衝撃の顔合わせ
1
「……えっと……」
都内のとある立派なビルの一室で、制服姿で栗毛色の長い髪をおさげにした女子が周囲を見回しながら、おずおずと口を開く。整然と並べられた机と椅子には、おさげ女子以外に、七人の男女が座っている。
「……なによ」
おさげ女子の斜め後ろに腕を組んで目を閉じて座っていた銀髪の綺麗なロングヘアーの女性が、片目を開けておさげ女子を見る。
「み、みなさんは……オーディションの参加者でしょうか?」
「そうよ」
銀髪ロングヘアーが首を縦に振る。
「さ、最終選考参加者ですか?」
おさげ女子が重ねて尋ねる。
「そのように聞いているわね」
「は、はあ……」
「なに? ご不満?」
「い、いえ! そういうわけでは!」
銀髪ロングヘアーに軽く睨まれ、おさげ女子は慌てて、右手を左右に振る。
「たしかに、ちょっとばかり意外な顔ぶれやな~」
一番前列に座っていた、ヒョウ柄のジャージに身を包んだ金髪ポニーテールの女性が人懐っこい笑みを浮かべながら、後ろに振り返る。
「性別もそうだけど、見たところ年齢層もバラバラ……」
金髪ポニーテールの斜め後ろ、おさげ女子の斜め前に座ったラフな服装の黒髪ロングの女性が応える。
「自分もそう思うか?」
「うん」
「こういうのは大抵若い子が受かると思っちょったのじゃが……」
真白なスーツに身を包んだひげ面で、がっしりとした体格の男性が口を開く。女性たちとは別の列の一番前にどっしりと座っている。金髪ポニーテールが即座にツッコミを入れる。
「いや、おっさんが言うなや」
「だ、誰がおっさんじゃ!」
「自分のこっちゃ」
「失礼なことを言うな、ワシはまだ20代じゃ!」
「「ええっ⁉」」
ひげ面の発言に皆驚くが、中でも銀髪ロングヘアーとその隣の列に座る眼鏡をかけた気真面目そうな男性が最も驚きを露にし、ガタっと立ち上がる。
「……い、いや、今回のオーディションは15歳から35歳までの幅広い年齢での募集……そこまで驚くようなことではありませんね……」
眼鏡の男性はズレた眼鏡を直しながら、自らに言い聞かせるように呟いて座る。
「ははっ、でもその貫禄はどこからどう見てもおっさんさ~」
ひげ面の男性の斜め後ろに座った、タンクトップとハーフパンツ姿の爽やかそうなルックスで日焼けした青年が笑う。ひげ面がムッとする。
「むう、貫禄と言えば、聞こえは良いかもしれんが……」
「そう思わん?」
日焼けした青年が振り向いて、自分と眼鏡の男性の間に座る制服姿の男子に声をかける。
「……興味ないですね」
男子は素っ気なく応え、スマホに視線を戻す。日焼けした青年が男子の顔を覗き込む。
「……なあ、どっかで会ったことある?」
「……気のせいでしょう」
男子はスマホから目を離さずに応える。そこに烏丸四季が入ってくる。八人は姿勢を正す。
「……今日は忙しい中ありがとう。初めに言っておくが、諸君らは合格者だ、おめでとう」
「⁉」
烏丸の発言に八人は目を丸くする。
「
「は、はい……!」
銀髪ロングヘアーが立ち上がる。
「ああ、座っていてかまわない」
烏丸が座るように促す。
「はい……」
雪と呼ばれた女性が座る。
「
「はい……」
冬光と呼ばれた男性がより姿勢を正す。緊張の為か、眼鏡の縁を数回触る。
「
「はい」
風と呼ばれた女性が自らの隣に立てかけた、ギターケースをさすりながら返事をする。
「
「は~い♪」
夏烈と呼ばれた日焼けした青年が右手を挙げて爽やかに返事をする。
「
「はい!」
月と呼ばれた女性が元気よく返事をする。ポニーテールが揺れる。
「
「へい!」
秋明と呼ばれた男性が、大声で返事をする。烏丸は一瞬ビクッとしたが、話を続ける。
「
「ひゃ、ひゃい!」
花と呼ばれたおさげ女子が返事をする。度を越えた緊張の為か、声が裏返ってしまう。
「
「はい」
春一と呼ばれた男子が落ち着いて返事をする。
「……今回のタレントオーディションだが、ある仕掛けをしている……」
「仕掛けでっか?」
月が首を傾げる。烏丸が頷く。
「ああ、自分で言うのもなんだが、烏丸四季の知名度を以ってしても、この芸能界、並びに広い世間では、このシャイニングプロダクションはまだまだ無名の芸能事務所でしかない」
「……」
「そこでだ……雪と冬光」
「あ、はい……」
「風と夏烈」
「ほ~い♪」
「月と秋明」
「はいな」
「そして、花と春一……」
「は、はい……?」
「君たちにはそれぞれ掟破りの〝男女デュオ〟のアイドルとして、芸能界へ殴り込みをかけてもらう」
「⁉」
「ええっ⁉」
烏丸の言葉に七人は揃って驚き、花は素っ頓狂な声を上げてしまうのであった。
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