかけてきてびっくりしたんじゃないのかな?まぁ、明日になれば機嫌も治るよ、きっと」
あやか「私も、そうであることを祈っているわ。それと私、直人君にも謝りたいことがあって…。あの時、ズケズケと質問してしまってごめんなさい!迷惑だったわよね?」
直人「いや、迷惑なんかじゃないよ!ただ少し驚いただけで」
あやか「本当?それは良かったわ!私、直人君を傷つけてしまってないか不安で仕方がなかったの」
直人「いやいや、僕はそのくらいで傷つかないよ。大丈夫」
あやか「そう?それならいいんだけど。でも私の発言で何か気に障るようなことがあったら遠慮なく言って頂戴ね」
直人「あっ、うん分かったよ」
直人(安藤さんすごい僕に対して親切だな…持病が悪化したから入院したなんて嘘ついたのが、なんだか心苦しいよ)
あやか「ねぇ、こうして一緒に帰っていることだし、お互いの好きなことについて話し合わない?」
直人「あっ、うん、いいね。そうしようか」
あやか「じゃあ…そうね、直人君の好きなことってなにかしら」
直人「えーと、そうだな…音楽を聴くこと、かな」
あやか「あっ音楽ね!私も聴いたりするわよ。どんなジャンルの曲が好きなの?」
直人「えっと、主にロックバンドの曲かな。好きすぎて四六時中聴いているよ」
あやか「へー。じゃあ直人くんにとって、音楽は生活の一部になっているのね」
直人「そうなんだよね!ちなみに入院中もずっとロックを聴いていたんだ!つらい病院生活も、なんとかそれで耐えられたよ」あやか「あー、確かに直人君、あの時もずっとイヤホンつけていたわよね」
直人(んっ?どういうことだ?まるで入院中、僕に何回か会っていたような口ぶりだけど…。いや、そんなことは絶対ありえないな。なぜなら、安藤さんのことを病棟で一度も見かけたことないし)
そう考えを巡らせ
直人(そうか!あやかさんは、僕が教室でずっと音楽を聴いていることに対して言っているんだ。きっとそうに違いない)
と解釈をし、言葉を続ける。
直人「そう!よく見ているね。確かに、教室でも暇さえあればイヤホンで音楽を聴いているかな!」
そう僕が言うと、安藤さんは困惑した表情で
あやか「あっ…えっと、そういう意味で言ったわけではなくて…」
と言った。
それを聞いて僕は直人(え?じゃあどういうこと?もしかして僕が気づいていないだけで病棟で会っていたとか???)
と頭が混乱して、言葉を一瞬つまらせた。
あやか「あっ、えっと…な、なんでもないわ!ごめんなさい!混乱させてしまったみたいで」
直人「い、いやいや!大丈夫だよっ!謝らなくて!」
…お互い黙ってしまった。
僕は言葉の真意を安藤さんに問うこともないまま、しばらく無言で歩いていた。
直人(どうしよう、こうしてせっかく好きな人と並んで歩いているのに、なんだか気まずい雰囲気なってしまったぞ…何か話さなくては…)
そう思った僕は
直人「あっ!そういえば安藤さんの好きなことって何?」
と問いかけてみた。
あやか「あっ!そうね、そういえば言ってなかったわ!ええと…強いて言うなら、卓球…かしら」
直人「えっ安藤さん卓球やるの!?意外!」
あやか「そう?まぁ最近やりだしたばかりなんだけどね」
直人「へぇーそうなんだ!僕も卓球やったことあるけど、結構難しいよね」
あやか「そうね、でも私の場合、いい先生がついてくれたおかげで、すぐに上達出来たわ」
直人「あっ、そうなんだ!それは良かったね!でも、安藤さん卓球部じゃないはずなのに、一体どこで習ったの?」
あやか「うふふ…それは秘密よ」
直人「え?なんで!?」
あやか「さぁ、なんでかしらね。でも少しヒントを与えると、私についてくれた先生はとーってもいい人だったっていうことよ」
直人「えーそれじゃ分からないよ」
あやか「ふふっ。まぁ、気が向いたら教えてあげるわ」
直人「それ絶対教えてくれないパターンでしょ!」
会話が少しずつ弾んできたところで、僕らは三叉路に差し掛かる
あやか「あっ、じゃあ私、こっちの方向だから。直人君とのおしゃべり、楽しかったわよ。今日はありがとうね」
直人「あっ、こちらこそありがとう!楽しかったよ!じゃあまた明日学校で」
名残惜しさを感じつつ、手を振って安藤さんと別れた。
直人(それにしても今日は、学校復帰初日なのにやたらと濃い一日だったな。まっ、とにかく今日はさっさと寝て、また明日に備えよう)
夜、眠りにつくまで、僕は今日のことを反芻し、ずっと幸せな気分に浸っていたのだった。
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