第2話 始まりと終わりは突然に
OK、OK。ちょっと落ち着こう。
さっきまで見ていた夢を思い出すんだ。
私の名前は大森えり。
ゲームと小説を愛するオタ少女だった。
あ、でも運動もできたし、体育だって得意だった……と思う、たぶん。
愛する両親と三人で仲良く暮らしていた。
…そう、暮らして「いた」。
私の生涯が変わったのは12歳の春。
交通事故に巻き込まれた私は両親を失った。
その時の記憶はほとんどないが、うっすらと救護活動が続く様子を覚えている。
次の記憶は病院の天井。
この時、私だけ生き残った。
それ以外のすべてを失って。
それ以来、私は親戚の家を転々としながら、どうにか生きてきた。
こんな生活だから、当然のように友達はおらず、その悲しさを紛らわせるために
没頭したのがゲームだった。
『イシュ物』も『わた王』も、そんな中ではまったゲームの一つだ。
親族一同から除け者にされながら何とかかんとか中学校まで卒業させてもらったのは、せめてもの情けだっただろう。
そのあと、高校に進学して……えーと、どうなったんだっけ…?
ま、いっか。 おいおい思い出すだろう。
そして「今」の私。
こちらの名前はエリー・フォレスト。
こっちの世界にも両親はいない。
物心ついた時にはすでにいなかった。
どうやらこの孤児院の前に捨てられていたらしい。
うん、ゲームの設定と同じ記憶が私にも宿っている。
どうやら二人分の人生を記憶しているみたい。
なので、どっちがオリジナルなのか、それともどっちもオリジナルなのか、よく分からん……。
だから完全に別人って事はないみたいね。
それだけは安心した。
誰かの人生を乗っ取っちゃうなんて、寝覚めが悪いしね。
ゲーム内のエリー・フォレストは15歳の誕生日に「聖なる力」を宿す。
この世界には【魔獣】と呼ばれる動物たちが棲んでいて、一部の地域では共生しているらしいがたいていは害獣として忌避されている。
その魔獣を退ける力が、私に宿ったらしい。
そんなご都合主義な事あるかい、と言ったところでどうしょうもない。
だってスタートがそうなんだもん。
そうはいっても、まだ実感したことはない。
体がぺかーっと光って、それを見た村の司祭さんが
「これぞ聖なる力!大いなる力が降臨した!」
とか仰々しく言うもんだから大騒ぎになっちゃっただけで、実際に魔獣を退治したりした事はない。
それからは、あれよあれよという間に
「この聖なる力を正しく発揮する訓練が必要だ」
「学び舎で、この力を磨くのだ」
「王都にある聖トラヴィス魔法学園が良いだろう」
と話が進み、最後は
「行け、エリー・フォレスト。世界を救うのだ」
と村長が号令をかけて、体よく村を追い出された。
行け、じゃねぇよ。
ドラ○エの王様だって路銀くらいくれたわ。
お前、何もくれないのな。
世界とか何とか言ってっけど、そもそも、この世界に魔王とか見当たらないんだが。
孤児院を経営していた育ての両親は泣いていた。
それを見て思わず涙ぐんでしまったが、
「これで何とか今月はやっていけそうだ」
「助かった、助かった……」
という声が聞こえてきてたので「すん」と引っ込んでいった。
そういえば、経営が苦しくて、人減らさないとやっていけないって夜中に相談してたね。
子供って、意外とそういうの見ているのよ。
ほかの子供たちも
「おかずが少しは良くなるかな」
とか話してやがる。
くそっ、誰も私が村から出ていくのを悲しんでない。
おかしいな、『イシュ物』では綺麗な一枚絵と共に、「いってきます!」と満面の笑顔で旅立ち、村のみんなも「いってらっしゃい!」と温かく送り出していたのに。
くそ、これじゃまるで、除け者を追い払うみたいじゃん。
私の前世とそう変わらなくね?
―― ああ、そうだった。
もうひとつの世界の私がどうなったか、思い出した。
車に飛び込んだんだった。
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