あの時の記憶

司馬春海

第1話

この日記は私が私の感情吐き出すために始めたものだ。だから、私は何の事柄にも縛られずただ今の感情のままに書いていこうと思う。



2月6日

高校三年生だった私はこの日、第一志望の大学の試験に向かうため、電車に乗った。

そして、電車が駅に着いて私が電車から降りたところまでは自分で覚えていたのだが、気づいたら誰かから腕を引っ張られていた。そしてそれは同年代の男の子だった。私は最初何が起こっているのか分からず、あたふたしていると、

その男の子は

「あなたがホームから落ちそうになっていたから引っ張ったんですよ。大丈夫ですか?」と言ってくれてようやく事態が飲み込めた。

私は彼に一言言って改札に向かおうとすると、

「あなたも受験生ですよね。よかったら、一緒に会場まで行きませんか?」

と言われた。何なのだこの男は。たとえ向かう先が同じだとしても、初対面の人と向かうなんてどういうつもりで言ってるんだ。だけど、こいつに後ろから追いかけられるのも、私がこいつを追いかけるのもどっちに気分が悪くなりそうだ。

だから、短い長考の末一緒に行くことに決めた。彼は予想外にも話しかけて来ず、変な素振りも見せなかった。しかし、それはそれで余計気味が悪い。じゃあ何故誘ったのだ。そんな疑問を残しながらも無事会場に着いた。

さすがに教室までは同じではなく、入り口のところで私達は別の教室だと気づくと、

「試験頑張ってね。」

と一言言って私が返事をする間もなく早々に行ってしまった。

全く何なのだ。こっちが言おうとしてるのにそんなことも気にせずに行ってしまうなんて。しかも、あいつは何であんなことを言ったのか。私だけがするならまだしも、あいつも私と同じことをするのに。

まあ、二度と会うこともないだろうし、あいつのことなんか忘れて試験に集中しようと切り替えて教室に向かった。

しかし、こんなことをしている時点で色々察する事ができるだろう。そして、多分この事は一生忘れないだろう。端的に言うとこの大学の入試に落ちたのだ。理由なんて探せばいくらでもある。ただ、強いていえばあいつのせいだ。あいつのせいで調子が狂ったのだ。いや、違う本当はただの実力不足だったのだ。ただそれを認めたくない、落ちた事実を受け入れたくないから、たまたま出会ったあいつのせいにしているのだ。はぁ、こんなことをしている自分がいやになる。だから、これ以上自分が荒む前に今日はこれで終わるとしよう。

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あの時の記憶 司馬春海 @djtmpgmug

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