怪奇現象?顔面蒼白ミス!笑い有り!【本当にあった怖い話】短編集

柿倉あずま

第1話 エレベーターで叫べ!【アパートの怖い話】

(本話の分量は文庫本換算2ページ程です。)




俺(22歳・男)は、この春から社会人デビューをした。


それに伴い、都内の或るアパートにて一人暮らしをはじめた。古いアパートだが、5階建てで部屋の数は多く、エレベーターも設置されている。


全階ふきっさらしの廊下だが、その一か所で、エレベーターは上下階をつなぐ。4階に暮らす俺は、出勤時の朝も帰宅時の夜も、エレベーターをよく利用する。


そんなエレベーターについて、深夜のみに起こる異変に、俺は気付いた。




今は深夜。アパートの敷地に足を踏み入れて、エレベーターへと向かっている。明日が休みということもあって、仕事の遅れを取り戻すために残業をしての帰宅だ。正面に、エレベーターが見えて来た。やはりだ。エレベーターは、俺を迎えるように1階に到着して扉は開いている。


俺は、そのままエレベーターに乗って、4階を押す。重い機械音とともに扉は閉じて、上昇。やがて4階に到着…。やはりだ。扉が開かないのだ。俺は「開く」ボタンを押す。それでもまだ開かない。10度くらいは連打したかな?シンと静まったエレベーターにおいては、ボタンを連打する音すら反響する。そうした中で、やっと開いた。


以上「1階に到着していることから4階に到着してもなかなか開かない」ことは、深夜のエレベーターでは毎度起こる。一方、朝のエレベーターでは起らない。




面倒だなと思いつつエレベーターを降りて、自室へと歩いた。




違う日。俺はまた、残業のため、深夜に帰宅した。アパートの敷地前では、翌日に回収されるゴミを出している中年男がいた。俺はその中年男に適当に挨拶をして通り過ぎて、アパートの敷地に足を踏み入れる。歩いているとエレベーターが目に入る。やはり1階に到着しており、扉は開いている。


俺がエレベーターに乗って4階を押した時、ゴミを出し終えた中年男は「すいません」と言いつつ駆け込んで来た。「何階ですか?」と中年男に聞くと、「5階をお願いします」という。俺は、5階を押して「閉める」ボタンを押す。エレベーターは、重い機械音とともに閉じて上昇。


すぐに4階に着いた。やはり開かない。俺は中年男に、「深夜のエレベーターってなかなか開かないですよね」と言いつつ、「開く」ボタンを連打し続ける。それでも、開かない。中年男は「君、このアパートに来て日は浅いの?そう言う時はね、毅然と言うんだ」と言ってから、俺にではない誰かに向かってか「イタズラはやめろ!」と怒鳴った。


エレベーター内に中年男の声が反響する。大きな声に圧倒される俺は開くボタンを押すのを忘れていたが、反響が収まらない内に、エレベーターの扉は開いた。


「4階だよ」という中年男のことばに、俺ははっとして条件反射でエレベーターを降りた。「まあ気にしなさんな。今度は君も試すといいよ」エレベーターの中から中年男は一言述べてエレベーターを閉じた。そのまま上昇して、俺は静まった廊下に一人残された。


ふきっさらにのこの廊下に、一つの風が通り過ぎる。昨日と今日とで物理的な温度差は目立たないはずだが、俺の神経はいつもより冷たいと感じた。俺は思いめぐらせた。何で怒鳴ると開いた?イタズラって誰の?


疑問が湧いてくるが、先程の一連の流れからして、怪奇現象というものが合理的答えだと心身が身構えているようだった。




その日から俺はエレベーターに対して怪奇的恐怖を覚えて階段を使用していたが、本日、残業をして深夜に帰宅した。アパートの敷地に足を踏み入れた時、エレベーターはちょうど1階に到着して口を開けたのが見えた。いつものように階段にしようか?その一方で、深夜に帰宅したのは一つの機会とも思い、中年男に言われたことを試してみようかとも思った?


迷った俺だが、エレベーターに乗った。4階を押して、閉まるボタンを押す。重い機械の音とともにエレベーターは閉じて上昇、すぐに4階に。やはり扉は開かない。「開く」ボタンを押してみる。でも、開かない。俺は、中年男に教わったように、毅然とことばを発することにした。


俺は、「イタズラはやめろ!」と叫んだ。エレベーター内に俺の声は反響して、すぐに静まり返った。エレベーター内で叫ぶなんて日常で行わない不自然さ、また多少の怖さのせいもあって、上ずった声になった。


機械音とともに、扉は開いた。「開く」ボタンを押してはいないのだけど。叫ぶと同時に開いたことに、何者かと会話した感覚になった。何者か近くに居る?そんな感覚を持って、そろりとエレベーターを降りた。


そして小走りに自室の前へ。何かに追われるような焦りすらを感じつつ、鍵を取り出す。鍵穴にうまく差し込めない。余計に焦る。偶然のように鍵穴にささると、慌てて回してドタバタとドアを開けて部屋に滑り込む。ドアを閉めつつ、部屋の前や廊下に誰もいないことを左右確認。ゆっくり閉じると、廊下の薄明りはシャットアウトされて真っ暗な玄関となる。記憶と手探りで鍵のつまみを見つけて、戸締りをする。俺は、一息ついた。


だがその時。一度、ドン!と玄関扉を外から蹴る音がした。飛び上がる程びっくりした。




その後。何か月か経つ。


庭やエレベーター等、アパート住民と偶然会った時に、深夜のエレベーターの話をしてみた。みなさん先輩住民に教わったことで、毅然と対応するらしい。今のところ実害も無いそうである。


中には、何かの怨念でも彷徨っているのかと、心霊現象の基になるような事件事故等を調べた住民もいた。アパートの施行段階、エレベーター関連、敷地周辺、調べる限り何も無いそうだ。


強いて言えば、もう退去したご老人のこと。20十年くらい前、はじめてエレベーターが設置された時、用もないのに利用して喜んでいたそう。現在生きていれば、110歳とのこと。このおじいさんの霊が遊んでいるのか?それを証明することもできなければ、物理的説明もできない。はじめは不気味さも有ったものの、実害も無い以上は慣れても来たのだろう、この現象をもとに金儲けでもできないかと思いめぐらせてしまうのだ。



以上「第一話:エレベーターで叫べ!【アパートの怖い話】」。

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